無礼な言動(rudeness)の影響は?
日常診療において、医療者間のコミュニケーションは患者安全の根幹を支えています。ところが近年「無礼な言動(rudeness)」が医療チームのパフォーマンスに悪影響を与える可能性が指摘されてきました。
今回ご紹介する研究は、新生児集中治療室(NICU)チームを対象としたランダム化比較試験です。ただ1回の「軽度の無礼な発言」が、診断能力・処置能力にどれほど影響するかを検証したものです。
試験結果から明らかになったことは?
◆背景
医療現場では、チーム全体での協力・情報共有が欠かせません。しかし、無礼な発言や態度は心理的ストレスを引き起こし、パフォーマンス低下につながる可能性があります。
これまでの研究は観察的なものが多く、因果関係を明確に検証した研究は限られていました。
本研究は、無礼さの影響をランダム化比較試験として評価した点で注目されるものです。
研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | ランダム化・並行群・シミュレーション試験 |
| 対象 | NICUチーム 24組 |
| 介入 | ・無礼群:外国人専門家が「軽度の無礼なコメント」を発言(チームのパフォーマンスとは無関係) ・対照群:中立的なコメントのみ |
| 評価方法 | シミュレーションを3名の評価者が動画で盲検評価 |
| アウトカム | 診断パフォーマンス、処置パフォーマンス、情報共有、ヘルプシーク(助けを求める行動) |
◆試験結果
1. 診断・処置パフォーマンス
| 項目 | 無礼群 | 対照群 | p値 |
|---|---|---|---|
| 診断パフォーマンス | 2.6 | 3.2 | 0.005 |
| 処置パフォーマンス | 2.8 | 3.3 | 0.008 |
➡ 無礼なコメントを受けたチームは、診断能力・処置能力がどちらも有意に低下。
2. 無礼さが説明するパフォーマンス低下の割合
- 診断パフォーマンス:約12%の分散を説明
- 処置パフォーマンス:同じく約12%
➡ 1回の軽度な無礼が、独立してチーム能力に影響を与えたことを示唆。
3. 影響の媒介因子(メディエーター)
| パフォーマンス低下 | 媒介した因子 |
|---|---|
| 診断パフォーマンス | 情報共有の低下 |
| 処置パフォーマンス | ヘルプシーク(助けを求める行動)の低下 |
➡ 無礼な言動は、
- 「情報を共有しようとする姿勢」
- 「助けを求める行動」
を阻害し、それがチームの判断力・処置能力の低下につながる。
試験の限界
- シミュレーション環境であり、実際の臨床現場に完全に一般化できるとは限らない。
- 無礼さの程度は「軽度」であり、より強い無礼・継続的なハラスメントでは影響が異なる可能性がある。
- 各チームの個人特性(性格や経験年数)は完全には調整できていない。
今後の検討課題
- 実臨床でのパフォーマンスデータを用いた検証(ただし、倫理的に実施困難と考えられる。NICUでは1つの判断ミスが患者転帰の増悪に直結する)
- 無礼さの影響を軽減する介入(例:コミュニケーション研修、チームリフレクション)の効果研究
- 異職種チームに拡大した検証(救急・外科・ICUなど)
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◆まとめ
本研究のポイント:
- 軽度の無礼な発言がNICUチームの診断・処置能力を有意に低下させた
- 影響は主に情報共有の低下とヘルプシークの阻害によって媒介された
- チーム医療において、心理的安全性は診断精度・手技の質に直結する
これらの結果は、医療現場でのコミュニケーション改善の重要性を改めて示すものです。
「たった一言」が患者アウトカムを左右する可能性は、決して小さくありません。
医療従事者の前に “人” であることを忘れてはいけません。今回はNICUのシミュレーションですが、他の状況においても同様の効果が示されると考えられます。
どのような職場づくりをするのか、責任者や管理者だけでなく、個々人が意識し、他者に配慮した言動を心がけることが求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ シュミレーションベースのランダム化比較試験の結果、軽度の無礼な態度は、NICUチームメンバーの診断および処置パフォーマンスに悪影響を及ぼした。情報共有は無礼な態度が診断パフォーマンスに及ぼす悪影響を媒介し、援助要請は無礼な態度が処置パフォーマンスに及ぼす影響を媒介した。
根拠となった試験の抄録
背景と目的: 医原病(医療行為が原因で生ずる疾患)は、医療チームメンバーのパフォーマンス不足に起因することが多い。チームを標的とした無礼な態度がこうしたパフォーマンス不足の根底にある可能性があり、無礼な態度にさらされたメンバーは、より協力的で、より協力的でなくなる可能性がある。本研究の目的は、無礼な態度が医療チームのパフォーマンスに与える影響を調査することであった。
方法: 24のNICUチームが、壊死性腸炎により容態が急激に悪化した早産児を対象とした訓練シミュレーションに参加した。参加者には、医療におけるチームリフレクシビティに関する外国人専門家が観察を行うことが伝えられた。チームは、無礼な発言に晒されるグループ(専門家の発言には、チームのパフォーマンスとは全く関係のない、やや失礼な発言が含まれる)と、中立的な発言に晒されるグループ(中立的な発言)に無作為に割り付けられた。録画されたシミュレーションセッションは、3名の独立した審査員(チームの無礼な発言に晒されることを知らされていない)によって評価され、構造化された質問票を用いてチームのパフォーマンス、情報共有、および援助要請が評価された。
結果: 無礼な態度にさらされたチームのメンバーは、無礼な態度にさらされていないチームのメンバーよりも、診断および手続きパフォーマンスの総合スコアが低かった(それぞれ2.6 vs 3.2 [P = .005]、2.8 vs 3.3 [P = .008])。無礼な態度のみで、診断および手続きパフォーマンスの分散の約12%を説明できた。無礼とチームパフォーマンスを結びつける媒介因子として情報共有と援助要請を規定したモデルは、診断および手続きパフォーマンスの分散のさらに大きな部分を説明できた(それぞれR(2) = 52.3、42.7)。
結論: 無礼な態度は、NICUチームメンバーの診断および処置パフォーマンスに悪影響を及ぼした。情報共有は無礼な態度が診断パフォーマンスに及ぼす悪影響を媒介し、援助要請は無礼な態度が処置パフォーマンスに及ぼす影響を媒介した。
引用文献
The Impact of Rudeness on Medical Team Performance: A Randomized Trial
Arieh Riskin et al. PMID: 26260718 DOI: 10.1542/peds.2015-1385
Pediatrics. 2015 Sep;136(3):487-95. doi: 10.1542/peds.2015-1385. Epub 2015 Aug 10.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26260718/

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