集中的な歯周病治療が頸動脈肥厚を抑制する?
歯周病(Periodontitis, PD)は口腔内だけでなく、心血管疾患リスクにも関与することが示唆されています。
これまでに集中的歯周治療(Intensive Periodontal Treatment, IPT)が内皮機能を改善することは報告されていましたが、血管構造そのもの(頸動脈内膜中膜複合体厚, cIMT)の進展を抑制できるかは不明でした。
そこで今回ご紹介するには、集中的な歯周病治療が血管構造に及ぼす影響について検証したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
◆方法
- 試験デザイン:単盲検・単施設ランダム化比較試験(NCT03072342)
- 対象:歯周病患者 135名(IPT群 68例、対照の通常治療群CPT 67例)
- 介入内容
- IPT群:スケーリング、ルートプレーニング、必要に応じた外科的矯正治療
- CPT群:歯肉縁上スケーリングと研磨
- 観察期間:24か月
- 主要評価項目:cIMTの変化
- 副次評価項目:血圧、血流依存性血管拡張(FMD)、脈波伝播速度(PWV)
- 説明変数:炎症マーカー、酸化ストレスマーカー、メタボロミクス指標
◆主な結果
◆アウトカム別整理
アウトカム | IPT群 vs. CPT群 | P値 |
---|---|---|
cIMT | −0.023mm (95%CI −0.030 〜 −0.019) | <0.0001 |
FMD | 2か月時点から有意に改善、24か月間持続 | <0.0001 |
血圧・PWV・体格指標 | 群間差なし | – |
炎症/酸化ストレスマーカー | Glycoprotein acetylがIPT群で低下 | <0.05 |
有害事象 | 両群で有意差なし | – |
コメント
- IPTは内皮機能の改善に加え、血管構造(cIMT)の進展抑制にも寄与することが明らかとなりました。
- この効果は歯周組織の改善と相関しており、歯周病が心血管リスク因子として機能する可能性を支持します。
- 血圧やPWVには有意差はなく、効果は局所炎症改善と全身性炎症マーカー低下を介したものと推測されます。
◆試験の限界
- 単施設試験であり、一般化可能性に制約がある。
- 参加者は「その他は健康な成人」に限定されており、高リスク集団での効果は未検証。
- 代謝マーカーの変化は明確でなく、機序の解明には追加研究が必要。
◆まとめ
- 集中的歯周治療は、歯周病患者におけるcIMTの進展を抑制し、血管構造を改善することが示されました。
- 歯周病治療が単に口腔内の健康にとどまらず、心血管予防戦略の一部となり得る可能性を示唆しています。
今後は心血管イベントや死亡の発生リスクなど、臨床上より重要なアウトカムについての検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、集中的歯周治療は血管表現型の好ましい構造変化をもたらし、歯周炎が心血管の健康に与える影響を強調し、歯周炎を治療することで心血管の結果を改善する潜在的な役割をさらに強調した。
根拠となった試験の抄録
背景と目的: 集中的歯周治療(IPT)は、歯周炎(PD)患者の血管内皮機能を改善する。しかし、これらの変化が血管構造リモデリングの進行を遅らせるかどうかは依然として不明である。本ランダム化臨床試験では、2年間にわたるIPTが頸動脈内膜中膜肥厚(cIMT)に及ぼす影響を評価した(NCT03072342)。副次評価項目として血流依存性血管拡張期(FMD)、血圧、脈波伝播速度(PWV)を評価し、説明評価項目として炎症マーカー、酸化ストレスマーカー、メタボロミクスマーカーを評価した。
方法: PD患者135名(健常者)を単盲検単施設比較試験に登録し、IPT(n=68;スケーリング、ルートプランニング、および必要に応じて外科的矯正療法を含む)または対照歯周治療(CPT、n=67;歯肉上スケーリングおよびポリッシングを含む)に無作為に割り付けた。cIMTはベースライン、治療後12ヶ月、24ヶ月で評価した。血圧、FMD、PWV、炎症マーカー、酸化ストレス、およびメタボロミクスは、ベースライン、および介入後2、6、12、18、24ヶ月で評価した。
結果: 24ヶ月後、cIMTはIPT群の方がCPT群よりも低かった(-0.023 mm、95%信頼区間 -0.030 ~ -0.0227、P<0.0001)。FMDはIPT群で2ヶ月以内に改善し、試験期間を通してCPT群よりも一貫して高値を維持した(P<0.0001)。これは、同時点における歯周組織の測定値の改善と相関していた。有害事象、人体測定値、血圧、PWV、メタボロームマーカーにおいて、群間における実質的な差は認められなかった。炎症性および酸化ストレスマーカーのうち、糖タンパク質アセチルはIPT群でCPT群と比較して低下していた(P<0.05)。
結論: IPTは血管表現型の好ましい構造変化をもたらし、PD が心血管の健康に与える影響を強調し、PD を治療することで心血管の結果を改善する潜在的な役割をさらに強調しました。
キーワード: 内皮機能、炎症、内膜中膜肥厚、メタボローム、歯周炎。
引用文献
Periodontitis treatment and progression of carotid intima-media thickness: a randomized trial
Marco Orlandi et al. PMID: 40827724 DOI: 10.1093/eurheartj/ehaf555
Eur Heart J. 2025 Aug 19:ehaf555. doi: 10.1093/eurheartj/ehaf555. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40827724/
コメント