ランソプラゾールとセフトリアキソンとの相互作用による影響は?
過去の研究により、セフトリアキソンを投与された患者において、ランソプラゾールが心室性不整脈、心停止、死亡のリスクを増加させる可能性が示されています(Bai et al. 2023年)。同報告では、パントプラゾール(日本未承認)、ラベプラゾール、エソメプラゾール、オメプラゾールと、セフトリアキソンとの相互作用についても評価していますが、ランソプラゾールほどの影響はありませんでした。具体的には、セフトリアキソン治療中にランソプラゾールを併用した場合、他のプロトンポンプ阻害薬(PPI)を併用した場合と比較して、心室性不整脈または心停止の調整済み絶対リスクが1.7%(95%CI 1.1%〜2.3%)増加することがわかりました。これは、他のPPIを投与された58.8人に対して、ランソプラゾールを投与された場合に、心室性不整脈または心停止を起こす患者が1人増加することに相当します。
日本の実臨床における検証は不充分なことから更なる検証が求められています。そこで今回は、セフトリアキソンと経口または静脈内ランソプラゾールの併用により、心室性不整脈および心停止のリスクが増加するか否かを、日本における実臨床において検討することを目的に実施されたデータベース研究の結果をご紹介します。
本研究は、JMDC病院ベースの行政請求データベースから2014年4月から2022年8月までのデータが解析されました。セフトリアキソンまたはスルバクタム/アンピシリン投与中にプロトンポンプ阻害薬(PPI)を投与された患者が同定されました。セフトリアキソンまたはスルバクタム/アンピシリンに経口または静脈内PPIを併用したかどうかに応じて、心室性不整脈および心停止の頻度が解析され、その後、Fine-Gray競合リスク回帰モデルにより、心室性不整脈および心停止の発生率の推定値について群間比較されました。
試験結果から明らかになったことは?
(セフトリアキソンとの併用) | ハザード比(95%CI) vs. スルバクタム/アンピシリンとランソプラゾールの経口または静脈内投与との併用 |
ランソプラゾールの経口 | ハザード比 4.57 (1.99〜4.29) P<0.01 |
ランソプラゾールの静脈内投与 | ハザード比 4.57 (1.24〜16.80) P=0.02 |
心室性不整脈および心停止のリスクは、スルバクタム/アンピシリンとランソプラゾールの経口または静脈内投与との併用に比べ、セフトリアキソンとランソプラゾールの経口(ハザード比 4.57、95%信頼区間 1.99〜4.29、P<0.01)またはランソプラゾールの静脈内投与(ハザード比 4.57、95%信頼区間 1.24〜16.80、P=0.02)のほうが有意に高いことが示されました。
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human ether-a-go-go related gene(hERG)チャネルとは?
ヒト心臓の心筋に発現している電位作動性K+チャネル「human ether-a-go-go related gene(hERG)チャネル」は、主に心室筋における活動電位の再分極に重要であり、その電流はIKr電流として知られています。また、極めて遅い脱活性化を示し、その制御にはN末端細胞内ドメインであるEAGドメインと、C末端の環状ヌクレオチド(CN)結合相同(CNBH)ドメインによるドメイン間相互作用が必要とされています。
遺伝子異常や投薬によるこのチャネルの機能不全は、主にQT延長症候群の原因として知られており、深刻な場合は突然死に結びつくような致死性不整脈に発展する可能性があるとされています。
hERGチャネルと薬物相互作用
過去の研究により、セフトリアキソンとランソプラゾールの併用は、心電図上のQTc間隔の延長と関連することが示されています。 QTc間隔の延長は、心室性不整脈や心停止などの重篤な心血管系有害事象のリスク増加と関連しています。
セフトリアキソンとランソプラゾールの両方が、心筋細胞上のhERGカリウムチャネルを遮断することが、パッチクランプ電気生理学的実験で示されています。hERGチャネルの遮断は、QTc間隔の延長を引き起こすことが知られています。セフトリアキソンとランソプラゾールを併用すると、両方の薬剤がhERGチャネルを遮断するため、QTc間隔が延長し、心室性不整脈や心停止のリスクが高まると考えられます。
他のプロトンポンプ阻害薬(PPI)では、セフトリアキソンとの併用でQTc間隔の延長は見られなかったことから、この相互作用はランソプラゾールに特異的であると考えられています。 ただし、PPI全般としてQTc間隔を延長する可能性も指摘されています。
PPI、P-CABによるCYPへの影響
シトクロームP450(CYPへの影響) | |
オメプラゾール | シトクロームP450 2C19 (CYP2C19) を強く阻害します。 このため、CYP2C19を介して代謝される薬剤の効果に影響を与える可能性があります。 |
ランソプラゾール | オメプラゾールと同様にCYP2C19を阻害しますが、その阻害力はオメプラゾールよりやや弱いとされています。 |
エソメプラゾール | オメプラゾールのS-エナンチオマーで、CYP2C19の阻害がありますが、 オメプラゾールほどの強い影響はないとされています。 |
ラベプラゾール | CYP2C19の阻害が非常に少ないとされており、他のPPIに比べて薬物相互作用のリスクが低いと考えられています。 |
ボノプラザン | 一般的なプロトンポンプ阻害薬と比較してシトクロームP450(特にCYP2C19)への影響が非常に少ないとされています。 そのため、P-CABは他の薬剤との相互作用が少ないという利点があります。 |
今回の論文の結果を踏まえて
さて、日本のデータベース研究の結果、ランソプラゾールの経口および静脈内投与は、セフトリアキソン投与患者における心室性不整脈および心停止のリスクを増加させる可能性が示されました。
これまでの研究結果を踏まえると、セフトリアキソンとPPIと併用する場合に、少なくともランソプラゾール以外のPPIを選択した方が良さそうです。
結果の再現性の確認、死亡などのより重要な転帰への影響を含め、更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 日本のデータベース研究の結果、ランソプラゾールの経口および静脈内投与は、セフトリアキソン投与患者における心室性不整脈および心停止のリスクを増加させる可能性がある。
根拠となった試験の抄録
目的:セフトリアキソンと経口または静脈内ランソプラゾールの併用により、心室性不整脈および心停止のリスクが増加するか否かを、日本における実臨床において検討すること。
方法:JMDC病院ベースの行政請求データベースから2014年4月から2022年8月までのデータを解析した。セフトリアキソンまたはスルバクタム/アンピシリン投与中にプロトンポンプ阻害薬(PPI)を投与された患者を同定した。セフトリアキソンまたはスルバクタム/アンピシリンに経口または静脈内PPIを併用したかどうかに応じて、心室性不整脈および心停止の頻度を解析した。その後、Fine-Gray競合リスク回帰モデルを用いて、心室性不整脈および心停止の発生率の推定値を群間で比較した。
結果:心室性不整脈および心停止のリスクは、スルバクタム/アンピシリンとランソプラゾールの経口または静脈内投与との併用に比べ、セフトリアキソンとランソプラゾールの経口(ハザード比 4.57、95%信頼区間 1.99〜4.29、P<0.01)またはランソプラゾールの静脈内投与(ハザード比 4.57、95%信頼区間 1.24〜16.80、P=0.02)のほうが有意に高かった。
結論:ランソプラゾールの経口および静脈内投与は、セフトリアキソン投与患者における心室性不整脈および心停止のリスクを増加させる可能性がある。
キーワード:心臓有害事象、セフトリアキソン、病院ベースのデータベース、ランソプラゾール、プロトンポンプ阻害薬
引用文献
Concomitant use of lansoprazole and ceftriaxone is associated with an increased risk of ventricular arrhythmias and cardiac arrest in a large Japanese hospital database
Satoru Mitsuboshi et al. PMID: 38897240 DOI: 10.1016/j.jinf.2024.106202
J Infect. 2024 Jun 17;89(2):106202. doi: 10.1016/j.jinf.2024.106202. Online ahead of print.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38897240/
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