術後3年間の運動で、あなたの「未来」が変わるかもしれません。
「手術も終わったし、あとは静かに過ごすだけでいい」。そう思っていませんか?
実は──
術後の“運動”が、がんの再発リスクを大きく下げる可能性がある。そんな衝撃の結果が、約900人を対象にした国際的な臨床試験で明らかになりました。
もともと前臨床研究および観察研究の結果、運動ががんの転帰を改善する可能性を示唆していました。しかしながら、決定的なエビデンスは不足していました。
今回ご紹介する研究は、大腸がん(ステージIIIまたは高リスクII)で手術と補助化学療法を終えたを対象に運動介入の効果を検証した、より大規模な結果です。
試験の概要:運動を“治療”に変えるチャレンジ
本研究は、カナダを中心とした55の医療施設で行われたCHALLENGE試験(Clinical Trials.gov: NCT00819208)です。
対象となったのは、大腸がん(ステージIIIまたは高リスクII)で手術と補助化学療法を終えたがんサバイバー889人です。
試験参加者は、以下の2群にランダムに割り付けられました:
- 運動群:3年間の構造化された運動プログラム(有酸素運動+筋力トレーニング)
- 健康教育群:健康的な生活習慣に関する情報提供のみ
追跡期間の中央値は7.9年に及び、運動の“真の効果”が長期的に評価されました。
結果:運動の継続が、再発・死亡のリスクを大幅に低下
評価項目 | 運動群 | 健康教育群 | 差異またはHR(95% CI) |
---|---|---|---|
5年無病生存率 | 80.3% | 73.9% | +6.4%(0.6–12.2) |
8年全生存率 | 90.3% | 83.2% | +7.1%(1.8–12.3) |
再発・新規がん・死亡のハザード比 | — | — | HR 0.72(0.55–0.94) |
死亡リスク(HR) | — | — | HR 0.63(0.43–0.94) |
運動を継続したグループでは、再発や死亡の複合リスクが約30%も低下しました。
これは、抗がん剤や手術と並ぶ、“運動という治療”の可能性を示す極めて重要な知見です。
“再発予防”としての運動──それは特別なトレーニングではなかった
気になるのは「どんな運動だったのか?」という点でしょう。
本試験では以下のような日常に取り入れやすい運動が行われました:
- 週150分以上の有酸素運動(ウォーキング、サイクリングなど)
- 週2回のレジスタンス運動(筋トレ)
つまり、特別なジムや器具がなくても、日常の中で再発リスクを下げる可能性があるのです。
ちなみに運動プログラムの詳細は以下です。
- 目標:週あたり少なくとも10 MET時間(ランニング:161m/分、柔道、空手、キックボクシング、テコンドー、ラグビー、水泳:平泳ぎなど、1エクササイズにかかる時間6分)のレクリエーション身体活動を増加させ、3年間維持すること。
- 運動の種類:中等度の有酸素運動(例:速歩、ジョギング、水泳、サイクリングなど)。
- 個別化:参加者は、好みや体力に応じて運動の種類、頻度、強度、時間を選択しました。
- サポート体制:最初の6か月間は、身体活動コンサルタントと月2回の対面セッションを行い、その後は月1回のセッションを継続しました。必要に応じて追加のサポートも提供されました。
コメント|注意すべき点と今後の課題
🧩 限界
- 本研究の参加者は主にカナダ・オーストラリアの中高所得層で、全ての地域や人種への一般化には注意が必要です。
- 運動群で筋骨格系の有害事象(関節痛、筋肉痛など)がやや多く報告されています。
🔍 今後の課題
- 他のがん種(乳がん、肺がんなど)に対する効果も検証が求められます。
- 「なぜ運動ががんの再発を防ぐのか」──その生物学的メカニズムの解明が今後の研究テーマとなります。
- 運動療法を実臨床へ導入するための制度設計や保険適用も、重要なステップです。
がん治療の“最後の一手”が、あなた自身にある
「もうがん治療は終わった」と思っていても、本当の回復は“体を動かすこと”から始まるのかもしれません。
この試験結果は、がん治療の新たな可能性を示しています。
再発を防ぐ選択肢として、運動はあなたの“味方”になるかもしれません。
とはいえ、まだまだ検証が求められるとことです。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、大腸がんの補助化学療法直後に開始された3年間の構造化された運動プログラムにより、無病生存期間が有意に延長し、全生存期間の延長と一致する結果が得られた。
根拠となった試験の抄録
背景: 前臨床研究および観察研究は、運動ががんの転帰を改善する可能性を示唆している。しかしながら、決定的なレベル1のエビデンスは不足している。
方法: 55施設で実施されたこの第3相ランダム化比較試験では、大腸癌切除術を受け、術後化学療法を完了した患者を、3年間にわたり、体系的な運動プログラムに参加する群(運動群)と健康教育教材のみを受講する群(健康教育群)に割り付けました。
主要評価項目は無病生存率でした。
結果: 2009年から2024年にかけて、計889人の患者が運動群(445人)または健康教育群(444人)にランダムに割り付けられた。追跡期間中央値7.9年において、運動群の無病生存率は健康教育群よりも有意に長かった(疾患再発、新規原発がん、または死亡のハザード比 0.72、95%信頼区間[CI] 0.55~0.94、P=0.02)。5年無病生存率は、運動群で80.3%、健康教育群で73.9%であった(差 6.4パーセントポイント、95%CI 0.6~12.2)。結果は、運動群の方が健康教育群よりも全生存期間が長いことを裏付けています(死亡ハザード比 0.63、95%信頼区間 0.43~0.94)。8年全生存率は、運動群で90.3%、健康教育群で83.2%でした(差 7.1パーセントポイント、95%信頼区間 1.8~12.3)。筋骨格系の有害事象は、運動群の方が健康教育群よりも多く発生しました(患者数 18.5% vs. 11.5%)。
結論: 大腸がんの補助化学療法直後に開始された3年間の構造化された運動プログラムにより、無病生存期間が有意に延長し、全生存期間の延長と一致する結果が得られました。
資金提供:カナダがん協会 他
試験登録:ClinicalTrials.gov番号 NCT00819208
引用文献
Structured Exercise after Adjuvant Chemotherapy for Colon Cancer
Kerry S Courneya et al. PMID: 40450658 DOI: 10.1056/NEJMoa2502760
N Engl J Med. 2025 Jun 1. doi: 10.1056/NEJMoa2502760. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40450658/
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