SARS-CoV-2感染の亜急性後遺症を有する成人におけるニルマトルビル-リトナビルの効果は?(RCT; STOP-PASC試験; JAMA Intern Med. 2024)

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SARS-CoV-2感染の亜急性後遺症にニルマトレルビル-リトナビルは有効か?

SARS-CoV-2感染の亜急性後遺症(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection, PASC)は、long-COVIDまたはCOVID-19後遺症としても知られ、世界中で数百万人が罹患しており、QOLや機能に影響を及ぼす数ヵ月から数年持続する様々な状態や症状を包含しています。PASCに対するエビデンスに基づいた治療が急務ではありますが、根本的な病態生理を標的とした介入を検証する臨床試験は、現在ほとんど発表されていません。

そこで今回は、ニルマトレルビル-リトナビルの15日間投与によるPASC症状の重症度軽減効果を評価することを目的に実施されたランダム化比較試験(STOP-PASC試験)の結果をご紹介します。

本試験は、スタンフォード大学(カリフォルニア州)で2022年11月から2023年9月にかけて実施された15週間の盲検プラセボ対照ランダム化比較試験です。試験参加者は、3ヵ月以上の中等度から重度のPASC症状を有する成人でした。

試験参加者は、ニルマトレルビル-リトナビル(NMV/r、300mgおよび100mg)の経口投与またはプラセボ-リトナビル(PBO/r)の1日2回投与に2:1でランダムに割り付けられ、15日間投与されました。

本試験の主要アウトカムは、10週時点における6つのPASC症状(疲労、ブレインフォグ、息切れ、体の痛み、消化器症状、心血管系症状)のプールされた重症度でした。副次的アウトカムには、異なる時点における症状の重症度、症状の負担と軽減、患者グローバル尺度、患者報告アウトカム測定情報システム(PROMIS)尺度、起立バイタルサイン、座位-立位テストのベースラインからの変化などが含まれました。

試験結果から明らかになったことは?

試験参加者155人(年齢中央値 43[IQR 34〜54]歳;女性92人[59%])のうち、102人がNMV/r群に、53人がPBO/r群にランダム化されました。ほぼすべての試験参加者(n=153)がCOVID-19ワクチン接種の一次シリーズを受けていました。SARS-CoV-2指標感染からランダム化までの平均期間は17.5(SD 9.1)ヵ月でした。

ニルマトレルビル-リトナビル(NMV/r)群プラセボ-リトナビル(PBO/r)群
主要アウトカム102人中99人(97.1%)53人中49人(92.5%)

NMV/r群では102人中99人(97.1%)、PBO/r群では53人中49人(92.5%)であり、10週時点の6つの中核症状をプールしたモデル由来の重症度転帰に統計学的有意差はありませんでした

10週時点の患者全般印象(Patient Global Impression of Severity)スコアまたは患者全般印象変化(Patient Global Impression of Change)スコア、総括的症状スコア、PROMIS疲労、呼吸困難、認知機能、身体機能測定におけるベースラインから10週時点までの変化において、統計学的に有意な群間差は認められませんでした。

有害事象発生率はNMV/r群とPBO/r群で同程度であり、ほとんどが低グレードでした。

コメント

コロナ後遺症に対する治療薬の報告はほとんどありません。そのため、エビデンスに基づいた治療方法の確立が急務です。急性期後の亜急性期、慢性期にもウイルスが残存していることが報告されているため、継続的な炎症と免疫異常から引き起こされる多様な症状に対して抗ウイルス薬が有効である可能性があります。

さて、ランダム化比較試験の結果、3ヵ月以上の中等度から重度のPASC症状を有する成人に対するニルマトレルビル/リトナビル投与は、プラセボ/リトナビルと比較して、10週時点の6つの中核症状をプールしたモデル由来の重症度転帰に統計学的有意差はありませんでした。

亜急性期〜慢性期は、体内のウイルス量が少ない/ほぼないことから抗ウイルス薬の効果が示されなかったのかもしれません。まずは、コロナ後遺症の病態の把握から、推測される発症機序、これに対する治療薬候補の選択が求められます。現時点では、定期的なワクチン接種に加えて、発症後早期の抗ウイルス薬の投与が、コロナ後遺症の発症リスクを低減できます。しかし、コロナ後遺症の発症後における有効な治療薬はないことから、引き続き治療薬の探索が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、3ヵ月以上の中等度から重度のPASC症状を有する成人に対するニルマトレルビル/リトナビル投与は、プラセボ/リトナビルと比較して、10週時点の6つの中核症状をプールしたモデル由来の重症度転帰に統計学的有意差はなかった。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:SARS-CoV-2感染の亜急性後遺症(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection, PASC)に対する治療法の特定が急務である。

目的:ニルマトレルビル-リトナビルの15日間投与によるPASC症状の重症度軽減効果を評価すること。

試験デザイン、設定、参加者:本試験は、スタンフォード大学(カリフォルニア州)で2022年11月から2023年9月にかけて実施された15週間の盲検プラセボ対照ランダム化比較試験である。参加者は、3ヵ月以上の中等度から重度のPASC症状を有する成人であった。

介入:試験参加者は、ニルマトレルビル-リトナビル(NMV/r、300mgおよび100mg)の経口投与またはプラセボ-リトナビル(PBO/r)の1日2回投与に2:1でランダムに割り付けられ、15日間投与された。

主要アウトカムと評価基準:主要アウトカムは、10週時点における6つのPASC症状(疲労、ブレインフォグ、息切れ、体の痛み、消化器症状、心血管系症状)のプールされた重症度とした。副次的アウトカムには、異なる時点における症状の重症度、症状の負担と軽減、患者グローバル尺度、患者報告アウトカム測定情報システム(PROMIS)尺度、起立バイタルサイン、座位-立位テストのベースラインからの変化などが含まれた。

結果:試験参加者155人(年齢中央値 43[IQR 34〜54]歳;女性92人[59%])のうち、102人がNMV/r群に、53人がPBO/r群にランダム化された。ほぼすべての試験参加者(n=153)がCOVID-19ワクチン接種の一次シリーズを受けていた。SARS-CoV-2指標感染からランダム化までの平均期間は17.5(SD 9.1)ヵ月であった。NMV/r群では102人中99人(97.1%)、PBO/r群では53人中49人(92.5%)であり、10週時点の6つの中核症状をプールしたモデル由来の重症度転帰に統計学的有意差はなかった。10週時点の患者全般印象(Patient Global Impression of Severity)スコアまたは患者全般印象変化(Patient Global Impression of Change)スコア、総括的症状スコア、PROMIS疲労、呼吸困難、認知機能、身体機能測定におけるベースラインから10週時点までの変化において、統計学的に有意な群間差は認められなかった。有害事象発生率はNMV/r群とPBO/r群で同程度であり、ほとんどが低グレードであった。

結論と関連性:このランダム化比較試験の結果から、PASC患者集団におけるNMV/rの15日間コースは一般的に安全であることが示されたが、症状の持続期間が長期に及ぶワクチン接種を受けたコホートがほとんどであり、特定のPASC症状の改善に対する有意な有益性は示されなかった。PASCの治療における抗ウイルス薬の役割を明らかにするためには、さらなる研究が必要である。

臨床試験登録:ClinicalTrials.gov Identifier. NCT05576662

引用文献

Nirmatrelvir-Ritonavir and Symptoms in Adults With Postacute Sequelae of SARS-CoV-2 Infection: The STOP-PASC Randomized Clinical Trial
Linda N Geng et al. PMID: 38848477 PMCID: PMC11161857 DOI: 10.1001/jamainternmed.2024.2007
JAMA Intern Med. 2024 Jun 7:e242007. doi: 10.1001/jamainternmed.2024.2007. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38848477/

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