胸痛で救急外来を受診したとき、どの症状が心筋梗塞を示唆するか?(前向き研究; Resuscitation. 2010)

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胸痛の評価は診断の要

救急外来(ED)での胸痛は頻度が高く、急性心筋梗塞(AMI)を迅速に見分けることが求められます。
従来、胸痛の部位や放散先、随伴症状を総合的に評価して診断が進められてきましたが、個々の症状の信頼性には限界があり、実臨床での診断精度を確立するためにはエビデンスが必要です。

本研究は、胸痛でEDを受診した患者における症状と身体所見がAMI診断にどの程度寄与するかを評価した前向き観察研究です。

試験結果から明らかになったことは?

試験デザインと対象

項目内容
研究デザイン前向き観察研究
対象者EDで胸痛を訴えた患者796人
評価項目AMI診断および6か月以内の有害心血管イベント(死亡、再梗塞、緊急血行再建術)
解析方法多変量ロジスティック回帰分析によるオッズ比(OR)計算

主な結果

症状・身体所見オッズ比(95%CI)AMIリスク
右腕への放散痛2.23(1.24-4.00)リスク上昇
両腕への放散痛2.69(1.36-5.36)リスク上昇
嘔吐3.50(1.81-6.77)リスク上昇
胸中央部痛3.29(1.94-5.61)リスク上昇
発汗5.18(3.02-8.86)リスク上昇
左前胸部痛0.25(0.14-0.46)リスク低下
安静時痛0.67(0.41-1.10)有意差なし
左腕への放散痛1.36(0.89-2.09)有意差なし
  • AMIと診断された患者:796人中148人(18.6%)
  • 典型的症状と考えられていた「左腕への放散痛」や「安静時痛」は診断に寄与せず
  • むしろ「右腕放散痛」「両腕放散痛」「嘔吐」「胸中央部痛」「発汗」がリスクを高めた
  • 胸痛が左前胸部にある場合はAMIリスクが大きく低下

コメント

心筋梗塞の症状には「思い込みの危険性」

従来、「左胸痛」や「左腕放散痛」は心筋梗塞の典型的症状とされてきましたが、本研究ではこれらの所見が診断に寄与しないことが示されました。
むしろ、「右腕や両腕への放散痛」「嘔吐」「発汗」などの“非典型的”とされる症状が、実際にはAMIを強く示唆していることが判明しました。

救急現場での意義

  • 症状に対するバイアスを排除することが重要
  • “典型的”でない症状でもAMIを疑う視点が必要
  • 右腕痛や発汗があれば慎重に評価するべき
  • 左前胸部痛だけでは過度に心筋梗塞を疑う必要はない

今後は、症状評価における診断精度を再考し、救急医療の現場での活用が期待されます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 前向きコホート研究の結果は、急性冠症候群が疑われるED患者における個々の症状や身体所見の価値に対する従来の考え方に一石を投じるものである。いくつかの「非典型的」症状がAMIリスクを高め、逆に「典型的」症状が必ずしも高リスクを示さないことが明らかとなった。

根拠となった試験の抄録(日本語訳)

目的:患者の病歴と身体所見は、現代医学において診断の基盤とされている。本研究の目的は、救急外来(ED)に胸痛を訴えて来院した患者において、急性心筋梗塞(AMI)の診断および心血管イベント予測における、個々の病歴や身体所見の価値を評価することである。

方法:心臓性胸痛が疑われてEDを受診した患者を前向きに登録し、カスタムデザインの報告書フォームを用いて臨床特徴を記録した。すべての患者は、AMI診断および6か月以内の有害事象(死亡、AMI、緊急血行再建術)発生をフォローアップした。

結果:合計796人の患者が登録され、148人(18.6%)がAMIと診断された。年齢、性別、心電図(ECG)変化を調整後、以下の症状がAMIリスクを上昇させた(調整オッズ比、95%CI):右腕への放散痛(2.23、1.24-4.00)、両腕への放散痛(2.69、1.36-5.36)、嘔吐(3.50、1.81-6.77)、胸中央部痛(3.29、1.94-5.61)、発汗(5.18、3.02-8.86)。一方、左前胸部痛はAMIリスクを低下させた(0.25、0.14-0.46)。安静時痛(0.67、0.41-1.10)および左腕への放散痛(1.36、0.89-2.09)は、AMIリスクに有意差を示さなかった。

結論:本研究結果は、急性冠症候群が疑われるED患者における個々の症状や身体所見の価値に対する従来の考え方に一石を投じるものである。いくつかの「非典型的」症状がAMIリスクを高め、逆に「典型的」症状が必ずしも高リスクを示さないことが明らかとなった。

引用文献

The value of symptoms and signs in the emergent diagnosis of acute coronary syndromes
Richard Body, et al.
PMID: 20036454
Resuscitation. 2010 Mar;81(3):281-6. doi: 10.1016/j.resuscitation.2009.11.014. Epub 2009 Dec 29.
ー 続きを読む:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20036454/

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