「CYP2D6代謝オピオイド」と「抗うつ薬」との相互作用
高齢のナーシングホーム(NH)入居者における、チトクロームP450(CYP)2D6(CYP2D6)代謝オピオイドと抗うつ薬との薬物動態学的相互作用の安全性に関するエビデンスは限られています。
そこで今回は、CYP2D6代謝オピオイドと抗うつ薬の併用と臨床転帰およびオピオイド関連有害事象(opioid-related adverse events, ORAE)との関連を調査することを目的に実施された標的試験エミュレーションの枠組みを用いたレトロスペクティブコホート研究の結果をご紹介します。
データは、2010年から2021年までのMDS(Minimum Data Set)にリンクされた100%メディケアNHサンプルが用いられました。試験参加者は、CYP2D6代謝オピオイドを投与され、抗うつ薬の適応がある65歳以上の長期居住者でした。
介入ケースは、CYP2D6代謝オピオイドの使用と1日以上重なったCYP2D6阻害性抗うつ薬とCYP2D6中性抗うつ薬の開始でした。
本研究の臨床転帰は、ベースラインから四半期ごとのデータシート評価までの疼痛、身体機能、および抑うつの悪化であり、修正ポアソン回帰モデルで解析されました。ORAEアウトカムは、疼痛に関連した入院、救急部(emergency department, ED)受診、オピオイド使用障害(opioid use disorder, OUD)、オピオイド過剰摂取のカウントであり、負の二項回帰モデルまたはポアソン回帰モデルで解析されました。すべてのモデルは、治療の逆確率重み付けによりベースラインの共変量で調整されました。
試験結果から明らかになったことは?
補正後発生率比(95%CI) | |
疼痛悪化 | 1.13(1.09~1.17) |
疼痛関連入院 | 1.37(1.19~1.59) |
疼痛関連ED受診 | 1.49(1.24~1.80) |
オピオイド使用障害(OUD) | 1.93(1.37~2.73) |
同定された住民29,435人において、CYP2D6代謝オピオイドとCYP2D6阻害性(対CYP2D6中性)抗うつ薬との併用は、疼痛悪化の高い補正後発生率比(1.13、95%CI 1.09~1.17)、疼痛関連入院(1.37、CI 1.19~1.59)、疼痛関連ED受診(1.49、CI 1.24~1.80)、およびOUD(1.93、CI 1.37~2.73)の調整後発生率比が高いことが示されましたが、身体機能、うつ病、およびオピオイド過剰摂取には差がありませんでした。
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CYP2D6は数多くの抗うつ薬、抗精神病薬の代謝に深く関与する酵素であるため精神科領域で最も重要な薬物代謝酵素です。医療用麻薬(オピオイド)であるコデイン、トラマドール、そしてオキシコドンは、一部がCYP2D6で代謝されることが知られています。しかし、CYP2D6代謝オピオイドと抗うつ薬との薬物動態学的相互作用の安全性については充分に検証されていません。
さて、標的試験エミュレーション研究の結果、CYP2D6代謝オピオイドとCYP2D6阻害性(CYP2D6中性)抗うつ薬との併用は、高齢のナーシングホーム住民における疼痛の悪化および評価されたほとんどのオピオイド関連有害事象のリスク上昇と関連していました。
疼痛コントロール悪化が懸念されることから、処方レビューと代替薬の提案が求められます。ただし、日本人では、CYP2D6遺伝子多型が異なるため、本研究と同様の結果が得られるのかについては不明です。相互作用が問題ではなく、患者転帰に悪影響を及ぼす相互作用が課題であるため、引き続き処方レビューと患者モニタリングが求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 標的試験エミュレーション研究の結果、CYP2D6代謝オピオイドとCYP2D6阻害性(CYP2D6中性)抗うつ薬との併用は、高齢のナーシングホーム住民における疼痛の悪化および評価されたほとんどのオピオイド関連有害事象のリスク上昇と関連していた。
根拠となった試験の抄録
背景:高齢のナーシングホーム(NH)入居者における、チトクロームP450(CYP)2D6(CYP2D6)代謝オピオイドと抗うつ薬との薬物動態学的相互作用の安全性に関するエビデンスは限られている。
目的:CYP2D6代謝オピオイドと抗うつ薬の併用と臨床転帰およびオピオイド関連有害事象(ORAE)との関連を調査すること。
試験デザイン:標的試験エミュレーションの枠組みを用いたレトロスペクティブコホート研究。
試験設定:2010年から2021年までのMDS(Minimum Data Set)にリンクされた100%メディケアNHサンプル。
試験参加者:CYP2D6代謝オピオイドを投与され、抗うつ薬の適応がある65歳以上の長期居住者。
介入:CYP2D6代謝オピオイドの使用と1日以上重なったCYP2D6阻害性抗うつ薬とCYP2D6中性抗うつ薬の開始。
測定:臨床転帰は、ベースラインから四半期ごとのデータシート評価までの疼痛、身体機能、および抑うつの悪化とし、修正ポアソン回帰モデルを用いて解析した。ORAEアウトカムは、疼痛に関連した入院、救急部(ED)受診、オピオイド使用障害(OUD)、オピオイド過剰摂取のカウントであり、負の二項回帰モデルまたはポアソン回帰モデルを用いて解析した。すべてのモデルは、治療の逆確率重み付けによりベースラインの共変量で調整された。
結果:同定された住民29,435人において、CYP2D6代謝オピオイドとCYP2D6阻害性(対CYP2D6中性)抗うつ薬との併用は、疼痛悪化の高い補正後発生率比(1.13、95%CI 1.09~1.17)、疼痛関連入院(1.37、CI 1.19~1.59)、疼痛関連ED受診(1.49、CI 1.24~1.80)、およびOUD(1.93、CI 1.37~2.73)の調整後発生率比が高かったが、身体機能、うつ病、およびオピオイド過剰摂取には差がなかった。
限界: 所見はNH集団にのみ一般化可能である。
結論:CYP2D6代謝オピオイドとCYP2D6阻害性(CYP2D6中性)抗うつ薬との併用は、高齢のナーシングホーム住民における疼痛の悪化および評価されたほとんどのオピオイド関連有害事象のリスク上昇と関連していた。
主要資金源:米国国立老化研究所
引用文献
Clinical and Adverse Outcomes Associated With Concomitant Use of CYP2D6-Metabolized Opioids With Antidepressants in Older Nursing Home Residents : A Target Trial Emulation Study
Yu-Jung Jenny Wei et al. PMID: 39038293 DOI: 10.7326/M23-3109
Ann Intern Med. 2024 Jul 23. doi: 10.7326/M23-3109. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39038293/
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