フランス全国2800万人を対象とした4年追跡コホート研究(JAMA Netw Open. 2025)
COVID-19に対するmRNAワクチンの効果は?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンは、重症化や短期死亡リスクを低下させることが多数報告されてきました。一方で、
「ワクチン接種が長期的な死亡リスクに影響するのではないか」
という疑問は、特に若年〜中年層を中心に現在も議論されています。
これまでの研究は、接種後数週間〜数か月の短期死亡に焦点を当てたものが大半であり、数年単位での全死亡リスクを、ワクチン接種の有無で直接比較した研究はほとんど存在しませんでした。
今回紹介する研究は、フランス全国規模(約2800万人)のデータを用い、
18〜59歳における4年間の全死亡率を検討した大規模コホート研究です。
試験結果から明らかになったことは?
◆研究の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 全国データベースを用いた後ろ向きコホート研究 |
| データソース | フランス国民健康データシステム |
| 対象 | 2021年11月1日時点で生存していた18〜59歳の全国民 |
| 解析期間 | 追跡中央値 45か月(約4年) |
| 暴露 | 2021年5月1日〜10月31日にmRNAワクチン初回接種 |
| 比較 | 未接種者(同様のインデックス日をランダム付与) |
| 主要評価項目 | 4年間の全死亡 |
| 統計解析 | 社会背景+41の併存疾患で重み付けしたCox比例ハザードモデル |
※ 不死時間バイアス(immortal time bias)を避けるため、追跡開始はインデックス日から6か月後に設定されています。
◆対象者の特徴
- 接種者:22,767,546人
- 未接種者:5,932,443人
| 特徴 | 接種群 | 未接種群 |
|---|---|---|
| 平均年齢 | 38.0歳 | 37.1歳 |
| 女性割合 | 51.3% | 48.5% |
| 心血管・代謝系併存疾患 | 9.3% | 7.8% |
→ 接種群の方が やや高齢・併存疾患が多い集団でした。
◆試験結果
① 全死亡(4年間)
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 死亡数 | 接種群:98,429人(0.4%) 未接種群:32,662人(0.6%) |
| 全死亡リスク | 25%低下 |
| 重み付けHR | 0.75(95%CI 0.75–0.76) |
② 重症COVID-19による死亡
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| リスク低下 | 74%低下 |
| 重み付けHR | 0.26(95%CI 0.22–0.30) |
③ 重症COVID-19死亡を除外した解析
- 全死亡リスク低下は同様に維持
- 死因別の感度解析においても、特定の死因で死亡リスクが上昇する傾向は認められなかった
④ 接種後6か月以内の短期死亡(別解析)
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 相対発生率 | 0.71(95%CI 0.69–0.73) |
この研究から示されたこと
- 18〜59歳において
mRNAワクチン接種者で4年間の全死亡リスクが上昇することはなかった - むしろ、
全死亡・COVID-19重症死亡ともに低い関連が観察された
※ これは「因果関係」を直接証明するものではなく、観察研究における関連である点に注意が必要です。
試験の限界
本研究は非常に大規模ですが、以下の限界があります。
- 観察研究であること
- 無作為化試験ではなく、残余交絡(健康意識、受診行動など)を完全には除去できない
- ワクチンの種類がmRNAに限定
- 他のワクチン(ウイルスベクター等)への外挿はできない
- 若年〜中年層のみが対象
- 60歳以上の高齢者には直接適用できない
- 接種回数・追加接種の影響は詳細に解析されていない
- 死因情報は一部期間までに限定
- すべての追跡期間において詳細な死因分類が完全ではない
これらを踏まえ、結果は過度に一般化せず、文脈を理解して解釈する必要があります。
まとめ
- フランス全国約2800万人を対象とした大規模研究により
mRNAワクチン接種が4年間の全死亡リスクを高める証拠は示されなかった - 若年〜中年層においても、長期的な安全性を支持するデータが提示された
- 一方で、観察研究である以上、今後も継続的な検証が必要
薬剤師・医療従事者としては、
「短期だけでなく、長期データに基づいて説明できる材料が一つ増えた」
と整理すると、臨床・服薬説明の場で活用しやすい研究と言えます。
陰謀論に右往左往することなく、一つ一つの臨床研究の結果を積み重ねていくことが肝要です。その上で、ワクチンを摂取するのかしないのか、他の選択肢はあるのか等、人生の意思決定をしていくのはヒトであることを肝に銘じておきたいですね。
続報に期待。

✅まとめ✅ 2,800万人を対象としたフランスの全国コホート研究では、COVID-19ワクチン接種を受けた18歳から59歳までの個人において4年間の全死亡リスクの増加は認められず、世界中で広く使用されているmRNAワクチンの安全性がさらに裏付けられた。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性: COVID-19ワクチン接種が短期死亡率に及ぼす影響を評価した研究はいくつかあるが、特にSARS-CoV-2感染後に重症化する可能性が低い若年者において、ワクチン接種状況別に長期死亡率を比較した研究はない。
目的: mRNA COVID-19ワクチンを接種した18~59歳の個人とワクチン未接種の個人の4年間の全死亡率を比較する。
試験デザイン、設定、および参加者: このコホート研究では、2021年11月1日に生存していた18歳から59歳までのフランス国民全員について、フランス国家健康データシステムのデータを使用しました。データ分析は2024年6月から2025年9月まで実施されました。
曝露: 曝露は、2021年5月1日から10月31日までの間に最初のmRNA投与を受けることと定義されました。2021年11月1日までにワクチン接種を受けていなかった個人には、ワクチン接種を受けた個人のワクチン接種日に基づいてランダムにインデックス日が割り当てられました。
主なアウトカムと評価指標: 社会人口学的特性と41の併存疾患を加重したCoxモデルを用いて、4年間の全死亡率を推定した。イベント発生までの時間は、全死亡、未感染者へのCOVID-19ワクチン接種、または2025年3月31日の研究終了時点で打ち切られた。2023年12月31日までの主要な死因の比較を含む補完的な解析が行われた。不死の時間バイアスに対処するため、両群ともインデックス日から6か月後に追跡調査を開始した。ワクチン接種後6か月以内の短期死亡率は、適応型自己対照症例集積モデルを用いた別の独立した研究で評価された。
結果: ワクチン接種を受けた22,767,546人とワクチン未接種の5,932,443人を、中央値(IQR)45ヶ月(44~46ヶ月)追跡調査した。ワクチン接種を受けた人は、未接種の人よりも高齢(平均年齢38.0歳(11.8歳)対37.1歳(11.4歳))で、女性の割合が高く(11,688,603人(51.3%)対2,876,039人(48.5%))、心血管代謝系合併症の罹患率も高かった(2,126,250人(9.3%)対464,596人(7.8%))。追跡調査期間中、ワクチン接種群と未接種群でそれぞれ98,429人(0.4%)と32,662人(0.6%)の全死因死亡が発生した。ワクチン接種を受けた人は、重症COVID-19による死亡リスクが74%低下し(加重ハザード比[wHR] 0.26 [95% CI 0.22-0.30])、全死亡リスクも25%低下しました(wHR 0.75 [95% CI 0.75-0.76])。重症COVID-19による死亡を除外した場合も同様の関連が認められました。感度分析の結果、ワクチン接種を受けた人は、死因に関わらず、一貫して死亡リスクが低いことが明らかになりました。COVID-19ワクチン接種後6ヶ月以内の死亡率は29%低下しました(相対発生率0.71 [95% CI 0.69-0.73])。
結論と関連性: 2,800万人を対象としたこの全国コホート研究では、COVID-19ワクチン接種を受けた18歳から59歳までの個人において4年間の全死亡リスクの増加は認められず、世界中で広く使用されているmRNAワクチンの安全性がさらに裏付けられました。
引用文献
COVID-19 mRNA Vaccination and 4-Year All-Cause Mortality Among Adults Aged 18 to 59 Years in France
Laura Semenzato et al. PMID: 41343214 PMCID: PMC12679329 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2025.46822
JAMA Netw Open. 2025 Dec 1;8(12):e2546822. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.46822.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41343214/

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