自然発症頸部動脈解離における抗凝固療法 vs. 抗血小板薬(SR&MA; Stroke. 2024)

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自然発症頸部動脈解離患者における脳卒中予防において抗凝固療法と抗血小板薬どちらが良いか?

観察的抗血栓療法の比較評価を行ったSTOP-CAD(Stroke Prevention in Cervical Artery Dissection:頸部動脈解離における脳卒中予防)試験では、世界16ヵ国63施設から得られたデータ(n=3,636)の後方視的解析により、重大外傷のない頸動脈乖離患者における抗血栓療法の種類と30日・180日アウトカム(虚血性脳卒中の再発または重大出血)の関連が比較検討されました。

その結果、抗凝固療法は、30日以内(aHR 0.71、95%CI 0.45〜1.12; P=0.145)、および180日以内(0.80、95%CI 0.28〜2.24; P=0.670)の虚血性脳卒中リスクの低下と関連していましたが、いずれも有意ではありませんでした。抗凝固療法は、30日以内の重大出血リスクとは非有意に(aHR 1.39、95%CI 0.35〜5.45; P=0.637))、180日以内の重大出血リスクとは有意に関連していました(aHR 5.56、95%CI 1.53〜20.13; P=0.009)。

このように、頸部動脈解離患者の早期脳卒中再発予防において、抗血小板薬と抗凝固薬のどちらがより有効であるかは依然として不明なままです。

そこで今回は、頸部動脈解離における抗血小板療法と抗凝固療法を比較した系統的レビューとメタ解析の結果をご紹介します。

異なる抗血小板薬と抗凝固薬、および頸部動脈解離を包含するキーワードを組み合わせ、対象の研究が5つのデータベースから検索されました。関連するランダム化比較試験が対象であり、大外傷とは無関係な解離の観察研究も含められました。

研究が十分に類似している場合には、有効性(虚血性脳卒中)と安全性(大出血、症候性頭蓋内出血、死亡)の転帰について相対リスクを用いたメタ解析が行われました。

試験結果から明らかになったことは?

組み入れ基準を満たす11件の研究(2件のランダム化試験と9件の観察研究)が同定されました。これらには5,039例の患者(抗凝固療法を受けた患者は30%[1,512例]、抗血小板療法を受けた患者は70%[3,527例])が含まれていました。

相対リスク(95%CI)
虚血性脳卒中リスク相対リスク 0.63(0.43~0.94
P=0.02;I2=0%
大出血リスク相対リスク 2.25(1.07~4.72
P=0.03、I2=0%

メタ解析の結果、抗凝固療法は虚血性脳卒中リスクの低下(相対リスク 0.63、95%CI 0.43~0.94;P=0.02;I2=0%)と関連していましたが、大出血リスクは高いことが示されました(相対リスク 2.25、95%CI 1.07~4.72;P=0.03、I2=0%)。

死亡と症候性頭蓋内出血のリスクは2つの治療法の間で同程度でした。

効果サイズはランダム化比較試験の方が大きいことが示されました。

二重抗血小板療法または直接経口抗凝固薬の有効性および安全性に関するデータは不充分でした。

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頸部動脈解離は、頸部動脈の内壁が裂けることを指します。この裂け目により血液が動脈壁内に入り込み、血腫が形成されると動脈が狭くなったり閉塞したりします。最終的には血流が遮断され、脳卒中を引き起こす可能性があります。主な症状には突然の激しい頭痛、首の痛み、視覚異常、顔や体の片側の麻痺などがあります。

患者予後は、早期診断と適切な治療により一般的に良好とされていますが、大部分の患者では治療後に完全またはほぼ完全な回復を遂げます。しかし、一部の患者では再発する可能性があり、特に再発脳卒中や重大な出血のリスクが懸念されます。

さて、頸部動脈解離患者を対象としたメタ解析の結果、虚血性脳卒中の抑制において抗凝固療法は抗血小板療法より優れているものの、大出血リスクは高いことが示されました。

脳卒中リスクの低減を目的に治療がなされますが、患者背景によっては出血リスクにより予後悪化する可能性があります。このため、患者背景により、抗凝固薬と抗血小板薬のどちらを選択した方が良いのか、慎重な判断が求められます。

メタ解析の対象となった研究は11件であり、大半が観察研究でした。このため、より堅牢な試験デザインでの検証結果が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 頸部動脈解離患者を対象としたメタ解析の結果、虚血性脳卒中の抑制において抗凝固療法は抗血小板療法より優れていたが、大出血リスクは高かった。

根拠となった試験の抄録

背景:頸部動脈解離患者の早期脳卒中再発予防において、抗血小板薬と抗凝固薬のどちらがより有効であるかは不明である。STOP-CAD(Stroke Prevention in Cervical Artery Dissection:頸部動脈解離における脳卒中予防)の観察的抗血栓療法の発表を受けて、我々は頸部動脈解離における抗血小板療法と抗凝固療法を比較する最新の系統的レビューとメタ解析を行った。

方法:システマティックレビューはPROSPEROに登録した(CRD42023468063)。異なる抗血小板薬と抗凝固薬、および頸部動脈解離を包含するキーワードを組み合わせて5つのデータベースを検索した。関連するランダム化比較試験を対象とし、大外傷とは無関係な解離の観察研究も含めた。研究が十分に類似している場合には、有効性(虚血性脳卒中)と安全性(大出血、症候性頭蓋内出血、死亡)の転帰について相対リスクを用いたメタ解析を行った。

結果:組み入れ基準を満たす11件の研究(2件のランダム化試験と9件の観察研究)を同定した。これらには5,039例の患者(抗凝固療法を受けた患者は30%[1,512例]、抗血小板療法を受けた患者は70%[3,527例])が含まれていた。メタアナリシスでは、抗凝固療法は虚血性脳卒中リスクの低下(相対リスク 0.63、95%CI 0.43~0.94;P=0.02;I2=0%)と関連していたが、大出血リスクは高かった(相対リスク 2.25、95%CI 1.07~4.72;P=0.03、I2=0%)。死亡と症候性頭蓋内出血のリスクは2つの治療法の間で同程度であった。エフェクトサイズはランダム化試験の方が大きかった。二重抗血小板療法または直接経口抗凝固薬の有効性および安全性に関するデータは不十分である。

結論:頸部動脈解離患者を対象としたメタ解析の結果、虚血性脳卒中の抑制において抗凝固療法は抗血小板療法より優れていたが、大出血リスクは高かった。このことは、虚血性脳卒中の減少という正味の臨床的ベネフィットと出血リスクを組み込んだ個別化された治療アプローチが必要であることを主張している。頸部動脈解離の管理に最適な抗血栓戦略を明らかにするためには、大規模ランダム化臨床試験が必要である。

キーワード:抗凝固療法、抗血小板薬、頸部動脈解離、脳卒中

引用文献

Anticoagulation Versus Antiplatelets in Spontaneous Cervical Artery Dissection: A Systematic Review and Meta-Analysis
Shadi Yaghi et al. PMID: 38847098 DOI: 10.1161/STROKEAHA.124.047310
Stroke. 2024 Jun 7. doi: 10.1161/STROKEAHA.124.047310. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38847098/

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