Efficacy and safety of HIF prolyl-hydroxylase inhibitor vs epoetin and darbepoetin for anemia in chronic kidney disease patients not undergoing dialysis: A network meta-analysis
Qiyan Zheng et al.
Pharmacol Res. 2020 Sep;159:105020. doi: 10.1016/j.phrs.2020.105020. Epub 2020 Jun 16.
Keywords: Anemia; Chronic kidney disease; Darbepoetin; Epoetin; HIF prolyl-hydroxylase inhibitors; Non-dialysis.
背景
低酸素誘導性因子プロリルヒドロキシラーゼ阻害薬(HIF-PHIs)は、慢性腎臓病(CKD)患者の貧血治療のために開発されている新しいクラスの経口薬である。
本研究では、透析を受けていない貧血を有するCKD患者を対象に、HIF-PHIとエポエチン、ダルベポエチンの有効性と安全性を比較することを目的とした。
方法
透析を受けていない貧血を有するCKD患者を対象に、透析を受けていないCKD患者を治療するための異なる薬剤(6種類のHIF-PHI、エポエチン、ダルベポエチン、プラセボ)を調査したランダム化比較試験について、PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Science、clinicaltrials.govの各データベースを開始から2019年10月まで検索した。
アウトカムには、ヘモグロビン(Hb)値の変化と全死亡率が含まれた。
結果
・合計19件の研究が含まれた。
・プラセボと比較して、バダデュスタット(平均差 1.12、95%信頼区間[CI] -0.11~2.35)を除き、他の薬剤はHb値を有意に上昇させた。
★各薬剤とプラセボとの平均差
Desidustat(本邦未承認) :2.46(95%CI 0.93~3.99)
エナロデュスタット(エナロイ®️) :1.81(0.87~2.75)
ダプロデュスタット(ダーブロック®️):1.55(0.74~2.36)
モリデュスタット(マスーレッド®️) :1.68(0.64~2.72)
ロキサデュスタット(エベレンゾ®️) :1.61(0.99~2.22)
エポエチン(エポジン®️) :1.66(0.89~2.44)
ダルベポエチン(ネスプ®️) :1.63(0.69~2.56)
・これら8剤間のHb値上昇に差は認められなかった。
・また、プラセボと比較しても、各薬剤と全死亡率との間に有意な関連は認められなかった。
★プラセボに対する各薬剤のRR
Desidustat(本邦未承認) :0.34(0.01〜17.00)
エナロデュスタット(エナロイ®️) :0.33(0.01〜16.25)
ダプロデュスタット(ダーブロック®️):0.54(0.09〜3.31)
モリデュスタット(マスーレッド®️) :0.39(0.06〜2.59)
ロキサデュスタット(エベレンゾ®️) :0.40(0.06〜2.84)
エポエチン(エポジン®️) :0.50(0.18〜1.42)
ダルベポエチン(ネスプ®️) :1.03(0.65〜1.65)
・全死亡率については、各薬剤間で差は認められなかった。
結論
これらのHIF-PHIsは、透析を受けていないCKD患者の貧血治療に有効であり、比較的忍容性が高いことが示された。
今後の研究では、臨床現場におけるこれらHIF-PHIsの価値を評価するために、本研究の限界を考慮すべきである。
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背景
HIF-PH阻害薬は近年、注目度の高い腎性貧血治療薬である。腎性貧血の治療については、これまでエリスロポエチン産生刺激薬(ESA製剤)あるいは鉄補充が行われてきました。しかし、鉄補充あるいはESAに低反応性の患者集団が一定数認められ、これらの患者集団では死亡リスクが高く、予後不良であることが報告されています。また、あくまでも相関関係が示されているに過ぎませんが、ESAの高用量を長期間使用することで心血管イベントが増加することも報告されており、新たな治療戦略が求められています。
ESA製剤の課題
- 注射剤であるため、保存期CKD患者にとっては通院と注射時痛が負担となる
- ESA低反応性の患者に対して、高用量を長期間使用しなければならない場合があり、治療コスト増加や予後の安全性について懸念が残る
- 脳血管系・心血管系のイベント発生率および死亡率が上昇する可能性が報告されている
HIF-PH阻害薬とは?
人体の生命維持のために酸素は欠かせません。そのため、酸素濃度が薄い状態である低酸素時に、様々な因子が働き、低酸素状態を改善しようとします。
Hypoxia-Inducible Factors(HIF)は、低酸素状態に対する人体の応答を適度に調節することで、血管新生を促すとともに、好気性代謝を低下これに伴う嫌気性代謝を亢進させる役割を果たす生体内因子です。酸素濃度が正常範囲内であれば、HIFはプロリルヒドロキシラーゼ(HIF-PH)によって速やかに代謝されます。一方、酸素濃度が低くなると、HIF-PHの酵素活性が低下するためにHIFが分解されず、蓄積したHIFがエリスロポエチン(EPO)の分泌を刺激し、鉄の取り込みを増やすことで、赤血球の成熟を促します。
したがって、低酸素となる貧血状態を改善するためには、赤血球の成熟を促せば良いことになります。しかし、赤血球の成熟を促すためには、HIFによるEPO分泌刺激が必要であり、これを低酸素の程度が低い状態から実現するためには、HIF-PHを阻害する必要があると考えられます。また低酸素、つまり虚血状態が持続した後に、虚血状態が緩和すると、血管内皮細胞のダメージとなり、血管伸縮の可塑性が損なわれたり、血栓塞栓リスクの増加が報告されています。
以上のことから、HIF-PH阻害薬は貧血の新たな治療法になる可能性があり、虚血・再灌流障害によるダメージを防ぐことができると考えられています。
本試験結果から明らかになったこととは?
これまで、本邦では5種類のHIF-PH阻害薬が販売されており、有効性・安全性については、プラセボあるいは既存の標準治療薬であるESA製剤との比較が行われています。しかし、HIF-PH阻害薬間の比較(Head to Head)は実施されていません。
今回の臨床試験は、RCTのネットワークメタ解析を実施しており、HIF-PH阻害薬間及びESA製剤との比較検討を行っています。
さて、本試験結果によれば、desidustat(本邦未承認)、エナロデュスタット(エナロイ®️)、ダプロデュスタット、モリデュスタット(マスーレッド®️)、ロキサデュスタット(エベレンゾ®️)、エポエチン(エポジン®️)、ダルベポエチン(ネスプ®️)において、Hb値上昇および全死亡率に差は認められませんでした。
本試験の内的妥当性まで検討できていませんが、今のところ、HIF-PH阻害薬が既存薬より優れているという臨床試験の報告はありません。標準治療に対しては、すベて非劣性までしか示されていないため、当然の結果ではありますが、少なくとも保存期CKD患者に対するHIF-PH阻害薬は、ESA製剤に劣っていないようです。
現状、HIF-PH阻害薬は、ESA低反応性あるいはESA製剤に対して許容できない副作用を示す患者が対象となりそうです。今後は、どのような患者でより利益が最大化するのか、新たな安全性の懸念はないのか等の情報集積が求められます。
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