急性外傷性脳損傷におけるトラネキサム酸注射液の効果はどのくらいですか?(RCT; CRASH-3 trial; Lancet 2019)
Effects of tranexamic acid on death, disability, vascular occlusive events and other morbidities in patients with acute traumatic brain injury (CRASH-3): a randomised, placebo-controlled trial.
CRASH-3 trial collaborators
Lancet. 2019.
FUNDING: National Institute for Health Research Health Technology Assessment, JP Moulton Charitable Trust, Department of Health and Social Care, Department for International Development, Global Challenges Research Fund, Medical Research Council, and Wellcome Trust (Joint Global Health Trials scheme).
PMID: 31623894
【背景】
トラネキサム酸は、外科的出血を減少させ、外傷性頭蓋外出血患者の死亡率を低下させる。頭蓋内出血は、外傷性脳損傷(traumatic brain injury, TBI)後によく見られ、脳ヘルニアや死を引き起こす可能性がある。TBI患者におけるトラネキサム酸の効果を評価することを目指した。
【方法】
本ランダム化プラセボ対照試験は、29ヵ国の病院175施設で実施された。
傷害から3時間以内のTBI成人は、Glasgow Coma Scale (GCS)スコアが12以下であるか、CTスキャンで頭蓋内出血があり、頭蓋外出血は認められなかった。
適格性の時間枠はもともと8時間だったが、2016年にプロトコルが変更され、負傷から3時間以内の患者への募集が制限された。この変更は、遅延した治療が効果的である可能性が低いことを示唆する外部のエビデンスに応じて、試験データに対して盲検化された。
トラネキサム酸(負荷量1 gを10分かけて静脈注入し、さらに8時間かけて1 gを注入)またはプラセボを投与するように、ランダムに(1:1)患者を割り当てた。
患者は、パック番号以外は同一である8つのパックを含むボックスから番号付きの治療パックを選択することにより割り当てられた。
患者、介護者、および結果を評価する人々は、割り当てが分からないようマスクされた。
主なアウトカムは、負傷から3時間以内に治療された患者における負傷から28日以内の病院での頭部外傷関連死亡とした。
感度分析を実施するにあたり、事前にGCSスコアが3の患者と、ベースラインでの両側の非反応性瞳孔の患者を除外することとした。
すべての分析は、Intention-To-Treatで行われた。
本試験は、ISRCTN(ISRCTN15088122)、ClinicalTrials.gov(NCT01402882)、EudraCT(2011-003669-14)、およびPan African Clinical Trial Registry(PACTR20121000441277)に登録された。
【結果】
・2012年7月20日から2019年1月31日の間に、TBI患者12,737人をランダムにトラネキサム酸(6,406 人[50,3%])またはプラセボ(6,331 人[49.7%])に割り付けた。12,737人のうち9,202人(72.2%)の患者は負傷から3時間以内に治療された。
・3時間以内に治療された患者のうち、頭部外傷に関連する死亡リスクは、トラネキサム酸群で18.5%、プラセボ群で19.8%であった( イベント数:855 vs. 892、リスク比[RR] 0.94 [95%CI 0.86〜1.02])。
・GCSスコアが3の患者またはベースラインの両側非反応性生徒を除外した事前指定の感度分析では、頭部外傷に関連した死亡リスクの割合は、トラネキサム酸群で12.5%、プラセボ群で14.0%だった(イベント数:485 vs. 525、RR =0.89 [95%CI 0.80〜1.00])。
・軽度から中等度の頭部外傷の患者では、トラネキサム酸により頭部外傷関連死のリスクが低下した(RR =0.78 [95%CI 0.64〜0.95])が、重度の頭部外傷ではリスク低下が認められなかった(0.99 [95%CI 0.91〜1.07]; 不均一性のp値 =0.030)。
・軽度および中等度の頭部外傷の患者では早期治療が後期治療よりも効果的であったが(p =0.005)、重度の頭部外傷の患者では治療までの時間と効果との関連性は認められなかった(p =0.73)。
・血管閉塞イベントのリスクは、トラネキサム酸群とプラセボ群で同様だった(RR =0.98, 0.74〜1.28)。
・てんかん発作リスクも群間で同様だった(1.09 [95%CI 0.90 〜1.33])。
【結果の解釈】
本研究結果からトラネキサム酸はTBI患者において安全に使用でき、損傷後3時間以内の治療が頭部外傷に関連した死亡を減らすことを示している。患者は負傷後できるだけ早く治療する必要がある。
【コメント】
アブストのみ。
試験に用いられた用量 1g + 1g/日は、日本でも使用できる用量だった。
さて、プライマリーアウトカムに差は認められなかったが、事前に設定した感度分析では、死亡リスク低下の可能性が示唆され、かつ早期に治療された軽度〜中等度の患者においては、有意な死亡リスク低下が認められた。
副作用やコストの観点からみても、トラネキサム酸注射液による治療を考慮しても差し支えないのではないかと考えられる。
自分が対象患者だったら使って欲しいかな。
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