RAAS阻害薬は高カリウム血症のリスク?その対策としてSGLT2阻害薬が有望か
ACE阻害薬やARBなどのRAAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)阻害薬は、糖尿病性腎症、心不全、慢性腎臓病(CKD)の進行抑制において中心的な役割を果たします。しかしその一方で、高カリウム血症(hyperkalemia)のリスクを高めることが知られており、治療中断の原因にもなり得ます。
これまでの一部のランダム化試験の事後解析では、SGLT2阻害薬の追加によりこのリスクが軽減する可能性が示唆されていましたが、実臨床でのエビデンスは乏しいのが現状でした。
本研究では、カナダ・オンタリオ州の高齢患者を対象とした後向きコホート研究により、SGLT2阻害薬の開始がRAASi関連の高カリウム血症リスクに与える影響を評価しました。
試験結果から明らかになったことは?
試験デザイン
- デザイン:後ろ向きコホート研究(実臨床データ)
- 地域/期間:カナダ・オンタリオ州(2015年7月1日〜2021年6月30日)
- 対象:
- 66歳以上の高齢者
- RAAS阻害薬を服用中
- 以下のいずれかの既往:糖尿病、心不全、eGFR <45 mL/min/1.73m²、尿アルブミン/クレアチニン比 >30mg/mmol
- 群分け:
- SGLT2阻害薬新規導入群(20,063例)
- SGLT2阻害薬非導入群(19,781例)
- 交絡因子調整:傾向スコアによる逆確率重み付け(IPTW)
主な結果
評価項目 | SGLT2阻害薬群 | 非導入群 |
---|---|---|
年齢(平均) | 76.9歳 | 76.8歳 |
男性比率 | 59.9% | 59.3% |
評価項目 | コホート全体 |
---|---|
糖尿病の既往 | 95% |
心不全の既往 | 17% |
CKD(ステージ3–5) | 32% |
評価項目 | SGLT2阻害薬群 | 非導入群 | ハザード比 HR |
---|---|---|---|
高カリウム血症発症率 | – | – | HR 0.89 (95%CI 0.82–0.96) |
RAAS阻害薬の中止率 | 36% P<0.001 | 45% | – |
コメント
本研究の最大のポイントは、RAAS阻害薬を服用中の高リスク患者において、SGLT2阻害薬の開始が高カリウム血症のリスクを有意に低下させた点です。
加えて、RAASi中止率も有意に低く、SGLT2阻害薬がRAASi治療の持続をサポートする可能性が示唆されました。このことは、RAASiがもつ臓器保護効果を最大限に発揮させるうえでも非常に重要です。
SGLT2阻害薬はナトリウム利尿作用や遠位尿細管でのカリウム排泄促進作用を持つことから、高カリウム血症の緩和が理論的に説明されていましたが、実臨床での有効性を裏付けるデータは初といえるでしょう。
ただし、本研究は後向きコホート研究であり、交絡因子を完全に排除することはできません。有効性・安全性の再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ カナダの大規模コホート研究の結果、糖尿病、心不全、またはCKDの既往がありRAAS阻害薬を服用中の患者において、SGLT2阻害薬の新規導入は高カリウム血症とRAAS阻害薬の中止リスクを低減することが示された。
根拠となった試験の抄録(日本語訳)
試験の重要性:RAAS阻害薬使用中の高カリウム血症は一般的な合併症である。大規模な無作為化試験の事後解析では、SGLT2阻害薬の併用によりこのリスクが緩和される可能性が示されているが、日常診療でこの知見が当てはまるかは不明である。
目的:糖尿病、心不全、または慢性腎臓病を背景にRAAS阻害薬を服用中の患者において、SGLT2阻害薬開始と高カリウム血症発症との関連を評価すること。
試験デザイン・対象:カナダ・オンタリオ州における後ろ向きコホート研究。2015年7月〜2021年6月の期間に、RAAS阻害薬を処方された66歳以上の成人を対象とした。対象者は、糖尿病または心不全の既往、eGFR<45、または尿アルブミン/クレアチニン比>30のいずれかを満たした。
曝露因子:SGLT2阻害薬の新規導入。導入の有無により群分けし、傾向スコアによる逆確率重み付けを実施。
主なアウトカム:高カリウム血症(血清K>5.5mEq/Lまたは高カリウム血症を示す診療コード)が1年以内に発生したかどうか。
結果:SGLT2阻害薬群20,063人(平均年齢76.9歳)、非導入群19,781人(平均76.8歳)を比較した。全体で95%が糖尿病、17%が心不全、32%がCKDを有していた。高カリウム血症の発生リスクはSGLT2阻害薬群で有意に低下した(HR 0.89[95%CI 0.82–0.96])。また、RAAS阻害薬の中止率はSGLT2阻害薬群で36%、非導入群で45%と、有意に低かった(P<0.001)。
結論:糖尿病、心不全、またはCKDの既往がありRAAS阻害薬を服用中の患者において、SGLT2阻害薬の新規導入は高カリウム血症とRAAS阻害薬の中止リスクを低減することが示された。
引用文献
Association of Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitor Initiation With Hyperkalemia in Individuals Receiving Renin-Angiotensin-Aldosterone System Inhibitors
Paterson JM, Gomes T, Harel Z, et al. PMID: 40293730
JAMA Intern Med. Published online April 1, 2024. doi:10.1001/jamainternmed.2024.0213
ー 続きを読む:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40293730/
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