鼻出血が多い時期と地域は?
■ 導入
鼻出血は日常的によくみられる症状ですが、その治療には「ガーゼパッキング」と「焼灼(cauterization)」という2つの主要な方法が使われます。
しかし、これらの治療がどの季節に多いのか、どの年代で多いのか、地域差はあるのかといった全国的な傾向は、これまで詳細に解析されていませんでした。
今回ご紹介するのは、日本の全国レセプトデータ(National Database: NDB)を用いて、2019〜2022年度における鼻出血治療の実態を明らかにした研究です。鼻出血治療の「季節性・年齢分布・男女差・地域差」を示した初の全国規模分析となっています。
試験結果から明らかになったことは?
■ 研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 全国保険請求データ(NDB)を用いた記述的観察研究 |
| 対象期間 | 2019〜2022年度 |
| 解析対象 | 2つの治療手技 ① ガーゼパッキング(hemostasis with gauze packing) ② 焼灼(cauterization) |
| 評価指標 | 月別件数、年齢層、性別、都道府県別件数、標準化請求比(SCR) |
| 目的 | 鼻出血治療の全国的なパターンと地域差を可視化 |
■ 結果:鼻出血治療の特徴
1. 全体件数
| 治療手技 | 期間中の総件数 |
|---|---|
| ガーゼパッキング | 870,819件 |
| 焼灼(止血術) | 523,591件 |
2. 季節性:冬にピーク
| 季節 | 傾向 |
|---|---|
| 冬(12〜2月) | 両手技が最も多い(ピーク) |
| 春〜秋 | 比較的少ない |
鼻出血の季節変動は古くから指摘されていますが、本研究は全国規模でも一貫して冬季に増加することを示しました。
3. 年齢分布:子どもと高齢者の二峰性(バイモーダル)
| 年齢層 | 傾向 |
|---|---|
| 小児 | 発症多い/ガーゼパッキングを選択されやすい |
| 高齢者 | 男女差が目立つ |
小児の鼻出血は前鼻出血が多く、処置もガーゼパッキングが多くなる点が要因として推察されます(ただし論文に解釈は記載なし)。
本研究はあくまで「処置の傾向」を示した記述研究です。
4. 性差:全年齢で男性が多い
| 性別 | 発生頻度 |
|---|---|
| 男性 | 明確に多い |
| 女性 | 全年代で男性より少ない |
5. 地域差:西日本 vs 北日本で治療選択が異なる
| 地域 | よく使われる治療手技 |
|---|---|
| 西日本 | ガーゼパッキングが多い |
| 北日本 | 焼灼術が多い |
研究では、地域差について次の点を指摘しています:
- 緯度(寒冷地)と焼灼術の選択に関連がある可能性
- ただし、気候以外の要因(治療文化、医療体制、医師の判断傾向など)も影響している可能性があるとされています(論文より)。
■ 考察
本研究は、鼻出血治療に関する以下の特徴を明確化しました:
- 全国的に冬季に増加する一貫した季節パターン
- 小児と高齢者に発症が多い「二峰性」分布
- 男性優位の性差
- 地域差(西日本=パッキング、北日本=焼灼術)
研究者らは「気候条件だけで説明できる現象ではない」と述べており、医療現場の治療方針、地域の医療提供体制、医師の嗜好など複数の要因が考えられるとしています。
■ 試験の限界
本研究の限界点:
- 本研究は記述的研究(descriptive study)であり、因果関係は評価できない
- NDBは診療報酬上の手技の算定を反映しており、臨床所見の詳細は含まれない
- 各地域での医療文化・診療スタイルの違いが背景にある可能性があるが評価できない
- 外来と入院の区分、重症度、再発回数などの詳細情報は不明
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■ まとめ
本研究は、日本全体の鼻出血治療を4年間・約140万件以上のデータで解析した初の研究であり、以下の重要な知見を示しました:
- 冬に最も多く発生する季節性
- 小児と高齢者で多い二峰性の年齢分布
- 全年齢で男性が多い
- 西日本はガーゼパッキングが多く、北日本は焼灼術が多い
これらの結果は、鼻出血診療の全国的な特徴を示すだけでなく、地域特性や医療提供体制を理解するうえでの重要な基礎データとなります。

✅まとめ✅ 日本のデータベース研究の結果、鼻血治療における季節性、人口動態、地域性の明確な変動が明らかとなった。西日本はガーゼパッキングが多く、北日本は焼灼術が多かった。
根拠となった試験の抄録
目的: 本研究の目的は、日本における鼻血治療の全国的な傾向、人口分布、地域差などを分析することであった。本研究は、全国規模の行政データベースを用いた記述的観察研究である。
方法: 2019~2022年度のレセプトデータベースのオープンデータを分析し、鼻出血に対する2種類の治療法(ガーゼパッキングによる止血と焼灼)を検討した。治療パターンは、月、年齢、性別、居住都道府県別に評価した。地域比較のため、間接標準化を用いて標準化請求比率を算出した。結果:研究期間中、870,819件のガーゼパッキング処置と523,591件の焼灼処置が記録された。両処置は一貫した季節パターンを示し、冬(12月から2月)にピークを迎えた。年齢分布は二峰性パターンを示し、小児と高齢者で発生率が高く、全年齢層で男性が多かった。小児患者はガーゼパッキングを受ける可能性が高かった。地理的分析では、西日本でガーゼパッキングが好まれ、北日本で焼灼術がより頻繁に行われており、高緯度との潜在的な関連が示唆された。
結論: 本研究は、日本における鼻血治療における季節性、人口動態、地域性の明確な変動を明らかにした初の全国調査である。これらの知見は、気候以外の要因が治療選択に影響を与える可能性を示唆している。
キーワード: 焼灼術、鼻血、ガーゼパッキング、止血、全国データベース
引用文献
Nationwide descriptive epidemiological study of epistaxis treatment using the national database of Japan
Seiichiro Makihara et al. PMID: 40876073 DOI: 10.1016/j.anl.2025.08.001
Auris Nasus Larynx. 2025 Oct;52(5):575-580. doi: 10.1016/j.anl.2025.08.001. Epub 2025 Aug 27.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40876073/

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