オキサリプラチンによる末梢神経障害(OIPN)は治療中断を招く?|高齢大腸がん患者におけるSEER-Medicare解析(データベース研究; Support Care Cancer. 2025)

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末梢神経障害と治療中断、予後との関連性は?

大腸がんの化学療法において、オキサリプラチン(oxaliplatin)は予後改善に欠かせない薬剤です。しかし、投与継続の妨げとなる用量制限毒性(dose-limiting toxicity)の一つが、オキサリプラチン誘発末梢神経障害(oxaliplatin-induced peripheral neuropathy: OIPN)です。

今回ご紹介する研究は、米国のSEER-Medicareデータベースを用いて、OIPNおよび転倒(falls)がオキサリプラチン治療スケジュールの遅延(intercycle delay)早期中止(early discontinuation)に与える影響を検討したものです。


試験結果から明らかになったことは?

◆背景

オキサリプラチンはFOLFOXやCAPOXといった標準治療に組み込まれていますが、投与量が増えるにつれ、感覚異常やしびれなどの神経障害が高頻度に発生します。これらは可逆的であっても、治療の中断や間隔延長を引き起こす要因となり、結果的に治療効果の低下につながるおそれがあります。

さらに、OIPNに伴う転倒リスクは高齢者で特に問題であり、がん治療の継続をさらに難しくする要因となっています。


◆研究概要

項目内容
デザインSEER-Medicareデータベースを用いた後ろ向きコホート研究
対象大腸がん患者(診断時年齢66歳以上)でオキサリプラチンを含む化学療法を受けた者
解析対象数3,802例
主な評価項目①化学療法サイクル間の遅延(intercycle delay)
②早期中止(early discontinuation)
主要曝露因子①オキサリプラチン誘発性末梢神経障害(OIPN)
②転倒(falls)
解析方法Poisson回帰(GEE)による補正済み発生率比(IrR)と発生率差(IrD)の算出/早期中止についてはリスク比(RR)とリスク差(RD)

◆試験結果(表)

1. 投与スケジュールの遅延(intercycle delay)

要因IrR(95%CI)IrD
(95%CI, delays/81人日)
解釈
OIPN1.87(1.67–2.10)+2.09
(1.48–2.69)
約1.9倍の遅延率上昇
転倒2.62(2.06–3.34)+3.30
(1.96–4.64)
約2.6倍の遅延率上昇

➡ OIPN・転倒のいずれも、化学療法の間隔延長と有意に関連


2. 早期中止(early discontinuation)

要因RR(95%CI)RD(95%CI)解釈
OIPN2.51(1.78~3.55)+7.2%
(3.0~11.4%)
約2.5倍の中止リスク上昇
転倒2.19(1.24~3.85)約2.2倍の中止リスク上昇

➡ OIPN・転倒のいずれも、早期中止リスクの有意な上昇を認めました。


◆試験結果の解釈

この研究から、高齢の大腸がん患者では、

  • OIPNが発生すると、投与スケジュールが約2倍の頻度で遅延し、
  • 治療の早期中止リスクも2倍以上に上昇することが示されました。

さらに、転倒歴も同様に治療継続を阻害する独立要因でした。OIPNと転倒は互いに関連し合い、身体機能低下→治療中断→予後悪化という悪循環を形成することが懸念されます。


◆試験の限界

  • 診断コードに基づくOIPN・転倒の定義精度には限界がある。
  • SEER-Medicareは米国の高齢者集団が対象であり、若年層や他国への外挿は慎重な解釈が必要。
  • 転倒のリスク要因(筋力低下、併用薬、環境因子など)を十分に補正できていない可能性がある。

コメント

◆今後の展望

  • OIPN予防薬や治療法の確立が急務。
  • リハビリテーション・転倒予防プログラムを化学療法の一環として導入する意義。
  • 治療継続を支えるための多職種連携(薬剤師・看護師・理学療法士)の重要性。
  • 電子的診療データを活用したリアルワールド解析によるリスク管理の最適化。

◆まとめ

本研究は、高齢大腸がん患者におけるOIPNおよび転倒の臨床的影響を明らかにした大規模コホート解析です。

  • OIPNおよび転倒は、治療遅延・早期中止と強く関連
  • これらの治療中断は、がん関連アウトカムの悪化に直結する可能性が高い。
  • 今後は、OIPNの予防・緩和対策と転倒リスク評価を組み合わせた包括的ケアが求められます。

OIPNの治療は困難であることから、予防がカギとなる可能性があります。手足を冷やさない、冷たい飲み物などを避ける、保湿を欠かさない等々、複数の予防策を講じることが求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ データベース研究の結果、化学療法のインターサイクルの遅延や早期中止を経験した患者は、がん関連転帰が悪化する可能性がある。高齢大腸がん患者における化学療法中断の可能性を低減するためには、OIPNの予防・治療と転倒予防戦略が必要である。

根拠となった試験の抄録

目的: オキサリプラチン化学療法は大腸癌患者の生存率を改善するが、オキサリプラチン誘発性末梢神経障害(OIPN)は用量制限毒性としてよくみられる。本研究の目的は、オキサリプラチン化学療法の投与間隔の遅延および早期中止とOIPNおよび転倒との関連性を評価することであった。

方法: 本研究における大腸癌患者は、サーベイランス、疫学、および最終結果データベースとメディケア請求データ(SEER-Medicare)の組み合わせから得られた。全患者は診断時に66歳以上であった。OIPNおよび転倒は時間依存性曝露とみなされ、診断コードにより識別された。インターサイクル化学療法の遅延は、計画された化学療法日から7日以上後に化学療法を受けることと定義された。早期中止は、化学療法レジメン(点滴5-FU < 6サイクル、経口カペシタビン < 4サイクル)に従って決定された。一般化推定方程式および95%信頼区間を用いたポアソン回帰を使用して、インターサイクル遅延の調整発生率比(adjusted incidence rate ratios, IrR)および率差(rate differences, IrD)、および早期中止のリスク比(risk ratios, RR)およびリスク差(risk differences, RD)を算出した。

結果: 解析対象患者は合計3,802名であった。オキサリプラチンのサイクル間投与の遅延は、被験者の57.7%(n=2,194)に認められた。OIPN(IrR=1.87、95%信頼区間 1.67~2.10、IrD=2.09遅延/81人・日:95%信頼区間 1.48~2.69)および転倒(IrR=2.62、95%信頼区間2.06~3.34、IrD=3.30遅延/81人・日、95%信頼区間 1.96~4.64)は、遅延率の増加と関連していた。化学療法の早期中止は、患者の22.1%(n=841)に認められた。 OIPN(RR=2.51、95%CI 1.78~3.55、RD=7.2%、95%CI 3.0~11.4%)および転倒(RR=2.19、95%CI 1.24~3.85)も、早期中止のリスク増加と関連していました。

結論: 化学療法のインターサイクルの遅延や早期中止を経験した患者は、がん関連転帰が悪化する可能性がある。高齢大腸がん患者における化学療法中断の可能性を低減するためには、OIPNの予防・治療と転倒予防戦略が必要である。

キーワード: 5-フルオロウラシル、化学療法誘発性末梢神経障害、大腸がん、転倒、オキサリプラチン、オキサリプラチン誘発性末梢神経障害、治療中断

引用文献

The association of oxaliplatin-induced peripheral neuropathy and falls with intercycle delays and early discontinuation of chemotherapy in older colorectal cancer patients
Robert B Hines et al.
Support Care Cancer. 2025 Sep 26;33(10):880. doi: 10.1007/s00520-025-09924-6.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40999189/

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