PPI使用が腎機能に及ぼす影響は?
プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用が腎機能悪化に及ぼす影響については議論があり、確かな病態生理学的説明がありません。
そこで今回は、PPI投与開始患者における腎機能悪化および急性腎障害(AKI)のリスクをH2受容体遮断薬投与開始患者と比較して評価することを目的に実施された後向きコホート研究の結果をご紹介します。
本研究は、アラゴン(スペイン)の住民ベースの健康データベースであるBIGANの縦断的記録を用いたレトロスペクティブコホート研究でした。
対象は、2015年から2020年の間にPPI(n=119,520)およびH2遮断薬(n=3,086)を開始した腎機能が保たれている患者でした。腎有害事象の発生、死亡、追跡不能、または2021年6月まで追跡されました。
本研究の主要評価項目は、腎機能悪化(sCrがベースラインの2倍以上、eGFRが60ml/min/1.73m2未満、ベースラインから30~50%低下、または末期腎不全で測定)、AKI(AberdeenアルゴリズムまたはAKIによる入院で測定)でした。
1,000人年あたりの発生率(IR)が報告され、交絡因子で調整したハザード比(HR)の算出にはCox回帰が用いられました。
試験結果から明らかになったことは?
ラニチジン | オメプラゾール | 調整後ハザード比 | |
腎機能悪化 (eGFR<60ml/min/1.73m2) | IR 18.7 (95%CI 12.0~27.8) | IR 31.2 (95%CI 29.9~32.5) | HR 0.99 (95%CI 0.66~1.48) オメプラゾール vs. ラニチジン |
腎機能悪化の粗IRはPPIよりもラニチジンの方が一貫して低いことが示されました(eGFR<60ml/min/1.73m2:ラニチジン IR 18.7、95%CI 12.0~27.8;オメプラゾール IR 31.2、95%CI 29.9~32.5)。しかし、交絡因子を調整したCox回帰分析では、腎機能悪化の発生リスクに有意差はみられませんでした(HR 0.99、95%CI 0.66~1.48 オメプラゾール vs. ラニチジン)。
ラニチジン | オメプラゾール | 調整後ハザード比 | |
AKI | IR 52.8 (95%CI 40.9~67.1) | IR 33.8 (95%CI 32.4~35.1) | HR 0.54 (95%CI 0.42~0.70) オメプラゾール vs. ラニチジン |
PPI投与開始群では、Aberdeenアルゴリズムを用いたAKIのIRが一貫して低く(オメプラゾール IR 33.8、95%CI 32.4~35.1;ラニチジン IR 52.8、95%CI 40.9~67.1)、AKIリスクも低いことが示されました(オメプラゾールではラニチジンと比較してHR 0.54、95%CI 0.42~0.70)。
コメント
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、難治性逆流性食道炎や抗凝固薬・抗血小板薬との併用などで使用され、しばしば長期的に使用される薬剤です。しかし、PPI長期使用と腎機能との関連性については、充分に検証されていません。
さて、スペインの後向きコホート研究の結果、腎機能の悪化については、PPI(オメプラゾール)使用開始者とH2遮断薬開始者の間に臨床的に関連する差は観察されませんでした。一方、PPI(オメプラゾール)使用者はラニチジン使用者と比較してAKIリスクが減少しました。
本試験結果をもって、PPIとH2受容体遮断薬のどちらが優れているのかについては結論付けられません。あくまでもラニチジンよりもオメプラゾールの方が、AKIリスクが少ない可能性が示唆されたにすぎません。さらに、PPIの中でもオメプラゾールを使用するケースは限定的であり、その多くは点滴静注で使用されると考えられます。薬物相互作用の観点からも積極的にオメプラゾールを使用するケースは多くないと考えられます。
再現性の確認も含めて、他のPPIやH2受容体遮断薬のデータも含めた、より包括的な検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ スペインの後向きコホート研究の結果、腎機能の悪化については、オメプラゾールしよう開始者とH2遮断薬開始者の間に臨床的に関連する差は観察されなかった。オメプラゾール使用者はラニチジン使用者と比較してAKIリスクが減少した。
根拠となった試験の抄録
背景:プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用が腎機能悪化に及ぼす影響については議論があり、確かな病態生理学的説明がない。
目的:PPI投与開始患者における腎機能悪化および急性腎障害(AKI)のリスクをH2遮断薬投与開始患者と比較して評価すること。
試験デザイン:アラゴン(スペイン)の住民ベースの健康データベースであるBIGANの縦断的記録を用いたレトロスペクティブコホート研究。
試験参加者:2015年から2020年の間にPPI(n=119,520)およびH2遮断薬(n=3,086)を開始した腎機能が保たれている患者。腎有害事象の発生、死亡、追跡不能、または2021年6月まで追跡した。
主要評価項目:主要評価項目は、腎機能悪化(sCrがベースラインの2倍以上、eGFRが60ml/min/1.73m2未満、ベースラインから30~50%低下、または末期腎不全で測定)、AKI(AberdeenアルゴリズムまたはAKIによる入院で測定)。1,000人年あたりの発生率(IR)が報告され、交絡因子で調整したハザード比(HR)の算出にはCox回帰が用いられた。
主な結果:腎機能悪化の粗IRはPPIよりもラニチジンの方が一貫して低かった(eGFR<60ml/min/1.73m2:ラニチジン IR 18.7、95%CI 12.0~27.8;オメプラゾール IR 31.2、95%CI 29.9~32.5)。しかし、交絡因子を調整したCox回帰分析では、腎機能悪化の発生リスクに有意差はみられなかった(HR 0.99、95%CI 0.66~1.48 オメプラゾール vs. ラニチジン)。PPI投与開始群では、Aberdeenアルゴリズムを用いたAKIのIRが一貫して低く(オメプラゾール IR 33.8、95%CI 32.4~35.1;ラニチジン IR 52.8、95%CI 40.9~67.1)、AKIリスクも低かった(オメプラゾールではラニチジンと比較してHR 0.54、95%CI 0.42~0.70)。
結論:腎機能の悪化については、PPI開始者とH2遮断薬開始者の間に臨床的に関連する差は観察されなかった。PPI使用者はラニチジン使用者と比較してAKIリスクが減少した。
キーワード:H2-ブロッカー;酸抑制薬;慢性腎臓病;プロトンポンプ阻害薬;腎機能
引用文献
Proton Pump Inhibitor Use and Worsening Kidney Function: A Retrospective Cohort Study Including 122,606 Acid-Suppressing Users
Antonio González-Pérez et al. PMID: 39627545 DOI: 10.1007/s11606-024-09213-8
J Gen Intern Med. 2024 Dec 3. doi: 10.1007/s11606-024-09213-8. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39627545/
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