高脂血症治療薬の効果不十分、その原因は?
脳梗塞の既往を有する患者に対し、二次予防目的でHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)が処方されることは一般的です。
今回ご紹介する症例では、ロスバスタチンを継続していたにもかかわらず、効果が不十分と判断され、新たにエゼチミブが追加されていました。しかし、薬歴を確認すると、酸化マグネシウムとの併用が判明。
この併用により、ロスバスタチンの吸収が大きく阻害されていた可能性が示唆されました。
試験結果から明らかになったことは?
この症例のポイントを、SOAP(PICOに類似)形式で整理すると以下のようになります。
項目 | 内容 |
---|---|
【Problem(問題点)】 | 脳梗塞の既往がある患者にロスバスタチンが投与されていたが、LDLコレステロール低下が不十分であるために、エゼチミブが追加された。 |
【Assessment(評価)】 | ロスバスタチンと酸化マグネシウムを併用していたことが明らかとなった。両剤の併用により、ロスバスタチンの吸収が最大で50%低下するとの報告がある。一方、ピタバスタチンなど他のスタチンではこのような相互作用は確認されていない。 |
【Plan(提案内容)】 | ロスバスタチンの吸収低下が薬効不十分の原因である可能性を考慮し、スタチンの追加ではなく、ピタバスタチンへの変更を処方医に提案。 |
【Outcome(経過)】 | 処方はロスバスタチンからピタバスタチンへ変更された。その後、ピタバスタチンは2mg/日→4mg/日に増量され、エゼチミブなどの追加治療なしにコントロール良好となった。 |
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この症例は、「薬物相互作用によるスタチンの効果不十分」を疑い、薬剤変更を提案することで、追加薬剤を避けつつ治療効果を得られた好例です。
ロスバスタチンは二価・三価陽イオン(Mg²⁺、Ca²⁺、Al³⁺)とキレート形成しやすく、酸化マグネシウムとの併用では吸収が最大50%低下する可能性があると報告されています。一方で、ピタバスタチンやアトルバスタチンなどはこのような影響を受けにくく、酸化マグネシウム併用下でも吸収に有意な差を認めないとされています(各薬剤の添付文書を参照)。
今回の症例のように、薬物相互作用に着目して処方内容を見直すことは、ポリファーマシーの回避にもつながる重要なアプローチです。
特に、高齢者では酸化マグネシウムを慢性的に内服しているケースが多く、スタチン選択時には併用薬との相互作用も念頭に置く方がよいでしょう。
ただし、すべての症例で脂質コントロールが不良になるわけではありません。目の前の患者にとって、何が最善か、サポートする

✅まとめ✅ 症例報告で示された1例では、ロスバスタチンと酸化マグネシウム併用により脂質コントロールが悪化したが、ピタバスタチンへの変更により脂質コントロールが改善した。
根拠となった試験の抄録
【問題点(P)】
脳梗塞の既往患者にロスバスタチンが継続投与されていたが、効果不十分であり、エゼチミブが追加された。服用薬を確認すると、酸化マグネシウムを服用しており、ロスバスタチンと酸化マグネシウムによる薬物相互作用の可能性が疑われた。
【評価(A)】
ロスバスタチンと酸化マグネシウムの併用により、ロスバスタチンの吸収が最大で50%低下する。一方、他のスタチン系薬では酸化マグネシウムとの相互作用は確認されていない。
【実施内容(P)】
処方医へエゼチミブの追加ではなく、ロスバスタチンをピタバスタチンに変更することを提案した。
【成果(O)】
提案の結果、ロスバスタチンがピタバスタチンへ変更となった。処方変更の1か月後にピタバスタチンが2mg/dayから4mg/dayに増量されたが、その後は同量で継続されており、エゼチミブや他の脂質異常症治療薬も追加されず経過している。
引用文献
ロスバスタチンと酸化マグネシウムの相互作用を疑った症例
平野 徹 等.
京都薬科大学紀要 3: 151–154, 2022. doi: 10.34445/00000310
ー 続きを読む https://kyoto-phu.repo.nii.ac.jp/record/333/files/kiyou2022_3-1_hirano_151-154.pdf
参考文献
The effect of a combination antacid preparation containing aluminium hydroxide and magnesium hydroxide on rosuvastatin pharmacokinetics
Paul D Martin et al.
Curr Med Res Opin. 2008 Apr;24(4):1231-5. doi: 10.1185/030079908×280662. Epub 2008 Mar 19.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18355422/
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