コンピュータ化された臨床的意思決定支援は有効なのか?
慢性腎臓病(CKD)は、米国で3,700万人の成人が罹患しており、CKD患者にとって高血圧は腎不全、心血管イベント、死亡などの有害な転帰の主要な危険因子です。
コンピュータ化された臨床判断支援(CDS)システムを導入することで、CKD患者の血圧コントロールが改善する可能性がありますが、充分に検証されていません。
そこで今回は、CKD患者におけるコントロールされていない高血圧の管理のためのCDSシステムの効果を検証したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
この多施設共同ランダム化臨床試験では、病院、外来、地域医療センターを基盤とする15の診療所を含むプライマリケアネットワークのプライマリケア医(PCP)が、層別マッチドペアランダム化法により2021年2月から2022年2月にかけてランダム化されました。過去2年間にPCPを受診したことのあるすべての成人患者を対象とし、CKDと高血圧のエビデンスのある患者が組み入れられました。
本試験の介入は、行動経済学的原則と人間中心設計の手法に基づいたCDSシステムで構成され、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬の開始または漸増・漸減を含む、テーラーメイドでエビデンスに基づいた推奨が提供されました。対照群の患者はPCPによる通常のケアを受け、CDSシステムはサイレントモードで作動しました。
主要アウトカムと評価基準:主要アウトカムはベースラインから180日までの平均収縮期血圧(SBP)の変化を群間で比較したものであった。主要解析は反復測定線形混合モデルで、ベースライン時、90日後、180日後のSBPを用いてintention-to-treat反復測定モデルで欠損データを考慮した。副次的アウトカムには、血圧コントロール、CDSの推奨に沿った処置を受けた患者の割合などのアウトカムが含まれた。
試験結果から明らかになったことは?
174人のPCPと2,026人の患者(平均年齢 75.3[SD 0.3]歳;女性 1,223人[60.4%];ベースライン時の平均SBP、154.0[SD 14.3]mmHg)が研究対象となり、87人のPCPと1,029人の患者が介入に、87人のPCPと997人の患者が通常ケアにランダムに割り付けられました。全体として、ベースライン時に高血圧の治療を受けていた患者は1,714人(84.6%)、180日目にSBPを測定した患者は1,623人(80.1%)でした。
介入群 | 通常ケア群 | |
平均SBP変化 | -14.6mmHg (95%CI -13.1 ~ -16.0) P=0.005 | -11.7mmHg (95%CI -10.2 ~ -13.1) |
線形混合モデルから、介入群の平均SBP変化には通常ケア群と比較して統計的に有意な差がみられました(変化 -14.6、95%CI -13.1 ~ -16.0mmHg vs. -11.7、-10.2 ~ -13.1mmHg;P=0.005)。
介入群でBPコントロールを達成した患者の割合は対照群と差がありませんでした(50.4%、95%CI 46.5~54.3 vs. 47.1%、95%CI 43.3~51.0)。
介入群では通常ケア群と比較して、より多くの患者がCDSの推奨に沿った処置を受けました(49.9%、95%CI 45.1~54.8 vs. 34.6%、95%CI 29.8~39.4;P<0.001)。
コメント
コンピュータ化された臨床判断支援(CDS)システムを導入することで、コントロールされていない高血圧を有するCKD患者の転帰が改善する可能性がありますが、実臨床での検証は充分ではありません。
さて、ランダム化比較試験の結果、コンピュータ化された臨床判断支援(CDS)システムを導入することにより、CKD患者の集団レベルにおいて、コントロールされていない高血圧の管理が改善される可能性が示されました。ただし、通常ケアを受けた対照群との血圧の差は3mmHg程度であり、実臨床における有益性は不明であることから、更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、コンピュータ化された臨床判断支援システムを導入することにより、CKD患者の集団レベルにおいて、コントロールされていない高血圧の管理が改善されたが、その差は約3mmHgであった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:慢性腎臓病(CKD)は、米国で3,700万人の成人が罹患しており、CKD患者にとって高血圧は腎不全、心血管イベント、死亡などの有害な転帰の主要な危険因子である。
目的:CKD患者におけるコントロールされていない高血圧の管理のためのコンピュータ化された臨床判断支援(clinical decision support, CDS)システムを評価すること。
試験デザイン、設定、参加者:この多施設共同ランダム化臨床試験は、病院、外来、地域医療センターを基盤とする15の診療所を含むプライマリケアネットワークのプライマリケア医(PCP)を、層別マッチドペアランダム化法により2021年2月から2022年2月にかけてランダム化した。過去2年間にPCPを受診したことのあるすべての成人患者を対象とし、CKDと高血圧のエビデンスのある患者を組み入れた。
介入:介入は、行動経済学的原則と人間中心設計の手法に基づいたCDSシステムで構成され、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬の開始または漸増・漸減を含む、テーラーメイドでエビデンスに基づいた推奨を提供した。対照群の患者はPCPによる通常のケアを受け、CDSシステムはサイレントモードで作動した。
主要アウトカムと評価基準:主要アウトカムはベースラインから180日までの平均収縮期血圧(SBP)の変化を群間で比較したものであった。主要解析は反復測定線形混合モデルで、ベースライン時、90日後、180日後のSBPを用いてintention-to-treat反復測定モデルで欠損データを考慮した。副次的アウトカムには、血圧コントロール、CDSの推奨に沿った処置を受けた患者の割合などのアウトカムが含まれた。
結果:174人のPCPと2,026人の患者(平均年齢 75.3[SD 0.3]歳;女性 1,223人[60.4%];ベースライン時の平均SBP、154.0[SD 14.3]mmHg)が研究対象となり、87人のPCPと1,029人の患者が介入に、87人のPCPと997人の患者が通常ケアにランダムに割り付けられた。全体として、ベースライン時に高血圧の治療を受けていた患者は1,714人(84.6%)であった。180日目にSBPを測定した患者は1,623人(80.1%)であった。線形混合モデルから、介入群の平均SBP変化には通常ケア群と比較して統計的に有意な差がみられた(変化 -14.6、95%CI -13.1 ~ -16.0mmHg vs. -11.7、-10.2 ~ -13.1mmHg;P=0.005)。介入群でBPコントロールを達成した患者の割合は対照群と差がなかった(50.4%、95%CI 46.5~54.3 vs. 47.1%、95%CI 43.3~51.0)。介入群では通常ケア群と比較して、より多くの患者がCDSの推奨に沿った処置を受けた(49.9%、95%CI 45.1~54.8 vs. 34.6%、95%CI 29.8~39.4;P<0.001)。
結論と関連性:これらの所見は、このコンピュータ化されたCDSシステムを導入することにより、CKD患者の集団レベルにおいて、コントロールされていない高血圧の管理が改善され、臨床転帰が改善される可能性があることを示唆している。
臨床試験登録:ClinicalTrials.gov Identifier. NCT03679247
引用文献
Clinical Decision Support for Hypertension Management in Chronic Kidney Disease: A Randomized Clinical Trial
Lipika Samal et al. PMID: 38466302 PMCID: PMC10928544 (available on 2025-03-11) DOI: 10.1001/jamainternmed.2023.8315
JAMA Intern Med. 2024 Mar 11:e238315. doi: 10.1001/jamainternmed.2023.8315. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38466302/
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