スタチン使用の副作用として注目される白内障リスク
スタチンは、高コレステロール血症や心血管疾患予防のために広く使用されているHMG-CoA還元酵素阻害薬です。
しかし、スタチン使用に伴う白内障リスクの増加が指摘されており、その関連性は長らく議論の的となってきました。
今回ご紹介する研究は、日本の労働人口世代を対象に、スタチン使用と白内障発症リスクの関連を後ろ向きコホート研究で検討したものです。
特に、異なるスタチンの種類(親油性 vs 親水性、低力価 vs 高力価)ごとのリスク比較が行われています。
試験結果から明らかになったことは?
試験デザインと対象
項目 | 内容 |
---|---|
研究デザイン | 後ろ向きコホート研究 |
データ期間 | 2005年1月1日~2017年12月31日 |
データソース | 日本の働き盛り世代の健診データおよび保険請求データ |
対象者 | 高脂血症基準を満たす1,178,560人から724,200人を抽出 |
群分け | スタチン未使用群、新規スタチン使用群 |
主要評価項目 | 白内障発症リスク |
解析方法 | Cox比例ハザードモデルによるHR算出(年齢・性別調整、多変量調整) |
主な結果
スタチンタイプ | 調整HR [95% CI] | リスク評価 |
---|---|---|
全スタチン使用者 | 1.56 [1.43-1.70] | リスク増加 |
低力価スタチン | 1.48 [1.30-1.70] | リスク増加 |
高力価スタチン | 1.61 [1.44-1.79] | リスク増加 |
親油性スタチン | 1.56 [1.39-1.75] | リスク増加 |
親水性スタチン | 1.56 [1.38-1.75] | リスク増加 |
フルバスタチン、シンバスタチンを除くスタチン | 1.35-1.73 | フルバスタチン、シンバスタチンは例外(リスク低い) |
- スタチン使用により、白内障発症リスクが1.56倍に増加(多変量調整後)
- 低力価スタチン(ロバスタチン、プラバスタチンなど)よりも、高力価スタチン(アトルバスタチン、ロスバスタチンなど)の方がリスクが高い
- 親油性スタチン(シンバスタチン、アトルバスタチンなど)と親水性スタチン(プラバスタチン、ロスバスタチンなど)でリスク差は認められなかった
- フルバスタチンおよびシンバスタチンでは、他のスタチンに比べてリスク増加が小さい
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臨床的意義
- 高力価スタチンが特にリスク増加
- LDLコレステロールを大きく低下させるスタチンが白内障発症リスクを高める可能性が示唆されました。
- 親油性・親水性に差はない
- 脂溶性に基づくリスクの偏りは認められなかったため、スタチン選択においては力価が重視される可能性があります。
- フルバスタチン・シンバスタチンが比較的リスク低
- 白内障発症リスクが低い可能性があり、特に高齢者や白内障リスクが高い患者では検討した方が良いかもしれまん。
臨床での対応
- 定期的な眼科検査が重要
- 長期使用者、特に高力価スタチン服用者には定期的な眼科検診が推奨されます。
- 薬剤選択時の考慮が必要
- 患者のリスクプロファイル(年齢、既往歴など)を考慮し、リスクが低いスタチンを選択することも検討した方が良いでしょう。
いずれも相関関係が示されたにすぎず、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 後向きコホート研究の結果、日本の労働人口の中年層では、スタチンの使用は白内障のリスクを1.5~1.6倍高めることと関連していた。
根拠となった試験の抄録(日本語訳)
目的:市販の労働年齢の日本人を対象とした健康診断および保険請求データベースのデータ(2005年1月1日から2017年12月31日までの記録)を用いた後ろ向きコホート研究において、スタチン使用と白内障形成との関連性を検討した。
方法:健康診断データを用いて、脂質異常症の基準を満たす1,178,560人の患者を特定し、そのうち724,200人が登録された。人・年に基づいて、コホートはスタチン未使用と新規使用に分類された。未調整、年齢・性別調整、および多変量調整ハザード比(ハザード比[HR]、およびそれらの95%信頼区間[CI])を推定し、Cox比例ハザード回帰を用いて群間比較を行った。
結果:白内障発症リスクの上昇は、スタチン使用(調整HR [95% CI])とスタチン非使用(1.56 [1.43~1.70])との関連が認められた。低力価スタチンおよび高力価スタチンの白内障発症リスクの調整HR [95% CI]はそれぞれ1.48 [1.30~1.70]および1.61 [1.44~1.79]であったのに対し、親油性スタチンおよび親水性スタチンの白内障発症リスクの調整HR [95% CI]はそれぞれ1.56 [1.39~1.75]および1.56 [1.38~1.75]であった。スタチン使用と白内障発症リスクの調整HRは、フルバスタチンおよびシンバスタチンを除き、1.35~1.73であった。
結論:日本の労働人口の中年層では、スタチンの使用は白内障のリスクを1.5~1.6倍高めることと関連していた。
キーワード: 白内障、後向きコホート研究、スタチン、労働人口
引用文献
Association between statin use and cataract formation in a retrospective cohort study using Japanese health screening and claims data
Kazuhiro Kawabe et al.
PMID: 40253569
Sci Rep. 2025 Apr 19;15(1):13594. doi: 10.1038/s41598-025-97889-1.
ー 続きを読む:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40253569/
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