東アジア人における睡眠時間と死亡率の関係性は?
睡眠時間の長さは、死亡率の重要な行動危険因子として注目されています。前向き研究のメタアナリシス(PMID: 20469800、PMID: 19645960、PMID: 26888725、PMID: 28889101、PMID: 26900147、PMID: 27067616)では、短時間および長時間の睡眠が全死亡率と関連することが示されています。メタアナリシスから得られた強力なエビデンスにもかかわらず、考慮すべきいくつかの限界があります(PMID: 23622956)。メタアナリシスに含まれる個々の研究は、追跡期間や交絡因子の選択が異なり、睡眠時間の長さを構成する定義も不均一です。また、長時間睡眠と死亡率との関連性は、北米や欧州の集団よりも東アジアの集団の方が強い可能性が報告されています(PMID: 20469800)。
さらに、睡眠時間と死亡率との関連性は、集団のサブグループ間で異なる可能性があります。個々の研究では、性別(PMID: 27067616、PMID: 18714780)および年齢によって異なる睡眠時間による死亡リスクがすでに強調されています(PMID: 27067616、PMID: 18714780、PMID: 28856478)。しかし、東アジアの集団では、BMI(体重kg÷身長m2)は、睡眠時間(PMID: 18517032)だけでなく、心血管疾患(CVD)やがんの死亡率(PMID: 21345101)と関連しているため、睡眠時間と死亡率との関連の交絡因子または修飾因子としても考慮されるべきです。
これまで、主に健康な集団を対象に、BMIによって分析結果を層別化した研究はありません。
そこで今回は、東アジアの健康な集団において、睡眠時間と全死因および主要死因死亡率との性特異的な関連について、個人レベルのデータをプール分析を行った試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
参加者322,721例(平均[SD]年齢54.5[9.2]歳、女性178,542例[55.3%])のうち、男性では19,419例(平均[SD]年齢53.6[9.0]歳)、女性では13,768例(平均[SD]年齢55.3[9.2]歳)が死亡しました。
睡眠時間が7時間の場合、男女ともに全死亡、心血管疾患、その他の原因による死亡との関連性は最下点となり、8時間の場合は男性では最頻値、女性では2番目に多い睡眠時間となりました。睡眠時間と全死亡率との関連は、男女ともにJ字型でした。
全死亡率との関連が最も高かったのは、男性(ハザード比 1.34、95%CI 1.26〜1.44)、女性(HR 1.48、95%CI 1.36〜1.61)ともに、睡眠時間が10時間以上の場合でした。性別は、睡眠時間と心血管疾患による死亡率(χ25=13.47、P=0.02)、がん(χ25=16.04、P=0.007)、その他の原因による死亡率(χ25=12.79、P=0.03)との関連性を有意に修飾しました。
年齢は、男性のみにおいて、関連性の有意な修飾因子でした(全死亡:χ25=41.49、P<0.001、がん:χ25=27.94、P<0.001、その他の原因による死亡:χ25=24.51、P<0.001)。
コメント
以前から睡眠時間と死亡リスクとの関連性が報告されています。また、長時間睡眠と死亡率との関連性は、北米や欧州の集団よりも東アジアの集団の方が強い可能性が報告されている背景もあり、今回の試験が行われました。
本コホート研究の結果、これまでの報告と同様に睡眠時間が7時間より長い10時間で、死亡リスクとの関連性が認められました。あくまでも相関関係ではありますが、睡眠時間が多いほど死亡リスク増加と関連していることは興味深いです。交絡因子としては年齢や嗜好品、既往歴、試験参加者の状態(寝たきりなど)が考えられますが、年齢については、男性でのみ就職因子としての影響が認められました。一方、嗜好品や既往歴に大きな偏りはみられません(原著のtable 1で有意差がついていますが、数値としては大きな偏りがないと判断しました)。強いてあげるとすれば、10時間以上睡眠をとる集団で喫煙者が多いぐらいでしょうか。試験参加者の状態については不明ですが、ベースライン時にがんまたはCVDの既往歴を自己申告している参加者(n=26,490)、追跡調査の最初の5年間に死亡した参加者(n=10,108)が除外されているため、大きな問題はないように考えられます。
東アジア集団を対象とした試験として、貴重な報告であると考えます。続報に期待。
✅まとめ✅ 東アジアにおけるコホート研究において、睡眠時間は男女ともに死亡率の行動的リスク因子であることが示唆された。睡眠時間7時間と比較して、10時間で最も死亡リスクとの関連が高かった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:長い睡眠時間と死亡率との関連は、北米や欧州の集団よりも東アジアの集団の方が強いようである。
目的:プールされた縦断的コホートにおいて、睡眠時間と全死因および主要な死因による死亡率との間の性別特異的な関連性を評価し、その関連性を年齢および肥満度で層別すること。
試験デザイン、設定および参加者:アジアコホートコンソーシアムの9つのコホートにおける個人レベルのデータを用いたこのコホート研究は、1984年1月1日から2002年12月31日まで行われた。最終的には、日本、中国、シンガポール、韓国の参加者が対象となった。平均(SD)追跡期間は、男性が14.0(5.0)年、女性が13.4(5.3)年でした。データ解析は2018年8月1日から2021年5月31日まで行われた。
曝露:7時間を基準区分とした自己申告の睡眠時間。
主要アウトカムと測定法:死亡率(全死因、心血管疾患、がん、その他の原因による死亡を含む)。年齢と、自己申告による主要共変量である配偶者の有無、肥満度、喫煙状況、飲酒、身体活動、糖尿病・高血圧の既往歴、更年期の有無(女性)を調整した共有フレイルモデルを用いたCox比例ハザード回帰により、性別ごとのハザード比(HR)と95%CIを推定した。
結果:参加者322,721例(平均[SD]年齢54.5[9.2]歳、女性178,542例[55.3%])のうち、男性では19,419例(平均[SD]年齢53.6[9.0]歳)、女性では13,768例(平均[SD]年齢55.3[9.2]歳)が死亡した。
睡眠時間が7時間の場合、男女ともに全死亡、心血管疾患、その他の原因による死亡との関連性は最下点となり、8時間の場合は男性では最頻値、女性では2番目に多い睡眠時間となった。
睡眠時間と全死亡率との関連は、男女ともにJ字型であった。
全死亡率との関連が最も高かったのは、男性(ハザード比 1.34、95%CI 1.26〜1.44)、女性(HR 1.48、95%CI 1.36〜1.61)ともに、睡眠時間が10時間以上の場合だった。性別は、睡眠時間と心血管疾患による死亡率(χ25=13.47、P=0.02)、がん(χ25=16.04、P=0.007)、その他の原因による死亡率(χ25=12.79、P=0.03)との関連性を有意に修飾した。年齢は、男性のみにおいて、関連性の有意な修飾因子であった(全死亡:χ25=41.49、P<0.001、がん:χ25=27.94、P<0.001、その他の原因による死亡:χ25=24.51、P<0.001)。
結論と関連性:このコホート研究の結果から、睡眠時間は男女ともに死亡率の行動的な危険因子であることが示唆された。年齢は、男性では睡眠時間との関連性の修飾因子であったが、女性ではそうではなかった。これらの集団における睡眠時間の推奨は、性別や年齢との関連を考慮する必要があるかもしれない。
引用文献
Association of Sleep Duration With All- and Major-Cause Mortality Among Adults in Japan, China, Singapore, and Korea
Thomas Svensson et al. PMID: 34477853 PMCID: PMC8417759 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2021.22837
JAMA Netw Open. 2021 Sep 1;4(9):e2122837. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2021.22837.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34477853/
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