日本人におけるブイタマークリームの有効性・安全性はどのくらい?
芳香族炭化水素受容体(アリール炭化水素受容体; aryl hydrocarbon receptor, AhR)は、細胞内の受容体であり、主に環境化学物質や内因性リガンドに反応します。特に、AhRは多くの細胞において転写因子として機能し、環境ストレスや毒物への反応に関わっています。リガンド(アゴニスト含む)がAhRに結合すると受容体は活性化され、その後、DNAに結合し、特定の遺伝子の発現を調節します。
AhRは免疫系に対しても重要な役割を持っています。特に皮膚においては、AhRは免疫細胞(T細胞や樹状細胞など)の機能に影響を与えることで、炎症や免疫応答を調節する重要な役割を果たします。さらに、皮膚のバリア機能を保持するためにも関与しており、皮膚細胞の発生、成長、分化にも影響を与えます。
アトピー性皮膚炎(AD)の発症には、遺伝的要因、免疫系の異常、皮膚バリア機能の障害などが関与していますが、AhRもこの過程に重要な影響を与えていると考えられています。アトピー性皮膚炎の患者では、皮膚バリア機能が低下していることが特徴で、外的刺激に対して過敏に反応する傾向があります。この障害にはAhRの役割が関連していることが示唆されています。具体的には、AhRは免疫系のバランスに影響を与え、Th2型免疫応答(アレルギー反応に関与する免疫反応)を強化することがわかっています。Th2型免疫応答の亢進は、アトピー性皮膚炎の炎症性反応を引き起こす一因となります。また、AhRは皮膚の炎症を抑制する機能も持っており、正常な皮膚バリア機能を維持するためには適切なAhR活性が必要です。
タピナロフは非ステロイド性外用薬でAhR作動薬ですが、その有効性・安全性に関する情報は限られています。
そこで今回は、12歳以上のアトピー性皮膚炎(AD)の日本人患者を対象に、ZBB4-1とZBB4-2の2件の第3相試験でタピナロフクリーム1%の有効性と安全性を評価した結果をご紹介します。
ZBB4-1(N=216)は、8週間の二重盲検、ビークル対照治療期間(期間1)と16週間の延長治療期間(期間2)で構成されました。ZBB4-2(N=291)は52週間の非盲検非対照試験で、全例にタピナロフが投与されました。
試験結果から明らかになったことは?
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(ZBB4-1試験) | タピナロフ群 | 基剤(ビークル)群 |
8週目のIGA治療成功率 | 20.24% p=0.0007 | 2.24% |
8週目のEASI-75反応 | 40.3% p<0.0001 | 4.3% |
ZBB4-1の第1期間において、8週目にベースラインから2グレード以上改善したIGA(Investigator’s Global Assessment)スコア0(明瞭)または1(ほぼ明瞭)を達成した患者の割合(主要評価項目であるIGA治療成功)は、タピナロフ群で20.24%、基剤(ビークル)群で2.24%でした(p=0.0007)。
8週目にEASI(Eczema Area and Severity Index)スコアがベースラインから75%以上改善した患者の割合(EASI-75反応、主要副次評価項目)は、タピナロフ群で40.3%、ビークル群で4.3%でした(p<0.0001)。
IGA治療成功率 | EASI-75奏効率 | |
16週目 | 28.1% | 53.3% |
24週目 | 32.3% | 63.7% |
52週目 | 41.3% | 76.6% |
ZBB4-2では、IGA治療成功率は16週目28.1%、24週目32.3%、52週目41.3%であり、EASI-75奏効率は16週目53.3%、24週目63.7%、52週目76.6%であった。
2つの試験を通して、ほとんどの有害事象(AE)は軽度または中等度であり、一般的なAEは毛嚢炎、にきび、頭痛などでした。
安全性解析対象集団では、497例中437例(87.9%)でAEが報告されました。重篤なAEは患者の4.0%で報告されましたが、いずれも治療関連とは考えられませんでした。重度のAEは患者の2.4%で報告され、ADおよび中毒性皮膚発疹がそれぞれ1例で治療関連と考えられました。
AEの大部分は軽度または中等度でした。最も一般的なAEは、頭痛(20.5%)、塗布部位毛包炎(19.3%)、座瘡(17.3%)、塗布部位座瘡(16.1%)でした。治療関連AEは患者の53.7%で報告されました。
最も一般的な治療関連AEは、塗布部位毛包炎(16.7%)、塗布部位座瘡(12.9%)、頭痛(12.5%)でした。AEによる試験中止は患者の11.1%で発生しました。
試験中止に至った最も一般的なAEはAD(3.8%)でした。AEの発生率は52週間にわたる治療継続で増加しませんでした。
両試験において、臨床検査パラメータやバイタルサインに経時的な臨床的に有意な変化は認められませんでした。
コメント
アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬の治療薬として、2024年にブイタマークリーム(一般名:タピナロフ)が販売されました。AhR作動薬という比較的新しい分類の薬剤です。
さて、日本人を対象にした2件の第3相試験の結果、タピナロフクリーム1%は、アトピー性皮膚炎患者において、最長52週間の治療において有効であり、概して安全であることが示されました。
有効性、安全性の検証については、最大でも52週間までであり、より長期間の検証は不充分です。また、症例数も限られています。市販後に、より大規模な安全性評価が求められます。
なお、リスク管理計画書(RMP)には、安全性検討事項として以下の事項が記載されています(2025年1月現在)。
【重要な特定されたリスク】 | 【重要な潜在的リスク】 | 【重要な不足情報】 |
適用部位の皮膚症状 (毛包炎、接触皮膚炎、ざ瘡等) | なし | 既存治療との併用 |
続報に期待。
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✅まとめ✅ 日本人を対象にした2件の第3相試験の結果、タピナロフクリーム1%は、アトピー性皮膚炎患者において、最長52週間の治療において有効であり、概して安全であることが示された。
根拠となった試験の抄録
背景:タピナロフは非ステロイド性外用薬で、アリール炭化水素受容体作動薬である。我々は、12歳以上のアトピー性皮膚炎(AD)の日本人患者を対象に、ZBB4-1とZBB4-2の2つの第3相試験でタピナロフクリーム1%の有効性と安全性を評価した。
方法:ZBB4-1(N=216)は、8週間の二重盲検、ビークル対照治療期間(期間1)と16週間の延長治療期間(期間2)で構成された。ZBB4-2(N=291)は52週間の非盲検非対照試験で、全例にタピナロフが投与された。
結果:ZBB4-1の第1期間において、8週目にベースラインから2グレード以上改善したIGA(Investigator’s Global Assessment)スコア0(明瞭)または1(ほぼ明瞭)を達成した患者の割合(主要評価項目であるIGA治療成功)は、タピナロフ群で20.24%、基剤(ビークル)群で2.24%であった(p=0.0007)。8週目にEASI(Eczema Area and Severity Index)スコアがベースラインから75%以上改善した患者の割合(EASI-75反応、主要副次評価項目)は、タピナロフ群で40.3%、ビークル群で4.3%であった(p<0.0001)。ZBB4-2では、IGA治療成功率は16週目28.1%、24週目32.3%、52週目41.3%であり、EASI-75奏効率は16週目53.3%、24週目63.7%、52週目76.6%であった。2つの試験を通して、ほとんどの有害事象(AE)は軽度または中等度であり、一般的なAEは毛嚢炎、にきび、頭痛などであった。
結論:以上より、タピナロフクリーム1%は、日本人のAD患者において、最長52週間の治療において有効であり、概して安全であった。
キーワード:アリール炭化水素受容体(AhR);アトピー性皮膚炎;臨床試験;フェーズ3;タピナロフ
引用文献
Tapinarof cream for the treatment of atopic dermatitis: Efficacy and safety results from two Japanese phase 3 trials
Atsuyuki Igarashi et al. PMID: 39269202 DOI: 10.1111/1346-8138.17451
J Dermatol. 2024 Nov;51(11):1404-1413. doi: 10.1111/1346-8138.17451. Epub 2024 Sep 13.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39269202/
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