運動+カロリー制限による減量の効果は?
「股関節が痛い…でも運動しなきゃ…痩せたら楽になる?」
変形性股関節症(hip osteoarthritis)において、運動療法は推奨されていますが「減量が痛みに与える影響」は明確にわかっていませんでした。
今回紹介するのは、「非常に低カロリーの食事療法(VLCD)を運動に追加することで、股関節痛は改善するのか?」という疑問に答えるランダム化比較試験(無作為化比較試験、RCT)の結果です。
試験結果から明らかになったことは?
研究デザイン
- ランダム化2群比較試験(superiority RCT)
- 対象:股関節症かつ肥満・過体重の成人101名
- 介入群:VLCD(Very Low Calorie Diet)+運動(6回の食事指導+5回の運動指導)
- 比較群:運動のみ(5回の運動指導)
- 運動:6か月間の在宅プログラム(遠隔指導)
■ 主要評価項目:6か月後の股関節痛(11段階スケール)
群 | 痛みの改善(平均変化量) | 群間差(95% CI) |
---|---|---|
VLCD+運動群 | 改善あり(詳細非記載) | −0.6点(−1.5〜+0.3) |
運動のみ群(対照) | 改善あり(詳細非記載) |
➡ 臨床的に意味のある群間差(MCID=1.8点)を満たさず、統計的にも有意でない
■ 副次評価項目(6か月/12か月)
項目 | 6か月時点 | 12か月時点 |
---|---|---|
体重減少 | VLCD群が有意に多い(平均 −8.5%) | 同様にVLCD群が有利 |
BMI・体脂肪率 | VLCD群が有意に改善 | 維持されていた |
HOOS痛・機能スコア | 両群とも改善、群間差なし | VLCD群で有意に良好 |
身体活動量・QOL | 群間差なし | 群間差なし |
副作用(有害事象) | 重篤な有害事象なし | 重篤な有害事象なし |
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◆臨床的意義
「痩せたからといって痛みが減るとは限らない」――この研究結果は、そんな現実を示しています。
非常に低カロリーな食事療法(VLCD)を運動に加えても、股関節痛の主観的な改善度は統計的に有意な差を示しませんでした。
一方で、体重・BMI・脂肪率の改善、機能スコアの改善、長期的な全体的評価(self-reported improvement)には有利な効果がありました。
◆試験の限界
- 主要評価は自己記入式の痛みスコアであり、プラセボ効果や期待バイアスの影響を受けやすい
- 盲検化されておらず、特にVLCD群のほうが積極的な介入を受けており、期待効果が上乗せされた可能性
- 対象者は比較的軽度〜中等度の股関節症が多く、重症例には外挿困難
- 栄養介入の継続性や実生活での再現性も未検証
◆今後の検討課題
- 痛み以外の指標(歩行速度・画像評価・筋量)を含めた多面的な評価
- より大規模・多施設でのRCTによる再検証
- VLCD以外の食事療法(中等度のカロリー制限、地中海食など)の比較
- 運動の種類や頻度の調整による個別化介入の可能性
抄録からは、変形性股関節症のステージについて言及されていません。具体的にはKLグレードなど、股関節の軟骨の評価についてデータが示されていません。体重減少(減量)による介入は、変形性関節症ステージ初期の炎症期に効果が期待できますが、ステージ後期の侵害受容器へ移行した後には効果は期待できません。
つまり、変形性股関節症に対する体重減少効果がないとは言い切れません。更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、運動に減量ダイエットを追加しても股関節の痛みは変化しませんでしたが、ほとんどの副次的成果は改善した。
根拠となった試験の抄録
背景: 変形性股関節症の管理には運動が推奨されていますが、減量の推奨事項は矛盾しています。
目的: 運動に加えて減量ダイエットを行うことが股関節痛の変化に及ぼす有効性を評価する。
試験デザイン: 2群優位性ランダム化試験(ClinicalTrials.gov: NCT04825483)
設定: コミュニティ
参加者: 変形性股関節症および過体重または肥満の成人101名
介入: 運動のみのグループと超低カロリー食(very-low-calorie diet, VLCD)+運動グループの両グループに対し、5回の遠隔医療相談を通じて6ヶ月間の在宅運動プログラムが提供された。VLCD+運動グループは、6回の遠隔医療相談を通じてVLCDプログラムも提供された。
測定項目: 主要評価項目は、股関節痛の重症度の6ヶ月後の変化(11点スケール、範囲:0~10、高得点は疼痛の悪化を示す、臨床的に重要な差の最小値は1.8)とした。副次的評価項目には、股関節痛、身体機能、生活の質、体重、体組成、有害事象に関するその他の指標が含まれた。
結果: 99名(98%)と95名(94%)の参加者がそれぞれ6か月と12か月の主要アウトカムを提供した。VLCDと運動の併用により、運動のみの場合よりも体重が8.5%多く減少したが、6か月時点での股関節痛の重症度の変化については、VLCDと運動の併用はより効果的ではなかった(平均差 -0.6単位、95%信頼区間 -1.5~0.3)。6か月時点でのその他の副次アウトカムの群間差は、股関節障害および変形性関節症アウトカムスコア(HOOS)の疼痛と機能を除き、VLCDと運動の併用に有利であった。12か月時点では、体重、BMI、HOOSの疼痛と機能、および全体的な股関節の改善において、VLCDと運動の併用に有利であったが、生活の質と身体活動においては、有利ではなかった。重篤な関連有害事象はなかった。
制限事項: 参加者は非盲検でした。
結論: 運動に減量ダイエットを追加しても股関節の痛みは変化しませんでしたが、ほとんどの副次的成果は改善しました。
主な資金提供元: 国立保健医療研究会議
引用文献
Efficacy of a Very-Low-Calorie Weight Loss Diet Plus Exercise Compared With Exercise Alone on Hip Osteoarthritis Pain : A Randomized Controlled Trial
Michelle Hall et al. PMID: 40759020 DOI: 10.7326/ANNALS-25-00045
Ann Intern Med. 2025 Aug 5. doi: 10.7326/ANNALS-25-00045. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40759020/
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