Estimating Lifetime Benefits of Comprehensive Disease-Modifying Pharmacological Therapies in Patients With Heart Failure With Reduced Ejection Fraction: A Comparative Analysis of Three Randomised Controlled Trials
Muthiah Vaduganathan et al.
Lancet. 2020 May 21;S0140-6736(20)30748-0. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30748-0. Online ahead of print.
PMID: 32446323
DOI: 10.1016/S0140-6736(20)30748-0
Funding: None.
背景
3種類の薬物(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 [mineralocorticoid receptor antagonists, MRAs]、アンジオテンシン受容体ネプリリシン阻害薬 [angiotensin receptor-neprilysin inhibitors, ARNIs]、ナトリウム/グルコースコトランスポーター2 [sodium/glucose cotransporter 2, SGLT2] 阻害薬)は、アンジオテンシン変換酵素[angiotensin-converting enzyme, ACE] 阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬[angiotensin receptor blockers, ARBs]とβ遮断薬からなる従来の治療法を超えて、駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者の死亡率を低下させる。
それぞれのクラスは異なる背景療法を用いて以前に研究されており、それらを併用した場合に期待される治療効果は不明であった。ここでは、以前に報告された3つのランダム化比較試験のデータを用いて、慢性HFrEF患者における包括的治療と従来の治療との併用によるイベントフリー生存期間と全生存期間の向上を推定した。
方法
このクロストライアル解析では、EMPHASIS-HF(n=2,737)、PARADIGM-HF(n=8,399)、DAPA-HF(n=4,744)の3つのピボタル試験を間接比較することにより、慢性HFrEF患者における包括的な疾患修飾薬理学的治療(ARNIs、β遮断薬、MRAs、SGLT2阻害薬)と従来の治療(ACE阻害薬またはARB、β遮断薬)の治療効果を推定した。
主要エンドポイントは心血管死または心不全による初回入院の複合体であった。これらのエンドポイントを個別に評価し、全死亡についても評価した。
これらの相対的な治療効果が経時的に一貫していると仮定して、EMPHASIS-HF試験の対照群(ACE阻害薬またはARB、β遮断薬)における包括的な疾患修飾療法により、イベントフリー生存期間と全生存期間が長期的に増加したと予測した。
所見
・主要エンドポイントである心血管系の死亡または心不全による入院について、包括的疾患修飾療法と従来療法を比較した場合の集計治療効果を推定したハザード比(HR)は0.38(95%CI 0.30〜0.47)であった。
・また、心血管死単独(HR =0.50[95%CI 0.37〜0.67])、心不全単独の入院(0.32[0.24〜0.43])、全死亡(0.53[0.40〜0.70])についても、HRは良好であった。
・包括的な疾患修飾薬理学的治療を行うことで、従来の治療と比較して、心血管疾患による死亡または心不全による初入院において、2.7年(80歳の場合)から8.3年(55歳の場合)の生存期間が延長され、1.4年(80歳の場合)から6.3年(55歳の場合)の生存期間が延長されると推定された。
結果の解釈
HFrEF患者において、早期の包括的な疾患修飾薬理学的治療による治療効果が期待され、ARNIs、β遮断薬、MRAs、SGLT2阻害薬の併用が新たな治療標準として支持される。
コメント
心不全治療は、ここ10年で様変わりしています。様々な薬剤が用いられ、症状の緩和だけでなく生存期間の延長も認められています。
さて、本研究では、従来の標準治療薬であるACE阻害薬/ARB+β遮断薬の併用と比較して、比較的新しい治療薬であるARNIs+β遮断薬+MRAs+SGLT2阻害薬の併用は、生存期間を延長させました。
- 心血管死または心不全による入院:ハザード比(HR)=0.38、95%CI 0.30〜0.47
- 心血管死:HR =0.50、95%CI 0.37〜0.67
- 心不全による入院:HR =0.32、95%CI 0.24〜0.43
- 全死亡:HR =0.53、95%CI 0.40〜0.70
ただし、本研究はランダム化比較試験3件を組み入れただけですので、外的妥当性は低いかもしれません。今後の研究結果に注目したいところです。
また、他のメタ解析の結果では、心不全の予後延長において、ARBおよびイバブラジンは効果が認められませんでした。したがって、ACE阻害薬とARBをまとめて解析しない方が良いと考えます。
コメント
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