アラーティング反応とは?
血圧測定の初回値が高く、2回目・3回目で低下する──いわゆる「アラーティング反応(alerting reaction)」は、従来「白衣高血圧」や測定ストレスによる測定誤差とみなされてきました。
しかし、最新の疫学研究では、この反応が単なる誤差ではなく、高齢者の生命予後に関連する可能性が報告されています。
そこで今回は、アラーティング反応について2025年に発表された中国・上海郊外の高齢者を対象とした前向きコホート研究の結果を解説します。
背景
高血圧診療ガイドラインでは、初回の血圧値が高くなる傾向(アラーティング反応)を考慮し、複数回測定の平均値で評価することを推奨しています。
これは、初回測定時に生じる緊張・覚醒反応(alerting reaction)により、一時的に血圧が上昇するためです。
一方で、この生理的な血圧上昇反応は、交感神経活動の保たれた生体反応を反映している可能性もあります。今回の研究は、この「アラーティング反応」が高齢者の予後とどのように関係するかを明らかにした初の大規模データです。
試験結果から明らかになったことは?
◆研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 前向きコホート研究 |
| 対象 | 上海郊外在住の高齢者(60歳以上)4,512名(男性44.7%、平均年齢66.8歳) |
| 血圧測定法 | 坐位にて1分間隔で3回連続測定(自動血圧計) |
| アラーティング反応の定義 | 初回測定値 > 2回目・3回目の平均値 |
| 追跡期間 | 中央5.9年(総追跡人年:24,576人年) |
| 評価項目 | 全死亡および心血管死亡 |
| 解析方法 | Cox比例ハザードモデルによる多変量解析(年齢・性別等調整) |
◆試験結果
| 項目 | アラーティング反応あり | アラーティング反応なし | 備考 |
|---|---|---|---|
| 対象者数 | 2,633名 | 1,879名 | |
| 平均年齢 | 65.8歳 | 68.0歳 | p < 0.0001 |
| 総死亡 | 430件 | ― | 追跡中の全死亡 |
| 心血管死亡 | 221件 | ― | ― |
◆主要結果(多変量調整後)
| 評価項目 | ハザード比 (95%CI) | p値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 全死亡 | 0.82 (0.67–0.99) | 0.04 | 18%低リスク |
| 心血管死亡 | 0.64 (0.48–0.89) | 0.002 | 36%低リスク |
さらに、初回と平均値の差が大きいほど死亡リスクは低下しました。
とくに初回血圧が後続2回の平均より5mmHg以上高い群では:
| 群 | HR (全死亡) | HR (心血管死亡) |
|---|---|---|
| >5mmHg差 | 0.75 (0.57–0.99) | 0.57 (0.38–0.85) |
◆考察
この結果は、アラーティング反応を示す高齢者はむしろ予後が良い可能性を示唆しています。
その背景として以下のような機序が考えられます。
- 自律神経の反応性が保たれている(交感神経が適切に作動している)
- 測定環境への順応性が高い個体である
- 高齢者における神経・循環調節の健全性の指標である可能性
つまり、初回測定で血圧が上がる「反応性」が、単なるストレスではなく「生理的に反応できる健康な自律神経系」を反映している可能性があるという点が注目されます。
◆試験の限界
- 対象が中国・上海郊外の高齢者に限定され、他人種・他地域への一般化は慎重に行う必要がある。
- 血圧測定は3回のみで、家庭血圧や長期的変動は評価されていない。
- 交感神経活性やホルモン動態など、生理学的裏付けの直接的データは欠如している。
◆今後の展望
- アラーティング反応が健康な自律神経反応のマーカーとして臨床的に活用できるかの検証。
- 心血管疾患既往者や治療中の高血圧患者で同様の傾向が見られるかの再評価。
- 機序研究(神経内分泌・心拍変動・血管硬化指標など)による裏付けが必要。
コメント
◆まとめ
- 高齢者4,512人を対象とした追跡研究で、初回測定値が高い(アラーティング反応)群は、全死亡・心血管死亡のリスクが低かった。
- 特に「初回血圧が5mmHg以上高い」群で死亡リスクの低下が顕著。
- これまで「測定誤差」と見なされてきた反応が、むしろ健康の指標となり得る可能性が示唆された。
現行ガイドラインのように平均値で評価することは妥当である一方で、初回の血圧上昇そのものが持つ生理的意味にも新たな注目が集まりそうです。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 高齢者を対象とした前向きコホート研究の結果、血圧のアラート反応が高齢者集団における死亡リスクの顕著な低下と関連していた。
根拠となった試験の抄録
高血圧ガイドラインでは、初期のアラート(警戒)反応の可能性を最小限に抑えるために、複数回の血圧測定を推奨しています。この研究では、高齢者におけるこの反応の予後的意義を調査しました。研究対象者(60歳以上)は、上海郊外で募集された。血圧は、オシロメトリック装置を使用して、座位で60秒間隔で3回連続して測定された。警戒反応は、最初の血圧測定値が後続の2回の測定値の平均値を超えた場合と定義された。合計4,512人の参加者(男性44.7%、平均年齢66.8歳)のうち、警戒反応が認められた人(n=2633)は、認められなかった人(n=1,879、65.8歳 vs. 68.0歳、P<0.0001)よりも若かった。中央値5.9年の追跡期間(24,576人年)中に、全死亡と心血管疾患による死亡がそれぞれ430件と221件発生しました。調整済みCox回帰分析の結果、警戒反応を示した人は、警戒反応を示していない人に比べて、全死亡リスクが18%低く (HR 0.82、95%CI 0.67-0.99、P=0.04)、心血管疾患による死亡リスクが36%低い (HR 0.64、95%CI 0.48-0.89、P=0.002) ことが示された。より大きな差異に関する更なるカテゴリカル解析の結果、血圧の警戒反応が5mmHg超(n=1,448)の場合と-5mmHg以下(n=832)の場合のハザード比は、全死亡率および心血管疾患死亡率についてそれぞれ0.75(95%CI 0.57-0.99、P=0.04)、0.57(95%CI 0.38-0.85、P=0.006)であることが示された。結論として、本研究は、血圧の警戒反応が高齢者集団における死亡リスクの顕著な低下と関連していることを初めて明らかにした。その根底にあるメカニズムについては、今後の研究で解明する必要がある。
キーワード: 警戒反応、血圧測定、高齢者、死亡率
引用文献
Alerting reaction of blood pressure and risk of mortality in an elderly Chinese population
Chang-Sheng Sheng et al.
Hypertens Res. 2025 Oct 24. doi: 10.1038/s41440-025-02420-8. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41136596/

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