SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種で増加する心筋炎リスクはどのくらいなのか?
SARS-CoV-2に対するmRNAワクチンを接種した際に、心筋炎リスクが増加する可能性が報告されています。しかし、COVID-19に伴う心筋炎との臨床転帰の比較については充分に検証されていません。
そこで今回は、mRNAワクチン接種と、他のタイプの心筋炎とを比較検討した北欧人口に基づくコホート研究の結果をご紹介します。
本試験は北欧4ヵ国(デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン)の全国登録データで、2018年1月1日からフォローアップの最新日である2022年まで実施されました。
試験参加者は、北欧心筋炎コホート;デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの2300万人の人口において、主診断または副診断として心筋炎のインシデント診断を受けた、12歳以上の7,292例が対象となりました。
本試験の主要アウトカムは、新規発症心筋炎による入院から90日以内の心不全、または何らかの原因による死亡、および新規発症心筋炎による退院から90日以内の再入院。SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種に伴う心筋炎、COVID-19に伴う心筋炎、従来の心筋炎の臨床的アウトカムが比較されました。
試験結果から明らかになったことは?
2018〜2022年に、7,292例の患者が新規発症の心筋炎で入院し、530例(7.3%)がSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種に関連する心筋炎、109例(1.5%)がCOVID-19に関連する心筋炎、6,653例(91.2%)が通常の心筋炎として分類されました。
退院から90日以内の各アウトカム | mRNAワクチン接種群 | COVID-19群 | 従来型心筋炎群 |
再入院 | 62例 | 9例 | 988例 |
相対リスク(95%CI) | 0.79 (0.62~1.00) | 0.55 (0.30~1.04) | Reference |
心不全あるいは死亡 | 27例 | 18例 | 616例 |
心不全の相対リスク(95%CI) | 0.56 (0.37~0.85) | 1.48 (0.86~2.54) | Reference |
死亡の相対リスク(95%CI) | 0.48 (0.21~1.09) | 2.35 (1.06~5.19) | Reference |
90日後の追跡調査では、各群(ワクチン接種群、COVID-19群、従来型心筋炎群)で62例、9例、988例が再入院しており、従来型心筋炎群と比較してワクチン接種群、COVID-19群、心筋炎群の再入院相対リスクはそれぞれ0.79(95%信頼区間 0.62~1.00)、0.55(0.30~1.04)に相当しました。
90日後の追跡調査では、ワクチン接種群、COVID-19群、従来の心筋炎群でそれぞれ27例、18例、616例が心不全と診断されるか死亡した。90日以内の心不全の相対リスクは、従来の心筋炎と比較して、ワクチン接種に伴う心筋炎群とCOVID-19群でそれぞれ0.56(95%信頼区間 0.37~0.85)および1.48(0.86~2.54)、死亡の相対リスクはそれぞれ0.48(0.21~1.09)および2.35(1.06~5.19)であった。
素因となる併存疾患のない12~39歳の患者 | mRNAワクチン接種群 | COVID-19群 |
心不全または死亡の相対リスク | Reference | 5.78 (1.84~18.20) |
素因となる併存疾患のない12~39歳の患者において、心不全または死亡の相対リスクは、ワクチンに伴う心筋炎よりもCOVID-19に伴う心筋炎の方が顕著に高かった(相対リスク 5.78、1.84~18.20)。
コメント
SARS-CoV-2感染によるCOVID-19の患者数は増減を繰り返し、感染終息は困難です。そのため、ワクチンを含む基本的な感染予防対策の実施が求められます。COVID-19ワクチンとしては、mRNAベースのワクチンの効果が高いことから、主に使用されていますが、副反応として男性における心筋炎リスク増加の可能性が報告されています。COVID-19によっても心筋炎が引き起こされることから、mRNAワクチン接種に伴う心筋炎リスクとの比較検証が求められています。
さて、本試験結果によれば、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種後の心筋炎は、COVID-19に伴う心筋炎や従来の心筋炎と比較して、入院後90日以内の臨床成績が良好でした。mRNAワクチン接種群とCOVID-19群においては、そもそもの心筋炎の発症数が少ないことから、より確実な結論を出すためには、症例数の集積が待たれます。
続報に期待。
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