治療抵抗性うつ病に対するエスケタミン単剤療法の効果は?―経鼻投与による検証(DB-RCT; JAMA Psychiatry. 2025)

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エスケタミン経鼻スプレーの効果はどのくらいか?

治療抵抗性うつ病(TRD)に対し、エスケタミン経鼻スプレー(Spravato®)は「他の抗うつ薬との併用」でのみ承認されてきました(日本未承認)。
しかし、単剤(モノセラピー)での有効性は未検証でした。

今回ご紹介するのは、初めてエスケタミン単剤の効果を検討したプラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)です。経口薬が使えないTRD患者にとって、新たな選択肢となる可能性が示唆されました。


試験結果から明らかになったことは?

■研究の概要

研究デザイン

  • 第4相二重盲検ランダム化プラセボ対照試験
  • 米国51施設の外来にて実施
  • 対象:DSM-5で定義される大うつ病性障害(MDD)で、2剤以上の抗うつ薬が無効(効果25%以下)の成人患者

介入

  • エスケタミン経鼻スプレー(56mg群 or 84mg群) vs. プラセボ
  • 2週間以上の抗うつ薬中止期間を設けたのち、1:1:2で割り付け
  • 投与は週2回×4週間(合計8回)

試験結果から明らかになったことは?

■ 対象者の特徴

  • 総数:378名(56mg:86名、84mg:95名、プラセボ:197名)
  • 平均年齢:45.4歳(SD 14.1)
  • 女性:61.1%
  • MADRSスコア(重症度指標):平均37.3点(28–50点)

■ 主な評価項目:MADRSスコアの変化

測定時点比較MARDSスコア
平均差(±SE)
95%信頼区間p値
28日後56mg vs. プラセボ−5.1±1.42−7.91 ~ −2.33<0.001
84mg vs. プラセボ−6.8±1.38−9.48 ~ −4.07<0.001
24時間後(Day2)56mg vs. プラセボ−3.8±1.29−6.29 ~ −1.220.004
84mg vs. プラセボ−3.4±1.24−5.89 ~ −1.000.006

28日後の効果量(Cohen’s d):56mg群 0.48、84mg群 0.63
24時間後にも有意差あり(即効性)


■ 有害事象(エスケタミン群全体)

症状発現率
吐き気24.8%
離人感・解離24.3%
めまい21.7%
頭痛19.0%

離人感や吐き気はエスケタミン特有の副作用として注意が必要


コメント

◆臨床的意義

本研究は、治療抵抗性うつ病に対してエスケタミンを単剤で用いても、短期間で有効性が得られることを示した初のRCTです。これまでの「経口抗うつ薬+エスケタミン」の組み合わせによらず、単剤で治療が難しい症例への応用可能性を提示しています。

特に「経口薬に副作用が出やすい人」「急速な効果を必要とする人」において、週2回の投与で迅速な改善が得られる点は大きな臨床的価値があります。


◆試験の限界

  • 観察期間は4週間と短く、長期的な効果・再発率は不明
  • 自殺念慮への影響や機能改善(就労・社会復帰)は評価されていない
  • 全例に抗うつ薬休薬期間を設けており、実臨床での即時切替の適用には慎重な判断が必要

◆今後の検討課題

  • 維持療法としての有効性と安全性(週1回投与など)
  • 併用療法 vs. 単剤療法の直接比較試験
  • 離人感などの副作用に対する予防的介入の有効性
  • 高齢者や自殺リスクが高い患者への適応検討

エスケタミン(Esketamine)は全身麻酔薬および抗うつ薬として米国等で承認されています。スプラバート(うつ病用)、ケタネスト(麻酔用)などの商品名で販売されています。うつ病に対しては鼻腔内スプレーがFDAによって承認されています。

本試験結果から、エスケタミン単独療法の有効性・安全性の評価が示されました。MARDSスコアは、プラセボと比較して有意に低いことが示されています。ちなみに、臨床における有効性の差異の最小差(MCID)は1.6-1.93-6である可能性が示されています。

なお、2025年7月時点において、エスケタミンは日本で未承認です。日本人を含めアジア人を対象とした臨床試験での検証が求められます。

今後の検証結果に期待。

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✅まとめ✅ 多施設二重盲検ランダム化比較試験の結果、エスケタミン単独療法は、治療を制限する忍容性の懸念と経口抗うつ薬による無反応を経験している患者の満たされていないニーズに対処することにより、治療抵抗性うつ病の成人患者の治療オプションを拡大する可能性がある。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性: エスケタミン点鼻スプレーは、経口抗うつ薬との併用により、治療抵抗性うつ病(treatment-resistant depression, TRD)の治療薬として承認されています。しかし、TRD患者に対するエスケタミン点鼻スプレーの単剤療法としての有効性はまだ評価されていません。

目的: TRD 患者のうつ症状の軽減におけるエスケタミン単独療法の有効性と安全性をプラセボと比較して評価すること。

試験デザイン、設定、および参加者: 本試験は、2020年11月から2024年1月にかけて、米国の外来診療センター51施設で実施された第4相二重盲検プラセボ対照ランダム化試験である。精神病的特徴を伴わない大うつ病性障害(DSM-5基準)の成人患者で、現在のうつ病エピソード中に2剤以上の経口抗うつ薬による治療で十分な反応が得られなかった(改善率25%以下)患者が試験への参加資格を満たした。データ解析は2024年3月1日から2024年7月8日まで実施された。

介入: 2週間以上の抗うつ薬不使用期間後、参加者は1:1:2の比率でランダムに分けられ、固定用量の鼻腔内エスケタミン(56 mgまたは84 mg)または対応する鼻腔内プラセボが週2回、4週間投与されました。

主な結果と評価: ベースラインから28日目(主要有効性エンドポイント)および初回投与後24時間(2 日目、主要な副次的有効性エンドポイント)までのMontgomery-Åsbergうつ病評価尺度(MADRS)スコアの変化を、反復測定を使用した混合効果モデルによって分析しました。

結果: 本多施設共同無作為化臨床試験において、無作為化前のMADRS重症度基準を満たした378名の参加者が、1回以上の試験薬(エスケタミン56mg [n=86]、エスケタミン84mg [n=95]、またはプラセボ [n=197])を投与された。参加者の平均年齢は45.4(SD 14.1)歳、女性は231名(61.1%)、ベースラインの平均(範囲)MADRS総スコアは37.3(28-50)であった。 28日目におけるエスケタミンとプラセボの最小二乗平均差は、56mg用量群で-5.1(SE 1.42)(95%信頼区間 -7.91 ~ -2.33)、84mg用量群で-6.8(SE 1.38)(95%信頼区間 -9.48 ~ -4.07)であった(いずれも両側P<0.001)。観察された効果サイズは、56mg用量群で0.48、84mg用量群で0.63であった。 2日目(初回投与から約24時間後)には、エスケタミンの両用量群において有意な群間差が認められ、56mg群では-3.8(SE 1.29)(95%信頼区間 -6.29 ~ -1.22、両側P=0.004)、84mg群では-3.4(SE 1.24)(95%信頼区間 -5.89 ~ -1.00、両側P=0.006)であった。エスケタミン(併用投与)投与群で最も多く報告された治療関連有害事象は、吐き気(56例 [24.8%])、解離(55例 [24.3%])、めまい(49例 [21.7%])、頭痛(43例 [19.0%])であった。

結論と関連性: この多施設二重盲検ランダム化臨床試験の結果によると、エスケタミン単独療法は、治療を制限する忍容性の懸念と経口抗うつ薬による無反応を経験している患者の満たされていないニーズに対処することにより、TRD の成人患者の治療オプションを拡大する可能性があります。

試験登録: ClinicalTrials.gov識別子 NCT04599855

引用文献

Esketamine Monotherapy in Adults With Treatment-Resistant Depression: A Randomized Clinical Trial
Adam Janik et al. PMID: 40601310 PMCID: PMC12224050 DOI: 10.1001/jamapsychiatry.2025.1317
JAMA Psychiatry. 2025 Jul 2:e251317. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2025.1317. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40601310/

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