慢性腎臓病(CKD)は「進行を遅らせる時代」から「寛解をめざす時代」へ|治療パラダイムの変化(Kidney Int. 2025)

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CKDの治療パラダイムの変化とは?

慢性腎臓病(CKD)は、これまで「進行を少しでも遅らせる」という消極的な治療目標が主流でした。しかし近年、複数の大規模試験の成果により、CKDでも “寛解(remission)” が現実的な治療目標になりつつあると報告されています。

Kidney International(2025)に掲載された最新レビューでは、
eGFRの長期安定化尿蛋白の正常化 といった「腎機能の維持そのもの」を実現しうる治療が登場し、腎臓内科の治療観が大きく変わりつつあると論じられています。


背景:CKDの治療はどのように変わったのか

従来のCKD治療は、

  • 高血圧の管理
  • 糖尿病コントロール
  • RAS阻害薬による腎保護
    といった「悪化スピードを落とす」アプローチが中心でした。

しかし近年、以下の薬剤クラスの確立により、状況が大きく変化しました:

■ SGLT2阻害薬

糖尿病・非糖尿病を問わずeGFR低下を抑制し、腎予後を改善。

■ 非ステロイド性MRA(例:フィネレノン)

尿蛋白の改善と腎イベント抑制を示すエビデンスが蓄積。

■ GLP-1受容体作動薬

心腎保護作用を示すデータが増加し、CKD領域での位置づけが強化。

■ IgA腎症に対する標的型免疫療法

新規薬剤により尿蛋白の正常化(完全寛解)を達成する症例が増加。

これらの成果から、CKD治療は 「進行抑制」から「積極的な腎機能維持・寛解」 へと大きく舵を切っています。


“寛解(remission)”とは何か

論文では、CKDの寛解を以下のように定義しています:

✔ eGFRの低下速度(スロープ)が

年間 1mL/min/1.73m² 未満

または

✔ 尿蛋白(アルブミン尿)が正常化し、eGFRも正常に保たれる状態

これらは、従来では達成が難しいと考えられていた指標です。しかし現在では 早期介入・治療の組み合わせ により、十分に現実的な目標になりつつあります。


寛解をめざすために重要なポイント

1. 早期発見(population-based screening)

CKDの多くは無症状で進行するため、スクリーニングの重要性が強調されています。

2. リスク層別化

  • 糖尿病
  • アルブミン尿の増加
  • 高血圧
    などのリスクを評価し、早期に治療へつなげる。

3. ガイドライン推奨治療の確実な導入

複数薬剤の「組み合わせ治療」が鍵となります。

4. 治療目標の再定義

従来の “悪化を遅らせる” ではなく
→ “腎臓を健康に維持し、寛解させる”
という前向きな治療思想へ。


今後の展望

論文では「CKD治療の成功は寛解であるべき」という明確なメッセージが掲げられています。
特に、

  • 大規模スクリーニングの普及
  • 適切な患者層別化の標準化
  • 早期からの多剤併用治療
  • 最新のエビデンスを日常診療に落とし込むこと

が、患者全体の腎予後改善に重要であると指摘されています。


まとめ

  • CKD治療は「進行抑制」から「寛解をめざす時代」へ移行している
  • 寛解は eGFRの安定化(年間スロープ <1mL/min/1.73m² または 尿蛋白正常化 で定義
  • SGLT2阻害薬・非ステロイド性MRA・GLP-1RA・IgA腎症向け免疫療法が大きく貢献
  • 早期発見と治療の組み合わせが寛解の鍵
  • CKDの治療成功基準は「腎機能の維持」へと再定義されつつある

CKDはもはや「悪くなるのを見守る疾患」ではありません。
寛解を目指す積極的治療へ――これが新しい腎臓内科の標準となりつつあります。

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✅まとめ✅ 慢性腎臓病における成功を再定義する時が来ている。

根拠となった試験の抄録

慢性腎臓病治療における近年の進歩は、臨床パラダイムを、避けられない進行の遅延から達成可能な寛解へと変化させました。ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬、およびIgA腎症に対する標的免疫療法を含む画期的な試験は、持続的な推定糸球体濾過量の維持とアルブミン尿の正常化が、糖尿病性腎疾患および糸球体腎疾患のいずれにおいても現実的な目標であることを実証しています。推定糸球体濾過量勾配が1ml/min/1.73m2/年未満、またはアルブミン尿がなく推定糸球体濾過量が正常である状態と定義される寛解は、特に早期発見と併用療法によってますます達成可能となっています。これらの知見は、腎臓病学の治療の焦点を進行遅延から腎臓の健康維持へと転換することを促すものであると考えています。この機会を拡大するには、集団ベースのスクリーニング、リスク層別化、そしてガイドラインに基づいた治療の実施が不可欠です。慢性腎臓病における成功を再定義する時が来ています。寛解は可能であるだけでなく、私たちの標準的な治療とならなければなりません。

キーワード: アルブミン尿、慢性腎臓病、糸球体濾過率

引用文献

From progression to remission: a new paradigm for success in chronic kidney disease
Navdeep Tangri et al. PMID: 41205673 DOI: 10.1016/j.kint.2025.10.004
Kidney Int. 2025 Nov 6:S0085-2538(25)00847-6. doi: 10.1016/j.kint.2025.10.004. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41205673/

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