GLP-1受容体作動薬は消化性潰瘍リスクを低下させる?|全米規模データで検証された糖尿病患者における新知見(後向き研究; Clin Gastroenterol Hepatol. 2025)

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GLP-1受容体作動薬と消化性潰瘍との関連性は?

近年、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、血糖コントロールの改善だけでなく、心血管イベントの抑制効果でも注目を集めています。一方で、これらの薬剤は胃排出遅延や悪心・嘔吐など消化管運動への影響が知られており、消化性潰瘍(peptic ulcer disease: PUD)との関連が懸念されてきました。

今回ご紹介するのは、米国国立衛生研究所(NIH)の大規模コホートデータ「All of Us」データベースを用いて、GLP-1RAの使用とPUDリスクの関連を検証した研究結果です。

その結果、GLP-1RA使用者では潰瘍発症が有意に少ないことが報告されました。


試験結果から明らかになったことは?

◆背景

糖尿病(T2DM)患者では、血糖コントロール不良、血管障害、NSAIDsやステロイドの使用などにより消化性潰瘍のリスクが上昇します。
GLP-1RAは消化管運動を抑制しますが、これが粘膜障害のリスクを高めるのか、それとも減らすのかは明らかではありませんでした。

また、GLP-1RAには抗炎症作用・血流改善・酸分泌抑制といった作用も報告されており、これらが粘膜保護に働く可能性も指摘されています。


◆研究概要

項目内容
研究デザイン全米規模の後ろ向きコホート研究(NIH “All of Us” データベース)
対象2型糖尿病(T2DM)患者 66,102名
比較GLP-1RA使用者 vs. 非使用者(サブ解析では新規GLP-1RA開始群 vs. インスリン新規開始群)
主要評価項目消化性潰瘍(PUD)の診断発生率
統計手法多変量ロジスティック回帰(主要解析)/傾向スコア加重Cox比例ハザードモデル(サブ解析)
調整因子インスリン、NSAIDs、ステロイド、PPIなどの併用、および死亡・胃切除の競合リスクを考慮

◆試験結果(表)

解析区分比較群調整オッズ比/ハザード比(95%CI)p値
主要解析(全66,102例)GLP-1RA使用 vs 非使用aOR 0.56 (0.45–0.71)<0.001
サブ解析(新規開始群, n=3313)GLP-1RA開始 vs インスリン開始aHR 0.44 (0.30–0.63)<0.001
併用薬の影響NSAIDs使用HR 2.39
ステロイド使用HR 1.84

➡ GLP-1RA使用はPUD発症と有意に逆相関を示し、インスリン治療群よりもリスクが低い傾向が明確に示されました。


◆考察

この大規模データ解析により、GLP-1RAの使用は消化性潰瘍のリスクを有意に低下させることが明らかになりました。
推定される機序として、以下の可能性が考えられます。

  1. 抗炎症・抗酸化作用:GLP-1RAはサイトカイン抑制や酸化ストレス軽減作用を持ち、粘膜障害を防ぐ可能性。
  2. 胃酸分泌抑制:GLP-1がガストリン分泌を抑制することにより、酸分泌を減少させる可能性。
  3. 血流改善・上皮修復促進:GLP-1受容体が胃粘膜上皮にも発現し、修復を促進することが報告されている。

一方で、NSAIDsやステロイド使用は予想通りリスク増加と関連しており、これらの併用管理は依然として重要です。


◆試験の限界

  • 観察研究のため因果関係は確立できない
  • PUDの診断は電子カルテコードに基づくため、誤分類の可能性あり。
  • GLP-1RAの種類(リラグルチド・セマグルチドなど)や投与経路・期間による差は解析されていない。
  • 胃排出遅延による消化症状や薬物吸収の影響は未評価。

◆今後の検討課題

  • GLP-1RA製剤間の比較試験(例:週1製剤 vs 毎日製剤)
  • 前向きコホート・介入研究による再現性検証
  • PPIとの併用効果・相互作用解析
  • 粘膜保護作用のメカニズム解明(ヒト組織レベル)

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◆まとめ

この研究は、GLP-1受容体作動薬が糖尿病患者の消化性潰瘍発症リスクを有意に低減させることを示した初の全米規模コホート解析です。
とくに、インスリン治療への切り替えと比較しても潰瘍発症リスクが約56%低く、GLP-1RAの多面的な臨床的利点が示唆されます。

ただし、結果は相関関係にとどまるため、今後の前向き試験での検証が求められます。

そもそも2型糖尿病患者では消化管関連リスクが高まります。リスクが低い患者層でGLP-1受容体作動薬が使用された可能性があります(逆因果、因果の逆転)。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 全国コホート研究において、GLP-1RAの使用は消化性潰瘍のオッズを44%低下させることと関連していた。傾向スコアをマッチングさせたサブグループでは、第二選択療法としてGLP-1RAに切り替えることで、インスリンと比較してPUDのハザードが56%低下した。

根拠となった試験の抄録

背景と目的: グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、2型糖尿病(T2DM)の血糖コントロールを改善し、心血管リスクを低下させるために処方されます。GLP-1RAの消化管運動への影響は特徴付けられていますが、消化性潰瘍(PUD)などの粘膜損傷との関連性についてはほとんど注目されていません

方法: 国立衛生研究所(NIH)の「All of Us」データベースを用いて、2型糖尿病の成人患者を対象とした全国規模の後ろ向き研究を実施し、第二選択療法としてGLP-1受容体拮抗薬(GLP-1RA)またはインスリンを新たに開始した成人を対象としたサブグループ解析も実施した。
主要評価項目は、インスリン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、ステロイド、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用およびその他の交絡因子を調整した上で、GLP-1受容体拮抗薬(GLP-1RA)の経時的使用後のPUD診断オッズとした。サブグループ解析では、死亡と胃切除術の競合リスクを考慮し、加重時間変動Cox比例ハザードモデルを用いた。

結果: 2型糖尿病患者66,102名が特定され、主要解析に含まれた。可能性のある交絡因子を調整後、GLP-1RAはPUD診断のオッズが有意に低いことと関連していました(調整オッズ比 0.56、95%信頼区間 0.45-0.71、P<0.001)。本サブグループには合計3,313名の患者(GLP-1RA新規使用者1,270名、インスリン新規使用者2,043名)が含まれていました。この解析では、第二選択療法としてGLP-1RAに切り替えた場合、インスリンへの切り替えと比較してPUDのハザードが有意に低下しました(調整ハザード比[HR] 0.44、95%信頼区間 0.30-0.63、P<0.001)。モデルは、非ステロイド性抗炎症薬(HR 2.39)およびステロイド(HR 1.84)の積極的な使用もPUDの可能性の増加と関連していることを確認させた。

結論: この2型糖尿病患者を対象とした全国コホート研究において、GLP-1RAの使用はPUDのオッズを44%低下させることと関連していました。傾向スコアをマッチングさせたサブグループでは、第二選択療法としてGLP-1RAに切り替えることで、インスリンと比較してPUDのハザードが56%低下しました。これらの知見は、GLP-1RAの使用とPUDリスクの低下との関連を示しています。

キーワード: グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬、消化性潰瘍疾患、2型糖尿病、グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬

引用文献

Glucagon-like Peptide-1 Receptor Agonists Are Associated With a Lower Risk of Peptic Ulcer Disease: A Nationwide Cohort Study
Philippa Seika et al. PMID: 40865627 DOI: 10.1016/j.cgh.2025.08.015
Clin Gastroenterol Hepatol. 2025 Aug 25:S1542-3565(25)00735-9. doi: 10.1016/j.cgh.2025.08.015. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40865627/

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