臨床現場におけるGLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬の比較は?
2型糖尿病に対して多くの治療薬が上市されています。中でもグルカゴン様ペプチド(GLP)-1受容体作動薬とナトリウムグルコース共輸送体(SGLT)2阻害薬による心血管イベントの抑制効果が示されています。SGLT2阻害薬は心血管イベントだけでなく腎関連アウトカムについてもイベント発生抑制効果が報告されています。一方、GLP1-RAが腎臓の有害アウトカムを減らすかどうかについては充分に検討されていません。
GLP-1受容体作動薬を用いた大規模なランダム化比較試験の二次解析では、微量アルブミン尿の一貫した減少が試験で示されていますが、腎機能に対する保護効果については結論が出ていません。
そこで今回は、GLP1-RAまたはジペプチジルペプチダーゼ-4阻害薬(DPP4i)を開始した2型糖尿病患者における腎臓と心血管アウトカムを比較したコホート研究の結果をご紹介します。
本試験の主要評価項目は、クレアチニン値の持続的な2倍化、腎不全、腎臓の死亡の複合でした。副次的アウトカムは、3つの主要有害心血管イベント(MACE)とその個別要素でした。53の交絡因子のバランスをとるために、傾向スコアで重み付けしたCox回帰が使用されました。
試験結果から明らかになったことは?
合計19,766例が組み入れられ、そのうち5,699例がGLP1-RAを開始し、中央値で2.9年間追跡調査されました。平均年齢は63歳、26.2%がアテローム性心血管系疾患を有し、16.0%が推定糸球体濾過量(eGFR)が60mL/min/1.73m2以下でした。
調整後ハザード比 HR | 5年リスクの絶対減少率 | |
複合腎アウトカム | HR 0.72 (95%CI 0.53〜0.98) | HR 0.8% (95%CI 0.1%〜1.5%) |
MACE | HR 0.85 (95%CI 0.73〜0.99) | HR 1.6% (95%CI 0.2〜2.9%) |
心血管死 | HR 0.79 (95%CI 0.60〜1.05) | – |
心筋梗塞 | HR 0.86 (95%CI 0.68〜1.09) | – |
脳卒中 | HR 0.74 (95%CI 0.59〜0.93) | – |
GLP1-RAとDPP4iの調整後ハザード比は、複合腎アウトカムで0.72(95%信頼区間 0.53〜0.98)、MACEで0.85(0.73〜0.99)で、5年リスクの絶対減少率はそれぞれ0.8%(0.1%〜1.5%)と1.6%(0.2〜2.9%)でした。
ハザード比は、心血管死が0.79(0.60〜1.05)、心筋梗塞が0.86(0.68〜1.09)、脳卒中が0.74(0.59〜0.93)でした。結果は、年齢、性別、eGFR、ベースラインのメトホルミン使用などのサブグループ内でも一貫していました。
コメント
GLP-1受容体作動薬による複合腎アウトカムへの影響について、DPP-4阻害薬と比較したコホート研究の結果によれば、調整後ハザード比は0.72(95%CI 0.53〜0.98)でした。またMACEについてもリスク減少が示されています。
ただし、腎アウトカムについては複合であり、ソフトアウトカムであるクレアチニン値の持続的な2倍化が含まれています。ハードアウトカムである腎不全、腎臓関連の死亡について見ていく必要がありますが、有料文献であるため詳細を確認できませんでした。また、透析導入などの腎アウトカムも含めて検証する必要があると考えられます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 実臨床において、GLP1-RAの使用はDPP4iと比較して、腎臓アウトカムのリスクの低さと関連していた。腎アウトカムとMACEの減少は、大規模な心血管アウトカム試験で報告されたものと同程度であった。
根拠となった試験の抄録
背景:グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP1-RA)が腎臓の有害な転帰を減らすかどうかは不明である。二次解析では、マクロアルブミン尿の一貫した減少が試験で示されているが、腎機能低下については結論が出ていない。この点を明らかにするために、GLP1-RAまたはジペプチジルペプチダーゼ-4阻害薬(DPP4i)(内因性GLP1の分解を抑える)を開始した人の腎臓と心血管のアウトカムを比較するコホート研究を実施した。
方法:主要評価項目は、クレアチニン値の持続的な2倍化、腎不全、腎臓関連の死亡の複合とした。副次的アウトカムは、3つの主要有害心血管イベント(MACE)とその個別要素であった。53の交絡因子のバランスをとるために、傾向スコアで重み付けしたCox回帰を使用した。
結果:合計19,766例が組み入れられ、そのうち5,699例がGLP1-RAを開始し、中央値で2.9年間追跡調査された。平均年齢は63歳、26.2%がアテローム性心血管系疾患を有し、16.0%が推定糸球体濾過量(eGFR)が60mL/min/1.73m2以下であった。
GLP1-RAとDPP4iの調整後ハザード比は、複合腎臓アウトカムで0.72(95%信頼区間 0.53〜0.98)、MACEで0.85(0.73〜0.99)で、5年リスクの絶対減少率はそれぞれ0.8%(0.1%〜1.5%)と1.6%(0.2〜2.9%)であった。ハザード比は、心血管死が0.79(0.60〜1.05)、心筋梗塞が0.86(0.68〜1.09)、脳卒中が0.74(0.59〜0.93)であった。結果は、年齢、性別、eGFR、ベースラインのメトホルミン使用などのサブグループ内でも一貫していた。
結論:実臨床の患者を対象とした今回の解析では、GLP1-RAの使用はDPP4iと比較して腎臓の転帰のリスクの低さと関連していた。腎臓の転帰とMACEの減少は、大規模な心血管転帰試験で報告されたものと同様の大きさであった。
キーワード:MACE、慢性腎臓病の進行、糖尿病、ジペプチジルペプチダーゼ4阻害剤、グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬
引用文献
GLP-1 receptor agonist versus DPP-4 inhibitor and kidney and cardiovascular outcomes in clinical practice in type-2 diabetes
Yang Xu et al. PMID: 34826514 DOI: 10.1016/j.kint.2021.10.033
Kidney Int. 2022 Feb;101(2):360-368. doi: 10.1016/j.kint.2021.10.033. Epub 2021 Nov 24.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34826514/
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