慢性片頭痛に対する予防投与としてアトゲパントの効果はどのくらいなのか?
カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide: CGRP)は、37個のアミノ酸から構成されており、小型~中型の三叉神経節ニューロンや後根神経節ニューロンに局在しています。片頭痛患者の頸静脈における血中CGRP濃度が頭痛発作時に有意に高値であることなどが明らかになっています。CGRPが過剰に放出されることにより、血管拡張作用、血漿蛋白の漏出、肥満細胞の脱顆粒により三叉神経血管系に神経原性炎症が惹起され、疼痛シグナルが中枢へ伝達して大脳皮質で痛みとして知覚されます。
以上のことから、CGRP受容体拮抗薬は、片頭痛の発作予防薬として海外で承認・使用されています。Atogepant(アトゲパント)は低分子のCGRP受容体拮抗薬であり、片頭痛の予防的治療として開発されています。現在、日本で使用されているCGRP抗体薬は注射製剤であるため、患者の利便性において制限があります。経口投与が可能なCGRP受容体拮抗薬が使用できれば患者の利便性向上を含め、臨床的に重要な意義があります。
そこで今回は、慢性片頭痛の予防的治療薬としてのアトゲパントの有効性、安全性、忍容性を評価することを目的としたランダム化比較試験(ランダム化二重盲検プラセボ対照第3相試験)の結果をご紹介します。
本試験は、米国、英国、カナダ、中国、チェコ共和国、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、日本、韓国、ポーランド、ロシア、スペイン、スウェーデン、台湾の142の臨床研究施設で行われました。1年以上の慢性片頭痛歴を有する18~80歳の成人を、アトゲパント30mgを1日2回経口投与する群、アトゲパント60mgを1日1回経口投与する群、プラセボを投与する群にランダムに割り付けました(1:1:1)。
本試験の主要評価項目は、12週間の治療期間における月平均片頭痛日数(MMD)のベースラインからの変化でした。主要解析は修正intent-to-treat集団で行われ、ランダムに割り付けられた参加者のうち、少なくとも1回の試験介入投与を受け、評価可能なベースライン期間の電子日記(eDiary)データを有し、二重盲検期間中に少なくとも1回の評価可能なベースライン後の4週間(1~4週目、5~8週目、9~12週目)のeDiaryデータを有するすべての参加者が含まれました。安全性集団は、試験介入を少なくとも1回受けた全参加者で構成されました。
試験結果から明らかになったことは?
2019年3月11日から2022年1月20日の間に、1,489例の参加者が適格性を評価されました。711例が除外され、778例がアトゲパント30mg1日2回投与群(n=257)、アトゲパント60mg1日1回投与群(n=262)、プラセボ群(n=259)にランダムに割り付けられました。安全性試験参加者の年齢は18~74歳(平均 42.1歳)であり、773例中459例(59%)が白人、677例(88%)が女性、96例(12%)が男性でした。試験の途中で84例が治療を中止し、755例が修正intent-to-treat集団となりました(アトゲパント30mg1日2回投与:253例、アトゲパント60mg1日1回投与:256例、プラセボ:246例)。ベースラインの平均MMD数は、アトゲパント30mg1日2回投与群で18.6(SE 5.1)、アトゲパント60mg1日1回投与群で19.2(5.3)、プラセボ投与群で18.9(4.8)でした。
月平均片頭痛日数 | ベースライン | 12週間後 | プラセボとの最小二乗平均差 (95%信頼区間) |
アトゲパント30mg (1日2回投与) | 18.6(SE 5.1) | -7.5(SE 0.4) | -2.4 (-3.5 ~ -1.3) 調整後p<0.0001 |
アトゲパント60mg (1日1回投与) | 19.2(SE 5.3) | -6.9(SE 0.4) | -1.8 (-2.9 ~ -0.8) 調整後p=0.0009 |
プラセボ | 18.9(SE 4.8) | -5.1(SE 0.4) | – |
12週間にわたる平均MMDのベースラインからの変化は、アトゲパント30mg1日2回投与群で-7.5(SE 0.4)、アトゲパント60mg1日1回投与群で-6.9(0.4)、プラセボ投与群で-5.1(0.4)でした。プラセボとの最小二乗平均差は、アトゲパント30mg1日2回投与群で-2.4(95%信頼区間 -3.5 ~ -1.3;調整後p<0.0001)、アトゲパント60mg1日1回投与群で-1.8(-2.9 ~ -0.8;調整後p=0.0009)でした。
アトゲパントで最も多くみられた有害事象は、便秘(30mg 1日2回投与28例[10.9%]、60mg 1日1回投与26例[10%]、プラセボ8例[3%])と吐き気(30mg 1日2回投与20例[8%]、60mg 1日1回投与25例[10%]、プラセボ9例[4%])でした。
臨床的に有意な体重減少(ベースライン後の任意の時点で7%以上の減少)が各治療群で観察されました(アトゲパント30mg 1日2回投与14例[6%]、アトゲパント60mg 1日1回投与15例[6%]、プラセボ3例[2%])。
コメント
慢性片頭痛に対して、経口投与可能なCGRP受容体拮抗薬の開発が進んでいます。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、アトゲパント30mg1日2回投与および60mg1日1回投与は、慢性片頭痛患者において12週間にわたり臨床的に意義のある月平均片頭痛日数の減少を示し増した。
有害事象としては、便秘と吐き気、そして臨床的に有意な体重減少が示されています。
リスクベネフィットの観点からアトゲパントの臨床的有用性が示されたものと考えられますが、追試が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ アトゲパント30mg1日2回投与および60mg1日1回投与は、慢性片頭痛患者において12週間にわたり臨床的に意義のある月平均片頭痛日数の減少を示した。
根拠となった試験の抄録
背景:本研究では、慢性片頭痛の予防的治療薬としてのアトゲパントの有効性、安全性、忍容性を評価することを目的とした。
方法:米国、英国、カナダ、中国、チェコ共和国、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、日本、韓国、ポーランド、ロシア、スペイン、スウェーデン、台湾の142の臨床研究施設でランダム化二重盲検プラセボ対照第3相試験を行った。1年以上の慢性片頭痛歴を有する18~80歳の成人を、アトゲパント30mgを1日2回経口投与する群、アトゲパント60mgを1日1回経口投与する群、プラセボを投与する群にランダムに割り付けた(1:1:1)。
主要評価項目は、12週間の治療期間における月平均片頭痛日数(MMD)のベースラインからの変化であった。主要解析は修正intent-to-treat集団で行われ、ランダムに割り付けられた参加者のうち、少なくとも1回の試験介入投与を受け、評価可能なベースライン期間の電子日記(eDiary)データを有し、二重盲検期間中に少なくとも1回の評価可能なベースライン後の4週間(1~4週目、5~8週目、9~12週目)のeDiaryデータを有するすべての参加者が含まれた。安全性集団は、試験介入を少なくとも1回受けた全参加者で構成された。本試験はClinicalTrials.gov(NCT03855137)に登録されている。
調査結果:2019年3月11日から2022年1月20日の間に、1,489例の参加者が適格性を評価された。711例が除外され、778例がアトゲパント30mg1日2回投与群(n=257)、アトゲパント60mg1日1回投与群(n=262)、プラセボ群(n=259)にランダムに割り付けられた。安全性試験参加者の年齢は18~74歳(平均 42.1歳)であった。773例中459例(59%)が白人、677例(88%)が女性、96例(12%)が男性であった。試験の途中で84例が治療を中止し、755例が修正intent-to-treat集団となった(アトゲパント30mg1日2回投与:253例、アトゲパント60mg1日1回投与:256例、プラセボ:246例)。ベースラインの平均MMD数は、アトゲパント30mg1日2回投与群で18.6(SE 5.1)、アトゲパント60mg1日1回投与群で19.2(5.3)、プラセボ投与群で18.9(4.8)であった。12週間にわたる平均MMDのベースラインからの変化は、アトゲパント30mg1日2回投与群で-7.5(SE 0.4)、アトゲパント60mg1日1回投与群で-6.9(0.4)、プラセボ投与群で-5.1(0.4)であった。プラセボとの最小二乗平均差は、アトゲパント30mg1日2回投与群で-2.4(95%信頼区間 -3.5 ~ -1.3;調整後p<0.0001)、アトゲパント60mg1日1回投与群で-1.8(-2.9 ~ -0.8;調整後p=0.0009)であった。アトゲパントで最も多くみられた有害事象は、便秘(30mg 1日2回投与28例[10.9%]、60mg 1日1回投与26例[10%]、プラセボ8例[3%])と吐き気(30mg 1日2回投与20例[8%]、60mg 1日1回投与25例[10%]、プラセボ9例[4%])であった。臨床的に有意な体重減少(ベースライン後の任意の時点で7%以上の減少)が各治療群で観察された(アトゲパント30mg 1日2回投与14例[6%]、アトゲパント60mg 1日1回投与15例[6%]、プラセボ3例[2%])。
解釈:アトゲパント30mg1日2回投与および60mg1日1回投与は、慢性片頭痛患者において12週間にわたり臨床的に意義のある月平均片頭痛日数の減少を示した。両投与量とも忍容性は良好であり、アトゲパントの既知の安全性プロファイルと一致していた。
資金提供:アラガン社(現アッヴィ社)
引用文献
Atogepant for the preventive treatment of chronic migraine (PROGRESS): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial
Patricia Pozo-Rosich et al. PMID: 37516125 DOI: 10.1016/S0140-6736(23)01049-8
Lancet. 2023 Jul 26;S0140-6736(23)01049-8. doi: 10.1016/S0140-6736(23)01049-8. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37516125/
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