左室駆出率が異なる心不全に対するMRAの効果はどのくらい?
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は駆出率が低下した心不全患者(HFrEF)における入院や死亡を減少させますが、軽度の駆出率低下した心不全患者(HFmrEF)や駆出率が維持された心不全患者(HFpEF)における有用性は不明です。
そこで今回は、駆出率の範囲にわたる心不全患者を登録した4件の試験でMRAの効果を評価したメタ解析の結果をご紹介します。
HFrEF患者を登録したRALES試験(スピロノラクトン)およびEMPHASIS-HF試験(エプレレノン)、ならびにHFmrEFまたはHFpEF患者を登録したTOPCAT試験(スピロノラクトン)およびFINEARTS-HF試験(フィネレノン)について、事前に規定された個々の患者レベルのメタ解析が実施されました。
このメタ解析の主要アウトカムは、心不全による初回入院または心血管死までの期間の複合でした。また、この複合項目の構成要素、心不全による入院の合計(初回または反復)(心血管死の有無にかかわらず)、および全死亡に対するMRAの効果が推定されました。血清クレアチニン、推算糸球体濾過量、血清カリウム、収縮期血圧などの安全性アウトカムについても評価されました。これらの集団における効果の不均一性を検討するために、試験と治療との間の交互作用が試験されました。
試験結果から明らかになったことは?
4件の試験に13,846例の患者が組み入れられました。
心血管死または心不全による入院 | ハザード比(95%CI) |
全データ | ハザード比 0.77 (0.72~0.83) |
HFmrEFまたはHFpEF | ハザード比 0.87 (0.79~0.95) |
HFrEF | ハザード比 0.66 (0.59~0.73) 交互作用のp=0.0012 |
MRAは心血管死または心不全による入院のリスクを減少させました(ハザード比 0.77、95%CI 0.72~0.83)。HFmrEFまたはHFpEF(0.87、0.79~0.95)と比較してHFrEF(0.66、0.59~0.73)で有効性が高いため、試験および治療による統計学的に有意な交互作用がみられた(交互作用のp=0.0012)。
各アウトカムのハザード比(95%CI) | 心不全による入院 | 心血管死 | 全死亡 |
HFrEF試験 | HR 0.63 (0.55~0.72) | HR 0.72 (0.63~0.82) | HR 0.73 (0.65~0.83) |
HFmrEFまたはHFpEF試験 | HR 0.82 (0.74~0.91) | HR 0.92 (0.80~1.05) | HR 0.94 (0.85~1.03) |
HFrEF試験(0.63、0.55~0.72)およびHFmrEFまたはHFpEF試験(0.82、0.74~0.91)では、心不全による入院が有意に減少しまた(心血管死の有無にかかわらず、心不全による入院総数についても同様)。
心血管死はHFrEF試験で減少しました(0.72、0.63~0.82)が、HFmrEF試験やHFpEF試験では減少しませんでした(0.92、0.80~1.05)。
全死亡もHFrEF試験では減少しました(0.73、0.65~0.83)が、HFmrEF試験やHFpEF試験では減少しませんでした(0.94、0.85~1.03)。
MRAの投与により、高カリウム血症のリスクはプラセボと比較して2倍となりましたが(オッズ比 2.27、95%CI 2.02~2.56)、重篤な高カリウム血症(血清カリウム>6.0mmol/L)の発生率は低く(2.9% vs. 1.4%)、低カリウム血症(カリウム<3.5mmol/L)のリスクは半減しました(0.51、0.45~0.57;7% vs. 14%)。
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ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、その構造からステロイド骨格を有するステロイド型MRA(スピロノラクトン、エプレレノン)と非ステロイド型MRA(フィネレノン)に分けられます。ステロイド型MRAは、その構造的特徴から女性化乳房(スピロノラクトンで顕著)や高カリウム血症などの副作用が課題となっていました。
非ステロイド型MRAの登場により、前述の副作用(特に女性化乳房)の軽減が示されましたが、より臨床上重要なアウトカムに対する効果の差異については充分に検査用されていませんでした。
さて、個々の患者レベルのメタ解析の結果、心不全患者におけるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の使用は、心血管死または心不全による入院リスクを低減させ、その効果はHFrEF患者でより顕著でした。また、個々のアウトカムについて左室駆出率(LVEF)毎に解析すると、ステロイド型MRAはHFrEF患者における心血管死または心不全による入院のリスクを減少させ、非ステロイド型MRAはHFmrEFまたはHFpEF患者におけるこのリスクを減少させることが明らかになりました。
大規模ランダム化比較試験のみが含まれているため、やや偏りのある解析結果であると考えられます。引き続き検証が求められるところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 個々の患者レベルのメタ解析の結果、ステロイド型MRAはHFrEF患者における心血管死または心不全による入院のリスクを減少させ、非ステロイド型MRAはHFmrEFまたはHFpEF患者におけるこのリスクを減少させた。
根拠となった試験の抄録
背景:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は駆出率が低下した心不全患者(HFrEF)における入院や死亡を減少させるが、軽度の駆出率低下した心不全患者(HFmrEF)や駆出率が維持された心不全患者(HFpEF)における有用性は不明である。我々は、駆出率の範囲にわたる心不全患者を登録した4つの試験でMRAの効果を評価した。
方法:これは、HFrEF患者を登録したRALES試験(スピロノラクトン)およびEMPHASIS-HF試験(エプレレノン)、ならびにHFmrEFまたはHFpEF患者を登録したTOPCAT試験(スピロノラクトン)およびFINEARTS-HF試験(フィネレノン)の、事前に規定された個々の患者レベルのメタ解析である。
このメタ解析の主要アウトカムは、心不全による初回入院または心血管死までの期間の複合であった。また、この複合項目の構成要素、心不全による入院の合計(初回または反復)(心血管死の有無にかかわらず)、および全死亡に対するMRAの効果を推定した。血清クレアチニン、推算糸球体濾過量、血清カリウム、収縮期血圧などの安全性アウトカムも評価した。これらの集団における効果の不均一性を検討するために、試験と治療との間の交互作用が試験された。
本研究はPROSPERO(CRD42024541487)に登録されている。
結果:4件の試験に13,846例の患者が組み入れられた。MRAは心血管死または心不全による入院のリスクを減少させた(ハザード比 0.77、95%CI 0.72~0.83)。HFmrEFまたはHFpEF(0.87、0.79~0.95)と比較してHFrEF(0.66、0.59~0.73)で有効性が高いため、試験および治療による統計学的に有意な交互作用がみられた(交互作用のp=0.0012)。HFrEF試験(0.63、0.55~0.72)およびHFmrEFまたはHFpEF試験(0.82、0.74~0.91)では、心不全による入院が有意に減少した。心血管死の有無にかかわらず、心不全による入院総数についても同じパターンが観察された。心血管死はHFrEF試験で減少した(0.72、0.63~0.82)が、HFmrEF試験やHFpEF試験では減少しなかった(0.92、0.80~1.05)。全死亡もHFrEF試験では減少した(0.73、0.65~0.83)が、HFmrEF試験やHFpEF試験では減少しなかった(0.94、0.85~1.03)。MRAの投与により、高カリウム血症のリスクはプラセボと比較して2倍となったが(オッズ比 2.27、95%CI 2.02~2.56)、重篤な高カリウム血症(血清カリウム>6.0mmol/L)の発生率は低く(2.9% vs. 1.4%)、低カリウム血症(カリウム<3.5mmol/L)のリスクは半減した(0.51、0.45~0.57;7% vs. 14%)。
解釈:ステロイドMRAはHFrEF患者における心血管死または心不全による入院のリスクを減少させ、非ステロイドMRAはHFmrEFまたはHFpEF患者におけるこのリスクを減少させる。
資金提供:なし
引用文献
Mineralocorticoid receptor antagonists in heart failure: an individual patient level meta-analysis
Pardeep S Jhund et al. PMID: 39232490 DOI: 10.1016/S0140-6736(24)01733-1
Lancet. 2024 Aug 30:S0140-6736(24)01733-1. doi: 10.1016/S0140-6736(24)01733-1. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39232490/
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