定期的な身体活動としてウォーキングは有効か?
定期的な身体活動は、健康を増進・維持するための最も重要な行動の一つです。身体活動を継続して行うことは、心血管疾患、糖尿病、種々のがんなど、多くの疾患に対して健康上の大きなメリットをもたらし、生活の質も向上させることが報告されています(Physical Activity Guideline 2018)。一日あたりの歩数は、一日の総活動量を定量化するための有意義な指標であることが知られています(PMID: 28005190)。この指標はシンプルであり、ウェアラブル機器で簡単に測定できるため、集団全体の歩数をモニタリングする機会となりえます。しかし、身体活動に関するガイドラインでは、歩数を公衆衛生上の目標としていません。これは、歩数の量や強度と死亡率などの臨床結果との関連性を前向きに実証した研究が限られているためです(Physical Activity Guideline 2018)。
歩数と健康に関する前向き研究の多くは、高齢者を対象としていますが、ライフステージのより早期にあたる成人や人種的に多様な集団を対象とした研究はほとんどありません。Hallらによるシステマティックレビューでは、主に高齢者を対象に、機器で測定した歩数と全死亡率との間に有意な関連性が認められました(PMID: 32563261)。National Health and Nutrition Survey(NHANES)やNorwegian Physical Activity Surveillance Study(ノルウェー身体活動サーベイランス調査)では、これらの知見を中高年層にまで拡大しています(PMID: 32207799、PMID: 32427398)。
身体活動の強度が健康に重要であることを裏付ける科学的証拠に基づき、国の身体活動のガイドラインでは、少なくとも150分/週の中等度から高強度の身体活動が推奨されています(PMID: 30418471)。2021年にWangらが40万人以上の成人を対象に行った研究では、中強度から強強度の身体活動を積み重ねることが死亡率に影響することが示されました(PMID: 33226432)。さらに、Wangらは、中強度の活動よりも強度の活動の方が死亡率の低下が大きいことも明らかにしました(PMID: 33226432)。歩行強度が死亡リスクと関連するかどうかはまだ不明です。いくつかの疫学研究では、自分で定義した歩行ペースが死亡率と関連することが示唆されています(PMID: 22361996、PMID: 29020281)。
比較的新しい知見としては、歩数と死亡率に関する研究において、歩数の強さ(歩行ペースやケイデンス)ではなく、歩数(量)が死亡率と関連していることが報告されています(PMID: 32207799、PMID: 31141585)。中高年齢層の死亡率を歩数と歩幅の強度で比較した研究はありません。高齢者と若年者では、健康効果を得るために必要な強度が異なる可能性があるため、これらの研究は重要であると言えます(PMID: 33028588、PMID: 19516148)。
そこで今回は、黒人と白人の中年成人を対象に、約11年間の死亡率追跡調査を行ったCARDIA試験の一部の結果をご紹介します。本試験では、1日の歩数量を低(7,000歩/日 未満)、中(7,000~9,999歩/日)、高(10,000歩/日以上)に分類しています。
試験結果から明らかになったことは?
参加者集団の特徴は、平均(SD)年齢45.2(3.6)歳、女性1205人(57.1%)、黒人888人(42.1%)、中央値(四分位範囲[IQR])9,146(7,307〜11,162)歩/日でした。22,845人・年の追跡期間中、72人(3.4%)の死亡が確認されました。
死亡リスク vs. 低歩行群 | ハザード比 (95%CI) | リスク差 (95%CI) |
中程度の歩数群 | 0.28 (0.15〜0.54) | 53/1,000人 (27〜78) |
高歩数群 | 0.45 (0.25〜0.81) | 41/1,000人 (15〜68) |
多変量調整済みCox比例ハザードモデルを用いて、低歩数群の参加者と比較して、中程度の歩数群(ハザード比[HR] 0.28[95%CI 0.15〜0.54]、リスク差[RD] 53/1,000人[95%CI 27〜78]イベント)および高歩数群(HR 0.45[95%CI 0.25〜0.81]、RD 41/1,000人[95%CI 15〜68]イベント)では、死亡リスクが有意に低いことが示されました。
死亡リスク 中・高歩数群 vs. 低歩行群 | ハザード比(95%CI) |
黒人参加者 | 0.30(0.14〜0.63) |
白人参加者 | 0.37(0.17〜0.81) |
女性 | 0.28(0.12〜0.63) |
男性 | 0.42(0.20〜0.88) |
低歩数群と比較して、中・高歩数群は、黒人参加者(HR 0.30 [95%CI 0.14〜0.63])および白人参加者(HR 0.37 [95%CI 0.17〜0.81])において、死亡リスクの低減と関連していました。同様に、低歩数群と比較して、中・高歩数群では、女性(HR 0.28 [95%CI 0.12〜0.63])および男性(HR 0.42 [95%CI 0.20〜0.88])において、死亡リスクの低減と関連していました。
死亡リスク 最低層 vs. 最高層 | ハザード比(95%CI) |
30分間のピーク強度 | 0.98(0.54〜1.77) |
100歩/分以上の時間 | 1.38(0.73〜2.61) |
30分間のピーク強度(最低層 vs. 最高層:HR 0.98 [95%CI 0.54〜1.77])および100歩/分以上の時間(最低層 vs. 最高層:HR 1.38 [95%CI 0.73〜2.61])は、死亡リスクとの間に有意な関連は認められませんでした。
コメント
健康管理における歩数と歩数強度について、以前から関心がありました。この関心については人種に関係なく人類の共通の疑問であるように思われます。
さて、本試験結果によれば、1日7000歩以上の歩行は、7000歩/日未満と比較して、死亡リスクが低下することが示されました。また、30分間のピーク強度や1分間の歩数など、歩行強度については死亡リスクに影響していないようです。
そもそも7000歩以上の歩行が可能な集団で死亡リスクが低い可能性があるものの、歩行強度の影響がみられていないことから未知の交絡因子が残存している可能性が高いです。したがって、因果の逆転の可能性を否定することも困難です。とは言え、過去に報告された試験結果と矛盾はしません。1日の歩数目標としては1万歩であることをよく耳にしますが、あくまでも目安であり、目標設定は個々人で行った方が良いでしょう。
これまでの試験結果を考慮すると、(4000歩を下回らないように)7000〜8000歩を目標にした方が良いのかもしれません。アジア人、そして日本人でも同様の結果が得られるのかについて検証が待たれます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 平均年齢45.2歳の中年層において、約7,000歩/日以上の歩数の集団では、7,000歩/日未満の集団に比べて死亡率が低いかもしれない。一方、歩数強度と死亡率との関連は示されなかった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:1日あたりの歩数は、臨床現場や集団の中で身体活動を促進するための有意義な指標である。歩数目標の推進戦略を導くためには、死亡率を含む臨床エンドポイントと歩数の関連性を理解することが重要である。
目的:黒人および白人の男女を対象に、1日あたりの歩数と早発(41~65歳)の総死亡率との関連を推定する。
試験設計、設定および参加者:この前向きコホート研究は、Coronary Artery Risk Development in Young Adults(CARDIA)研究の一部である。参加者は38歳から50歳で、2005年から2006年にかけて加速度計(加速度センサーを内蔵した歩数計)を装着した。参加者は、平均(SD)10.8(0.9)年にわたって追跡された。データは2020年と2021年に解析された。
曝露:1日の歩数量を低(7,000歩/日 未満)、中(7,000~9,999歩/日)、高(10,000歩/日以上)に分類し、歩数強度を30分間のピーク歩数と100歩/分以上の時間に分類した。
主要アウトカムと測定法:総死亡率
結果:参加者集団の特徴は、平均(SD)年齢45.2(3.6)歳、女性1205人(57.1%)、黒人888人(42.1%)、中央値(四分位範囲[IQR])9,146(7,307〜11,162)歩/日であった。
22,845人・年の追跡期間中、72人(3.4%)が死亡した。多変量調整済みCox比例ハザードモデルを用いて、低歩数群の参加者と比較して、中程度の歩数群(ハザード比[HR] 0.28[95%CI 0.15〜0.54]、リスク差[RD] 53/1,000人[95%CI 27〜78]イベント)および高歩数群(HR 0.45[95%CI 0.25〜0.81]、RD 41/1,000人[95%CI 15〜68]イベント)では、死亡リスクが有意に低かった。
低歩数群と比較して、中・高歩数群は、黒人参加者(HR 0.30 [95%CI 0.14〜0.63])および白人参加者(HR 0.37 [95%CI 0.17〜0.81])において、死亡リスクの低減と関連していた。同様に、低歩数群と比較して、中・高歩数群では、女性(HR 0.28 [95%CI 0.12〜0.63])および男性(HR 0.42 [95%CI 0.20〜0.88])において、死亡リスクの低減と関連していた。
30分間のピーク強度(最低と最高の層:HR 0.98 [95%CI 0.54〜1.77])および100歩/分以上の時間(最低と最高の層:HR 1.38 [95%CI 0.73〜2.61])は、死亡リスクとの間に有意な関連はなかった。
結論と関連性:このコホート研究では、中年期の黒人および白人の男女において、約7,000歩/日以上の歩数の集団では、7,000歩/日未満の集団に比べて死亡率が低いことがわかった。歩数の強度と死亡率との関連は認められなかった。
引用文献
Steps per Day and All-Cause Mortality in Middle-aged Adults in the Coronary Artery Risk Development in Young Adults Study
Amanda E Paluch et al. PMID: 34477847 PMCID: PMC8417757 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2021.24516
JAMA Netw Open. 2021 Sep 1;4(9):e2124516. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2021.24516.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34477847/
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