逆流性食道炎リスク増加に関連する薬剤は?
逆流性食道炎(Reflux oesophagitis, RO)は、消化器内科医やプライマリケア医が最もよく遭遇する疾患の一つです。しかし、薬剤の使用と逆流性食道炎との関連を調べた疫学研究はほとんどありません。
そこで今回は、逆流性食道炎の有病率とその危険因子、特に薬剤使用に関して調査することを目的に実施された横断研究の結果をご紹介します。
この後方視的横断研究は、2015年10月から2021年12月の間に国立国際医療研究センター(東京都新宿区)で食道胃十二指腸内視鏡検査(OGD)を受け、質問票を用いて評価された連続患者が対象となりました。
質問票では、患者の特徴、病歴、喫煙・飲酒、OGD時に患者が服用していた薬に関するデータが収集されました。
試験結果から明らかになったことは?
対象患者 13,993例中、ROの有病率は11.8%でした。
逆流性食道炎のオッズ比(95%CI) | |
男性 | OR 1.52(1.35〜1.72) p<0.001 |
飲酒 | OR 1.57(1.40〜1.77) p<0.001 |
喫煙 | OR 1.19(1.02~1.38) p=0.026 |
飲酒 | OR 1.20(1.07~1.35) p=0.002 |
糖尿病 | OR 1.19(1.02~1.39) p=0.029 |
食道裂孔ヘルニア | OR 3.10(2.78~3.46) p<0.001 |
重度の胃萎縮がないこと | OR 2.14(1.77~2.58) p<0.001 |
カルシウム拮抗薬(CCB) | OR 1.22(1.06~1.40) p=0.007 |
テオフィリン | OR 2.13(1.27~3.56) p=0.004 |
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) | OR 1.29(1.03~1.61) p=0.026 |
多変量ロジスティック回帰分析の結果、男性(OR 1.52、95%CI 1.35〜1.72、p<0.001);肥満(OR 1.57、95%CI 1.40〜1.77、p<0.001);喫煙(OR 1.19、95%CI 1.02~1.38、p=0.026);飲酒(OR 1.20、95%CI 1.07~1.35、p=0.002);糖尿病(OR 1.19、95%CI 1.02~1.39、p=0.029);食道裂孔ヘルニア(OR 3.10、95%CI 2.78~3.46、p<0.001)、重度の胃萎縮がないこと(OR 2.14、95%CI 1.77~2.58、p<0.001)、カルシウム拮抗薬(CCB)(OR 1.22、95%CI 1.06~1.40、p=0.007)、テオフィリン(OR 2.13、95%CI 1.27~3.56、p=0.004)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(OR 1.29、95%CI 1.03~1.61、p=0.026)の使用はROの独立した予測因子でした。
コメント
逆流性食道炎(Reflux oesophagitis, RO)は、一般的によくみられる症状ですが、特定の薬剤使用との関連性については充分に検証されていません。
さて、後方視的横断研究の結果、食道胃十二指腸内視鏡検査を受けた患者のうち11.8%に逆流性食道炎(RO)がみられました。カルシウムチャネルブロッカー(CCB)、テオフィリン、NSAIDsの使用はROの独立した予測因子でした。
あくまでも相関関係が示されたにすぎませんが、各薬剤の作用機序を踏まえると理解できます。具体的には、以下の作用機序です。
・CCB:消化管平滑筋、下部食道括約筋(LES)の弛緩を引き起こします。LESは胃内容物が食道へ逆流するのを防ぐ役割を持っていますが、CCBがLESの平滑筋を弛緩させることでその圧を低下させます。その結果、胃酸や消化物が食道へ逆流しやすくなり、GERDのリスクが高まります。
・テオフィリン:気管支だけでなく消化管平滑筋にも影響を及ぼし、下部食道括約筋の圧低下を引き起こします。テオフィリンは、ホスホジエステラーゼ(PDE)の阻害作用やアデノシン受容体遮断作用を介してLESの圧を低下させます。この機序はCCBと類似しており、胃内容物の逆流を引き起こしやすくします。
・NSAIDs:消化管粘膜に対する直接的・間接的な副作用が知られています。直接刺激作用として、NSAIDs自体が胃腸粘膜に直接刺激を与えるため、逆流した場合の食道粘膜損傷が促進されます。また、間接的作用として、粘膜保護機能の低下を引き起こします。NSAIDsはプロスタグランジン合成を阻害することで胃酸分泌を増加させ、胃や食道粘膜の防御機能を低下させます。この影響により、胃内容物が食道に逆流した場合、粘膜が酸やペプシンに対してより傷つきやすくなります。
以上のことから、CCBやテオフィリン、NSAIDsが逆流性食道炎を引き起こす可能性はありますが、薬剤に意識を向ける前に、そもそもの患者背景に着目しヒアリングを通して “患者がどのような生活をおくっているのか” について把握する必要があります。
本試験結果について、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 後方視的横断研究の結果、逆流性食道炎(RO)は患者の11.8%にみられた。カルシウムチャネルブロッカー(CCB)、テオフィリン、NSAIDsの使用はROの独立した予測因子であった。
根拠となった試験の抄録
目的:逆流性食道炎(Reflux oesophagitis, RO)は、消化器内科医やプライマリケア医が最もよく遭遇する疾患の一つである。しかし、薬剤の使用と逆流性食道炎との関連を調べた疫学研究はほとんどない。本研究の目的は、逆流性食道炎の有病率とその危険因子、特に薬剤使用に関して調査することである。
方法:この後方視的横断研究は、2015年10月から2021年12月の間に国立国際医療研究センター(東京都新宿区)で食道胃十二指腸内視鏡検査(OGD)を受け、質問票を用いて評価された連続患者を対象とした。質問票では、患者の特徴、病歴、喫煙・飲酒、OGD時に患者が服用していた薬に関するデータを収集した。
結果:対象患者 13,993例中、ROの有病率は11.8%であった。多変量ロジスティック回帰分析の結果、男性(OR 1.52、95%CI 1.35〜1.72、p<0.001);肥満(OR 1.57、95%CI 1.40〜1.77、p<0.001);喫煙(OR 1.19、95%CI 1.02~1.38、p=0.026);飲酒(OR 1.20、95%CI 1.07~1.35、p=0.002);糖尿病(OR 1.19、95%CI 1.02~1.39、p=0.029;食道裂孔ヘルニア(OR 3.10、95%CI 2.78~3.46、p<0.001)、重度の胃萎縮がないこと(OR 2.14、95%CI 1.77~2.58、p<0.001)、カルシウム拮抗薬(CCB)の使用(OR 1.22、95%CI 1.06~1.40、p=0.007)、テオフィリン(OR 2.13、95%CI 1.27~3.56、p=0.004)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(OR 1.29、95%CI 1.03~1.61、p=0.026)はROの独立した予測因子であった。
結論:ROは患者の11.8%にみられた。カルシウムチャネルブロッカー(CCB)、テオフィリン、NSAIDsの使用はROの独立した予測因子であった。
キーワード:食道疾患;食道逆流;食道炎
引用文献
Medication use and risk of reflux oesophagitis
Ren Ueta et al. PMID: 39689936 PMCID: PMC11664347 DOI: 10.1136/bmjgast-2024-001468
BMJ Open Gastroenterol. 2024 Dec 16;11(1):e001468. doi: 10.1136/bmjgast-2024-001468.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39689936/
コメント