ペニシリンアレルギー患者におけるピロリ除菌療法レジメンの比較
高用量アモキシシリン二剤併用療法はヘリコバクター・ピロリ(H.ピロリ)感染症に特に有効であることは報告されていますが、これまでのところ、アモキシシリン以外の単一抗生物質による二剤併用療法は報告されていません。
ペニシリンは安価で有効な抗生物質の一つですが、ペニシリンアレルギーを有するH.ピロリ感染患者へ使用できないことから代替レジメンの立案が求められます。
そこで今回は、ペニシリンアレルギーを有する患者におけるHelicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ, H.pylori)感染症の第一選択治療としてのボノプラザンとテトラサイクリン(VT)併用療法の有効性と安全性を評価したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
このランダム化比較試験では、未治療の成人H. ピロリ菌感染とペニシリンアレルギーを有する未治療成人患者が、非盲検VT二重療法(ボノプラザン20mg 1日2回+テトラサイクリン500mg 1日3回)またはビスマス四重療法(BQT; ランソプラゾール30mg 1日2回+コロイド状ビスマス150mg 1日3回+テトラサイクリン500mg 1日3回+メトロニダゾール400mg 1日3回)のいずれかを14日間受ける群に1対1でランダムに割り付けられました。
本試験の主要アウトカムは、BQT群と比較したVTデュアル群の除菌率の非劣性でした。副次的アウトカムは副作用の評価などでした。
試験結果から明らかになったことは?
300例がランダムに割り付けられました。
H.ピロリ除菌率 | VT群 (95%CI) | BQT群 (95%CI) | 群間差 (95%CI) |
intention-to-treat解析 | 92.0%(138/150例) (86.1%~95.6%) | 89.3%(134/150例) (83.0%~93.6%) | 差 2.7% (-4.6% ~ 10.0%) 非劣性p=0.000 |
modified intention-to-treat解析 | 94.5%(138/146例) (89.1%~97.4%) | 93.1%(134/144例) (87.3%~96. 4%) | – |
per-protocol解析 | 95.1%(135/142例) (89.7%~97.8%) | 97.7%(128/131例) (92.9%~99.4%) | 差 2.6% (-2.9% ~ 8.3%) 非劣性p=0.000 |
ボノプラザン-テトラサイクリン(VT)群とビスマス四重療法(BQT)群の除菌率は以下の通りでした:intention-to-treat解析では92.0%(138/150例、95%信頼区間 86.1%~95.6%)、89.3%(134/150例、95%信頼区間 83.0%~93.6%)(差 2.7%、95%信頼区間 -4.6% ~ 10.0%、非劣性p=0.000)、modified intention-to-treat解析では94.5%(138/146例、95%信頼区間 89.1%~97.4%)、93.1%(134/144例、95%信頼区間 87.3%~96. 4%)、per-protocol解析では95.1%(135/142例、95%信頼区間 89.7%~97.8%)、97.7%(128/131例、95%信頼区間 92.9%~99.4%)でした(差 2.6%、95%信頼区間 -2.9% ~ 8.3%、非劣性p=0.000)。
VT群 | BQT群 | |
治療中に発現した有害事象(TEAE) | 14.0% p=0.000 | 48.0% |
TEAEによる治療中止 | 2.0% p=0.010 | 8.7% |
治療中に発現した有害事象(treatment-emergent adverse events, TEAE)はVT群で有意に低く(14.0% vs. 48.0%、p=0.000)、TEAEによる治療中止は少ないことが示されました(2.0% vs. 8.7%、p=0.010)。
コメント
ヘリコバクター・ピロリ(H.ピロリ)の除菌治療は、胃がんのリスクを減少させるために不可欠です。高用量のプロトンポンプ阻害薬(PPI)または標準用量のボノプラザン(新規のカリウム競合型アシッドブロッカー)とアモキシシリンの二剤併用療法は、アジアにおいてピロリ菌治療に有効かつ安全であることが証明されています。しかし、アモキシシリン二剤併用療法は、ペニシリンにアレルギーを有する人やアモキシシリンに耐性のあるピロリ菌に感染している人には適さない可能性があります。
テトラサイクリンはピロリ菌に対して有効な抗菌薬のひとつであり、耐性率は一般に1.2~3.3%未満であることが中国の研究で報告されています(PMID: 34765309)。従来、テトラサイクリンはビスマス4剤併用療法(BQT:PPI、ビスマス、メトロニダゾール、テトラサイクリン)の一成分として使用されていましたが、ボノプラザンとテトラサイクリン(VT)二剤併用療法におけるH.ピロリ除菌率については、充分に検証されていません。
さて、ランダム化比較試験の結果、ボノプラザン-テトラサイクリン二剤併用療法は、ペニシリンアレルギーを有する集団におけるH. pylori感染症の第一選択薬として有効性と安全性を示し、従来のBQTと比較して同等の有効性と低いTEAE発生率を示しました。
ペニシリンにアレルギーを有する人やアモキシシリンに耐性のあるピロリ菌に感染している人に対しては、ボノプラザン20mg 1日2回+テトラサイクリン500mg 1日3回による二剤併用療法14日間の投与が有効なようです。
再現性の確認も含めて、追試が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、ボノプラザン-テトラサイクリン二剤併用療法は、ペニシリンアレルギーを有する集団におけるH. pylori感染症の第一選択薬として有効性と安全性を示し、従来のBQTと比較して同等の有効性と低い治療有害事象の発生率を示した。
根拠となった試験の抄録
背景と目的:本研究の目的は、ペニシリンアレルギーを有する患者におけるHelicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ, H.pylori)感染症の第一選択治療としてのボノプラザンとテトラサイクリン(VT)併用療法の有効性と安全性を評価することである。
方法:このランダム化比較試験では、未治療の成人H. ピロリ菌感染とペニシリンアレルギーを有する未治療成人患者を、非盲検VT二重療法(ボノプラザン20mg 1日2回+テトラサイクリン500mg 1日3回)またはビスマス四重療法(BQT; ランソプラゾール30mg 1日2回+コロイド状ビスマス150mg 1日3回+テトラサイクリン500mg 1日3回+メトロニダゾール400mg 1日3回)のいずれかを14日間受ける群に1対1でランダムに割り付けた。
主要アウトカムは、BQT群と比較したVTデュアル群の除菌率の非劣性であった。副次的アウトカムは副作用の評価などであった。
結果:300例がランダムに割り付けられた。VT群とBQT群の除菌率は以下の通りであった:intention-to-treat解析では92.0%(138/150例、95%信頼区間 86.1%~95.6%)、89.3%(134/150例、95%信頼区間 83.0%~93.6%)(差2.7%、95%信頼区間 -4.6% ~ 10.0%、非劣性p=0.000)、modified intention-to-treat解析では94.5%(138/146例、95%信頼区間 89.1%~97.4%)、93.1%(134/144例、95%信頼区間 87.3%~96. 4%)、per-protocol解析では95.1%(135/142例、95%信頼区間 89.7%~97.8%)、97.7%(128/131例、95%信頼区間 92.9%~99.4%)であった(差2.6%、95%信頼区間 -2.9% ~ 8.3%、非劣性p=0.000)。治療中に発現した有害事象(TEAE)はVT群で有意に低く(14.0% vs. 48.0%、p=0.000)、TEAEによる治療中止は少なかった(2.0% vs. 8.7%、p=0.010)。
結論:ボノプラザン-テトラサイクリン二剤併用療法は、ペニシリンアレルギーを有する集団におけるH. pylori感染症の第一選択薬として有効性と安全性を示し、従来のBQTと比較して同等の有効性と低いTEAE発生率を示した。
試験登録番号 ChiCTR2300074693。
キーワード ヘリコバクター・ピロリ – 治療
引用文献
Simplified Helicobacter pylori therapy for patients with penicillin allergy: a randomised controlled trial of vonoprazan-tetracycline dual therapy
Wen Gao et al. PMID: 38906695 DOI: 10.1136/gutjnl-2024-332640
Gut. 2024 Jun 21:gutjnl-2024-332640. doi: 10.1136/gutjnl-2024-332640. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38906695/
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