手術後の嘔気・嘔吐(PONV)対策に新たな選択肢?—経皮電気鍼刺激ブレスレット(EmeTerm)の有効性を検証(DB-RCT; J Bone Joint Surg Am. 2025)

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手術後の嘔気・嘔吐(PONV)に悩む患者へ

術後悪心・嘔吐(Postoperative Nausea and Vomiting, PONV)は、全身麻酔後の一般的な副作用であり、整形外科手術後にも高頻度で発生します。
特に、腰椎麻酔下で実施される股関節全置換術(THA)や膝関節全置換術(TKA)において、PONVの発生率は30%を超えることもあります。

従来、PONV予防には抗嘔吐薬(制吐薬:デキサメタゾンやオンダンセトロンなど)が用いられますが、完全に防ぐことは困難です。
そこで注目されているのが、経皮電気鍼刺激ブレスレット(EmeTerm)です。
本研究は、THAおよびTKA術後のPONVに対するEmeTermブレスレットの有効性を評価したランダム化比較試験です。

試験結果から明らかになったことは?

試験デザインと対象

項目内容
研究デザインランダム化比較試験
対象者PONV中等度~高リスク患者(THA 195人、TKA 153人)
治療法制吐薬(デキサメタゾン+オンダンセトロン)単独 vs. 制吐薬+EmeTermブレスレット
主要評価項目術後24時間以内のPONV発生率
副次評価項目重度PONV率、救済抗エメティック使用率、有害事象発生率、術後回復の質(QoRスコア)

主な結果

評価項目制吐薬+EmeTerm制吐薬単独群間差(P値)
PONV発生率16.0%31.2%P = 0.001
重度PONV発生率1.1%8.1%P = 0.002
制吐薬レスキュー使用率3.4%13.9%P = 0.001
PONVリスク低減率HR 0.39
(95%CI 0.24–0.63)
61%減少
基準
完全反応率(PONVなし)84.0%68.8%P = 0.001
QoRスコア(24時間後)改善
  • EmeTerm併用群ではPONVリスクが61%低下し、完全反応率が高かった(84.0%)
  • 術後0~6時間の早期発症PONVにも有効
  • QoRスコアも向上し、術後回復の質が改善
  • 有害事象は両群で同程度であり、安全性に差はなし

コメント

本研究の結果から、EmeTermブレスレットが制吐療法を補完し、PONVリスクを有意に低減できることが示されました。
特に、術後24時間以内のPONV発生率が半減した点は、整形外科手術後の管理における重要な知見です。

実臨床での意義

  • EmeTermは簡便かつ非侵襲的
    • 経皮電気鍼刺激を利用したデバイスであり、副作用が少ない
  • 制吐薬との併用効果が大きい
    • 単独でのPONV予防が不十分な患者に対して、補助療法として有効
  • 早期PONVの抑制が可能
    • 特に術後0~6時間の早期PONVに対して効果を示すため、早期回復支援にも有用

今後の課題として、他の手術(腹部外科や婦人科手術)での有効性検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、EmeTermブレスレットを制吐薬に追加することで、THAおよびTKA術後のPONVを有意に低減させ、術後の短期回復を改善することが示された。

根拠となった試験の抄録(日本語訳)

背景:経穴刺激(Acupoint stimulation)は、全身麻酔を伴うさまざまな手術後における術後悪心・嘔吐(PONV)のリスクを低減させることが示されているが、脊椎麻酔を伴う整形外科手術後においても同様の効果があるかどうかは不明である。本研究の目的は、脊椎麻酔下で実施された股関節全置換術(THA)および膝関節全置換術(TKA)におけるPONV発生率および回復の質を、従来の抗嘔吐薬(制吐薬)のみを使用した群と、制吐薬と経皮電気経穴刺激ブレスレット(EmeTerm; WAT Medical Enterprise)を併用した群で比較することである。

方法:PONVの中等度または高リスク患者(THA施行患者195人、TKA施行患者153人)を、従来の抗エメティック(デキサメタゾンおよびオンダンセトロン)のみを投与する群、またはこれら制吐薬にEmeTermブレスレットを併用する群にランダムに割り付けた。
主要評価項目は術後24時間以内のPONV発生率であり、その他の副次評価項目として、重度PONV発生率、救済抗エメティック使用率、有害事象発生率、術後回復の質(QoR)スコアを評価した。

結果:ランダム化により804人の患者が割り付けられ、403人がメポリズマブ群、401人がプラセボ群となった。
制吐薬とEmeTermブレスレットを併用した群では、PONV発生率が16.0%であり、制吐薬のみを使用した群の31.2%に比べて有意に低かった(P=0.001)。
重度PONVの発生率も併用群で1.1%と低く、制吐薬のみ群の8.1%と比較して有意差があった(P=0.002)。
制吐薬レスキュー使用率は併用群で3.4%
、制吐薬のみ群で13.9%と、併用群で有意に低下していた(P=0.001)。
EmeTermブレスレットを使用することで、術後24時間以内のPONVリスクが61%減少
し(調整ハザード比 0.39、95%信頼区間 [CI] 0.24~0.63)、特に術後0~3時間および3~6時間の間でその効果が顕著であった。
併用群の完全反応率(PONVなし)84.0%であり、制吐薬のみ群の68.8%に比べて有意に高かった(P=0.001)。
また、術後24時間のQoRスコアも併用群で有意に改善していた。

結論:EmeTermブレスレットを制吐薬に追加することで、THAおよびTKA術後のPONVを有意に低減させ、術後の短期回復を改善することが示された。

エビデンスレベル:治療レベルI(最高レベル)。

引用文献

Transcutaneous Electrical Acupoint Stimulation Bracelet for Reducing Postoperative Nausea and Vomiting in Orthopaedic Surgery
Chen Y, Zhao X, Wu H, et al.
PMID: 40153477
J Bone Joint Surg Am. 2025 Apr 20;107(8):e471-e478. doi:10.2106/JBJS.23.00123
ー 続きを読む:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40153477/

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