COVID-19パンデミックが子供の発達に与える影響とは?
COVID-19パンデミックと学齢児童の学業成績との間に、負の関連(相関性)を報告する研究が増えていますが、パンデミックと幼児期の発達との関連についてはあまり知られていません。
そこで今回は、COVID-19パンデミックと幼児期の発達との関連を検証したコホート研究の結果をご紹介します。
本試験は、日本のある自治体の全認定保育所で実施されたコホート研究であり、2017年から2019年にかけて1歳児と3歳児(それぞれ1,000例と922例)のベースライン調査が行われ、参加者は2年間追跡調査されました。
追跡期間中にパンデミックに曝露されたコホートと非曝露コホートとの間で、3歳または5歳時の小児の発達が比較されました。
本試験の主要アウトカムは小児の発達年齢であり、保育士がKinder Infant Development Scale(KIDS)を用いて測定しました。データは2022年12月8日から2023年5月6日の間に分析されました。
試験結果から明らかになったことは?
ベースライン時の1歳児 447例(女児 201例[45.0%]、男児 246例[55.0%])を3歳まで、ベースライン時の3歳児 440例(女児 200例[45.5%]、男児 240例[54.5%])を5歳まで追跡調査しました。
追跡期間中、パンデミックに曝露されたコホートは、非曝露コホートと比較して、5歳時の発育が4.39ヵ月遅れていることと関連していました(係数 -4.39、95%信頼区間 -7.66 ~ -1.27)。このような負の関連性は、3歳時の発育では観察されませんでした(係数 1.32、95%信頼区間 -0.44 ~ 3.01)。
発達のばらつきは、年齢に関係なく、パンデミック前よりもパンデミック中の方が大きいことが明らかとなりました。さらに、保育所での保育の質は、パンデミック中の3歳時の発達と正の相関があり(係数 2.01、95%信頼区間 0.58~3.44)、親がうつ病を有していることは、パンデミックと5歳時の発達遅延との関連を増幅するようでした(交互作用係数 -2.62、95%信頼区間 -4.80 ~ -0.49;P=0.009)。
コメント
新型コロナウイルス流行により、人類の生活様式は様変わりしました。このような大きな変化が未就学児の発達へどのように影響しているのかについては充分に検証されていません。
さて、日本のコホート研究の結果、COVID-19パンデミックへの曝露と5歳時点での小児期の発達遅延との関連性が示されました。一方で、3歳時点での発達遅延との関連性は示されませんでした。交絡因子が残存していることから、因果関係について結論づけられず、どのような因子が影響しているのか今後の検討結果が待たれます。
本研究の限界として、回答率62%、追跡率76%であることが挙げられます。未就学児の親がベースライン調査に回答しなかった場合など、情報が得られていない部分があります。家庭の所得の影響についても検証が不充分であり、日本の研究結果ではあるものの、実社会への外挿性に懸念が残ります。また本試験に参加した家庭は、そのほとんどの両親が共働きであり、参加者は日本の1つの自治体の住民に限られていました。さらに、この自治体の平均所得は全国平均を上回っているため、地方の小児を代表していない可能性があります。
以上のことから、本試験結果のみではCOVID-19パンデミックが小児期に与える影響を結論づけることは困難であり、追試が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 日本のコホート研究の結果、パンデミックへの曝露と5歳時点での小児期の発達遅延との関連が示された。しかし、交絡因子が残存していることから、因果関係について結論づけられず、どのような因子が影響しているのか今後の検討結果が待たれる。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:COVID-19パンデミックと学齢児童の学業成績との負の関連を報告する研究は増えているが、パンデミックと幼児期の発達との関連についてはあまり知られていない。
目的:COVID-19パンデミックと幼児期の発達との関連を検討すること。
試験デザイン、設定、参加者:日本のある自治体の全認定保育所で実施されたこのコホート研究では、2017年から2019年にかけて1歳児と3歳児(それぞれ1,000例と922例)のベースライン調査が行われ、参加者は2年間追跡調査された。
曝露:追跡期間中にパンデミックに曝露されたコホートと曝露されなかったコホートとの間で、3歳または5歳時の小児の発達を比較した。
主要アウトカムと測定法:小児の発達年齢は、保育士がKinder Infant Development Scale(KIDS)を用いて測定した。データは2022年12月8日から2023年5月6日の間に分析された。
結果:ベースライン時の1歳児 447例(女児 201例[45.0%]、男児 246例[55.0%])を3歳まで、ベースライン時の3歳児 440例(女児 200例[45.5%]、男児 240例[54.5%])を5歳まで追跡調査した。追跡期間中、パンデミックに曝露されたコホートは、非曝露コホートと比較して、5歳時の発育が4.39ヵ月遅れていた(係数 -4.39、95%信頼区間 -7.66 ~ -1.27)。このような負の関連は、3歳時の発育では観察されなかった(係数 1.32、95%信頼区間 -0.44 ~ 3.01)。発達のばらつきは、年齢に関係なく、パンデミック前よりもパンデミック中の方が大きかった。さらに、保育所での保育の質は、パンデミック中の3歳時の発達と正の相関があり(係数 2.01、95%信頼区間 0.58~3.44)、親のうつ病は、パンデミックと5歳時の発達遅延との関連を増幅するようであった(交互作用係数 -2.62、95%信頼区間 -4.80 ~ -0.49;P=0.009)。
結論と関連性:本研究の結果は、パンデミックへの曝露と5歳時点での小児期の発達遅延との関連を示した。発達のばらつきは年齢に関係なくパンデミック中に拡大した。パンデミックに関連した発達遅滞のある小児を特定し、学習、社会化、心身の健康、家族支援に対する支援を提供することが重要である。
引用文献
Association Between the COVID-19 Pandemic and Early Childhood Development
Koryu Sato et al. PMID: 37428500 DOI: 10.1001/jamapediatrics.2023.2096
JAMA Pediatr. 2023 Jul 10. doi: 10.1001/jamapediatrics.2023.2096. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37428500/
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