空腹だとイライラしやすくなるのか?
平昌冬季オリンピック期間中、アメリカのスノーボーダー、クロエ・キムが朝食について「朝食のサンドイッチを食べ終えたいと思ったけど、頑なに食べないと決めたので、今は “hangry※ ハングリー” になっている」とツイートしました(twitter)。この言葉は、少なくとも英語では一般的な口語表現になっており、多くの人が、空腹という状態が感情的な体験と行動の両方に影響を与えることを認識しているようです(PMID: 31487827)。
※hangry = hungry(空腹) + angry(怒り)
より具体的には、概念的な説明(PMID: 29888934)と歴史的な説明(BOOK2018)の両方において、空腹がしばしば怒りや苛立ちなどのネガティブな感情を引き起こすことを示唆しています。これらの結果が報告されているのにもかかわらず、特に日常的な場面で空腹であることの経験、表出、アウトカムに焦点を当てた研究は驚くほど少ないです。
そこで今回は、空腹と感情的アウトカムとの関連についてアンケートを実施した研究結果をご紹介します。本試験では、経験サンプリング法を用いて、日常的な空腹体験とネガティブな感情との関連性が検討されました。中央ヨーロッパの参加者64例は、毎日5つのタイムポイントで空腹感、怒り、イライラ、喜び(幸福感)、覚醒を報告する21日間の経験サンプリング段階を完了しました(合計=9,142回答)。
試験結果から明らかになったことは?
仮説の通り、空腹は怒りやイライラ感の増加、幸福感の低下と関連していることが明らかとなりました。興味深いことに、状態的空腹感(すなわち、特性的空腹感で補正した空腹感の瞬間的自己報告)と特性的空腹感(すなわち、過去3週間の状態的空腹感の平均)は、この点に関して予測的価値を有していました。
一般に、空腹感とこれらの従属尺度との関連は、参加者の性別、年齢、BMI、食行動、特性怒気を調整した後も持続していました。一方、空腹感は、他のすべての覚醒度予測因子と同様に、覚醒度と関連しませんでした(10%の有意水準で特性的3週間安定空腹感を除く)。
コメント
空腹感が強いとイライラしやすいのは人類共通の認識のようですが、実際に調査した研究は少ないようです。
さて、本試験結果によれば、空腹は怒りやイライラ感の増加、幸福感の低下と関連していることが明らかとなりました。性別、年齢、BMI、食行動、特性怒気を調整した後も同様の関連性が示されたことから、結果の堅牢性が伺えます。ただし、本試験は中央ヨーロッパの64例を対象とした小規模な研究結果です。他の国や地域で同様の結果が得られるのかについての報告が待たれます。
とはいえ、一般的な認識と大きな齟齬はないように考えられます。本試験は個人的な感覚ではなく、研究として検証した貴重な報告であると考えられます。空腹な参加者が、食事を摂取した後のアンケート結果が気になるところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 日常的な空腹感がネガティブな情動と関連している可能性が明らかとなった。
根拠となった試験の抄録
背景:口語で「Hangry ハングリー」とは、人は空腹になると怒りっぽくなるという概念を指すが、空腹とネガティブな感情の関係がどの程度強固であるかを直接的に明らかにした研究はほとんどない。
方法:ここでは、経験サンプリング法を用いて、日常的な空腹体験とネガティブな感情との関連性を検討した。中央ヨーロッパの64例の参加者は、毎日5つのタイムポイントで空腹感、怒り、イライラ、喜び、覚醒を報告する21日間の経験サンプリング段階を完了した(合計=9,142回答)。
結果:空腹感が大きいほど、怒りやイライラが強く、快感が低いことが示された。これらの知見は、参加者の性別、年齢、肥満度、食行動、特性怒気を考慮してもなお、有意に維持された。一方、覚醒との関連は有意ではなかった。
【仮説の検証】仮説の通り、空腹は怒り、イライラ、快感の低下と関連していることがわかった。興味深いことに、状態的空腹感(すなわち、特性的空腹感で補正した空腹感の瞬間的自己報告)と特性的空腹感(すなわち、過去3週間の状態的空腹感の平均)は、この点に関して予測的価値を有していた。一般に、空腹感とこれらの従属尺度との関連は、参加者の性別、年齢、BMI、食行動、特性怒気を調整しても持続した。一方、空腹感は、他のすべての覚醒度予測因子と同様に、覚醒度と関連しなかった(10%の有意水準で特性的3週間安定空腹感を除く)。
結論:これらの結果は、日常的な空腹感が負の情動と関連し、「空腹」であるという概念を支持する証拠を提供するものである。
引用文献
Hangry in the field: An experience sampling study on the impact of hunger on anger, irritability, and affect
Viren Swami et al. PMID: 35793289 PMCID: PMC9258883 DOI: 10.1371/journal.pone.0269629
PLoS One. 2022 Jul 6;17(7):e0269629. doi: 10.1371/journal.pone.0269629. eCollection 2022.— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35793289/
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