長期抗凝固療法におけるDOACの最適用量は?
静脈血栓塞栓症(VTE)を発症した患者において、再発リスクが高い場合は6〜24か月の初期治療後も延長抗凝固療法が必要となることがあります。ただし、その際に使用すべき直接経口抗凝固薬(DOAC)の最適用量については明らかではありません。
そこで今回は「DOACの減量継続」が「通常量の継続」と比較して、VTE再発を抑制しつつ安全性も保てるかを検証した非劣性デザインのランダム化比較試験(RENOVE試験)の結果をご紹介します。本試験は、フランス国内の多施設共同で実施されました。
試験結果から明らかになったことは?
試験概要
項目 | 内容 |
---|---|
試験名 | RENOVE試験 |
デザイン | 非劣性、ランダム化、多施設共同、オープンラベル、盲検エンドポイント試験 |
対象 | 初回原因不明VTE、再発性VTE、持続的リスク因子、その他再発高リスクのある18歳以上の外来患者 |
登録期間 | 2017年11月2日〜2022年7月6日 |
追跡期間中央値 | 37.1か月(IQR 24.0–48.3) |
登録患者数 | 2768人(減量群 1383人、通常量群 1385人) |
投与内容 | 減量群:アピキサバン2.5mg×2回/日 または リバーロキサバン10mg/日 通常量群:アピキサバン5mg×2回/日 または リバーロキサバン20mg/日 |
主要・副次評価項目の結果
評価項目 | 減量群 | 通常量群 | 群間差/HRなど |
---|---|---|---|
再発VTE(5年累積発症率) | 2.2%(95%CI 1.1–3.3) | 1.8%(95%CI 0.8–2.7) | 調整HR 1.32(95%CI 0.67–2.60) 群間差: 0.40%(95%CI -1.05 – 1.85)、p=0.23(非劣性不成立) |
重大または臨床的に重要な出血(5年累積発症率) | 9.9%(95%CI 7.7–12.1) | 15.2%(95%CI 12.8–17.6) | 調整HR 0.61(95%CI 0.48–0.79) |
全有害事象 | 82.1%(1136/1383人) | 83.0%(1150/1385人) | ― |
重篤な有害事象 | 27.0%(374人) | 30.3%(420人) | ― |
全死亡(5年累積発症率) | 4.3%(95%CI 2.6–6.0) | 6.1%(95%CI 4.3–8.0) | ― |
コメント
再発リスクの高い静脈血栓塞栓症(VTE)患者におけるDOACの至適用量について、実臨床における検証は不充分です。
さて、非盲検ランダム化比較試験の結果、減量群は通常量群と比較して非劣性の基準を満たすことはできませんでした。しかし、再発VTEの絶対リスク差は非常に小さく、95%信頼区間も上限が1.85%と低率に抑えられていました。
一方で、臨床的に重要な出血は減量群で有意に少なかったことから、安全性を優先するケースでは、減量継続も選択肢となる可能性が示されました。とくに、出血リスクが高い高齢者やポリファーマシー患者などにおいては、治療個別化に役立つエビデンスといえるでしょう。
今後は、どのような患者群が「減量継続」に適するかの明確な選別が求められます。再現性の確認も含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 非盲検ランダム化比較試験の結果、長期抗凝固療法を必要とする静脈血栓塞栓症患者において、直接経口抗凝固薬の減量は非劣性基準を満たさなかった。しかし、両群における再発率の低さと、減量による臨床的に重要な出血の大幅な減少は、このレジメンが選択肢となる可能性を示唆している。
根拠となった論文の抄録
背景:
再発リスクが高く、直接経口抗凝固薬(DOAC)による延長治療が示唆されている静脈血栓塞栓症(VTE)患者において、最適なDOAC用量は不明である。われわれは、延長抗凝固療法が示唆された患者において、DOACの減量投与と通常用量投与の有効性および安全性を比較することを目的とした。
方法:
RENOVE試験は、非劣性を目的とした、研究者主導による、多施設共同、無作為化、オープンラベル、盲検エンドポイント評価試験で、フランス国内47施設にて実施された。対象は、18歳以上の外来患者で、急性症候性VTE(肺塞栓または近位深部静脈血栓症)に対して6〜24か月間、継続的にフルドーズの抗凝固療法を受けており、さらに延長抗凝固療法が示唆された患者であった。患者は、初回原因不明VTE、再発VTE、持続的リスク因子の存在、または再発リスクが高いと考えられるその他の臨床的状況に分類された。
参加者は1:1の比率で、アピキサバン2.5mgを1日2回またはリバーロキサバン10mgを1日1回投与する減量群、またはアピキサバン5mgを1日2回またはリバーロキサバン20mgを1日1回投与する通常量群に、中央無作為化システム(Web応答)を用いて割り付けられた。乱数はコンピュータによって生成され、異なるサイズのブロックで均衡が保たれた。無作為化は、施設、DOACの種類、抗血小板薬の使用の有無で層別化された。
担当医師および患者は割り付けられた治療群を認識していたが、VTE再発、臨床的に重要な出血、全死亡に関する評価は、治療群に盲検化された独立委員会によって判定された。主要評価項目は症候性VTE再発(再発性致死性または非致死性の肺塞栓、または孤立性近位DVTを含む)であり、非劣性仮説(90%の検出力でHR 1.7を除外する)に基づき検討された。主要および副次的な2つの評価項目は、階層的検定手順に含まれていた。本試験はClinicalTrials.gov(NCT03285438)に登録されている。
結果:
2017年11月2日〜2022年7月6日までに、2768名の患者が登録され、減量群(n=1383)または通常量群(n=1385)に無作為化された。970名(35.0%)が女性、1797名(65.0%)が男性であり、1名(<0.1%)は性別が報告されなかった。追跡期間の中央値は37.1か月(四分位範囲 24.0–48.3)であった。
VTE再発は、減量群で19名(5年累積発症率2.2%、95% CI: 1.1–3.3)、通常量群で15名(1.8%、95% CI: 0.8–2.7)に発生した(調整ハザード比: 1.32、95% CI: 0.67–2.60;絶対差: 0.40%、95% CI: −1.05~1.85;非劣性に対するp値=0.23)。
重篤または臨床的に重要な出血は、減量群で96名(5年累積発症率9.9%、95% CI: 7.7–12.1)、通常量群で154名(15.2%、95% CI: 12.8–17.6)に発生し、調整ハザード比は0.61(95% CI: 0.48–0.79)であった。
全体の有害事象は、減量群で1383名中1136名(82.1%)、通常量群で1385名中1150名(83.0%)に発生した。重篤な有害事象は、減量群で374名(27.0%)、通常量群で420名(30.3%)であった。研究期間中の死亡は、減量群で35名(5年累積発症率4.3%、95% CI: 2.6–6.0)、通常量群で54名(6.1%、95% CI: 4.3–8.0)であった。
解釈:
延長抗凝固療法が必要なVTE患者において、DOACの用量を減量することは非劣性基準を満たさなかった。しかし、両群とも再発率は低く、減量群で臨床的に重要な出血が大幅に減少したことから、このレジメンは治療選択肢として支持される可能性がある。今後は、DOAC減量が適さないサブグループの特定が必要である。
資金提供:
フランス保健省(French Ministry of Health)
引用文献
Extended treatment of venous thromboembolism with reduced-dose versus full-dose direct oral anticoagulants in patients at high risk of recurrence: a non-inferiority, multicentre, randomised, open-label, blinded endpoint trial
Francis Couturaud et al. PMID: 40023651 DOI: 10.1016/S0140-6736(24)02842-3
Lancet. 2025 Mar 1;405(10480):725–735.
ー 続きを読む:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40023651/
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