SGLT2阻害薬により骨折リスクが増加するのか?
ナトリウム・グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害剤は、いくつかのランダム化プラセボ対照試験において、骨格骨折の高いリスクと関連している可能性が示されています。この骨折リスクの要因として、二次性副甲状腺機能亢進症および骨代謝率の上昇(慢性腎臓病でもよく見られる)が、観察された骨折リスクに寄与している可能性が考えられます。
そこで今回は、SGLT2阻害剤の使用が、骨折リスクとの関連が知られていないジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤と比較して、骨折リスクと関連するかどうかを確認したコホート研究の結果をご紹介します。本研究では高齢者(66歳以上)を対象に、2015年から2019年にかけてカナダのオンタリオ州で、リンクされた州の行政データを用いた人口ベースのコホート研究が行われ、SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の新規使用者間の骨折の発生率が比較されました。アウトカムは180日および365日の骨折の累積発生率でした。また、eGFRカテゴリー(90以上、60~<90、45~<60、30~<45ml/min/1.73m2)別に事前に指定したサブグループ分析も行われました。
試験結果から明らかになったことは?
重み付け後、SGLT2阻害剤の新規ユーザー38,994例、DPP-4阻害剤の新規ユーザー37,449例が特定去れました。180日目に合計342例の骨折、365日目に689例の骨折が観察されました。
重付けハザード比(95%CI) SGLT2阻害薬 vs. DPP-4阻害薬 | |
脆弱性骨折の180日の重付けリスク | 0.95 (0.79〜1.13) |
脆弱性骨折の365日の重付けリスク | 0.88 (0.88〜1.00) |
脆弱性骨折の180日および365日の重み付けされたリスクは、SGLT2阻害剤の新規使用者とDPP-4阻害剤の新規使用者で有意差はありませんでした:ぞれぞれ重み付けハザード比 0.95(95%信頼区間 0.79〜1.13)、重み付けハザード比 0.88(95%信頼区間 0.88〜1.00)。
骨折リスクとeGFRカテゴリーとの間に相互作用は観察されませんでした(P=0.53)。
コメント
SGLT2阻害薬による骨折リスクは、カナグリフロジンの大規模なランダム化比較試験で示唆されましたが、他のSGLT2阻害薬では示されていません。また、観察研究では一貫した結果が示されておらず、SGLT2阻害薬により骨折リスクが増加するのか否か結論は出ていません。
さて、本試験結果によれば、66歳以上の高齢者を対象としたカナダのオンタリオ州のコホート研究において、SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の投与開始は、eGFRにかかわらず、骨格骨折のリスクとは関連していませんでした。また、eGFRのカテゴリーにより、骨折リスクに差は認められませんでした。SGLT2阻害薬による骨折リスク増加はなさそうです。ただし、あくまでも、一つの地域のコホート研究の結果に過ぎません。追試が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 高齢者のコホート研究において、SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の投与開始は、eGFRにかかわらず、骨折リスクの高さとは関連しなかった。
根拠となった試験の抄録
背景と目的:ナトリウム・グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害剤は、いくつかのランダム化プラセボ対照試験において、骨格骨折の高いリスクと関連していた。二次性副甲状腺機能亢進症と骨回転率の上昇(CKDでもよく見られる)が、観察された骨折リスクに寄与している可能性がある。我々は、SGLT2阻害剤の使用が、骨折リスクとの関連が知られていないジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤と比較して、高い骨折リスクと関連するかどうかを確認することを目的とした。このリスクは、もしあるとすれば、eGFRが低い患者において最も高くなると仮定した。
試験デザイン、設定、参加者、および測定:2015年から2019年にかけてカナダのオンタリオ州で、リンクされた州の行政データを用いて人口ベースのコホート研究を行い、SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の新規使用者間の骨折の発生率を比較した。傾向スコアを基にした治療の逆確率加重を用い、ベースラインの健康状態の指標について、高齢者(66歳以上)の2群のバランスを取った。180日および365日の骨折の累積発生率を群間で比較した。eGFRカテゴリー(90以上、60~<90、45~<60、30~<45ml/min/1.73m2)別に事前に指定したサブグループ分析を行った。Cox比例ハザード回帰を用いて加重ハザード比を求めた。
結果:重み付け後、SGLT2阻害剤の新規ユーザー38,994例、DPP-4阻害剤の新規ユーザー37,449例を特定し、180日目に合計342例の骨折、365日目に689例の骨折が観察された。脆弱性骨折の180日および365日の重み付けされたリスクは、SGLT2阻害剤の新規使用者とDPP-4阻害剤の新規使用者で有意差はなかった:重み付けハザード比 0.95(95%信頼区間 0.79〜1.13)、重み付けハザード比 0.88(95%信頼区間 0.88〜1.00)。骨折リスクとeGFRカテゴリーとの間に相互作用は観察されなかった(P=0.53)。
結論:高齢者のコホート研究において、SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の投与開始は、eGFRにかかわらず、骨格骨折のリスクの高さとは関連しなかった。
キーワード:慢性腎臓病、糖尿病、疫学とアウトカム、腎性骨異栄養症、ナトリウム・グルコーストランスポーター2阻害剤
引用文献
Fracture Risk of Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors in Chronic Kidney Disease
Andrea Cowan et al. PMID: 35618342 DOI: 10.2215/CJN.16171221
Clin J Am Soc Nephrol. 2022 May 26;CJN.16171221. doi: 10.2215/CJN.16171221. Online ahead of print.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35618342/
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