研究の背景と目的
セマグルチド(商品名:オゼンピック、ウゴービなど)は、2型糖尿病や肥満治療薬として急速に普及しています。承認申請時の臨床試験では、主に消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢など)が副作用として報告されていましたが、実臨床での安全性データは限られていました。
そこで今回は、米国におけるセマグルチド関連の救急外来(ED)受診件数とその内訳を、全国の有害事象サーベイランスデータ(NEISS-CADES)から推計することを目的に実施された横断研究の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
試験デザイン
- データソース:米国・全国電子傷害監視システム–協力型有害薬物事象サーベイランスプロジェクト(NEISS-CADES)
- 対象期間:2022年1月1日〜2023年12月31日
- 対象:セマグルチドに起因すると臨床医が判断した救急外来受診例
- 解析方法:551例から全国推計を行い、有害事象の種類・頻度を評価
主な結果
項目 | 結果 |
---|---|
救急外来推定受診件数 | 24,499件(95%CI 17,022~31,976) |
対象患者の平均年齢 | 50.9歳 |
女性比率 | 73.2% |
セマグルチド単独関与率 | 81.7% |
剤型 | 注射剤が94% |
最も多かった有害事象 | 消化器症状(69.3%) |
消化器症状の内訳 | 嘔気・嘔吐(57.6%)、腹痛(25.1%)、下痢(12.2%) |
低血糖を伴った受診 | 16.5%(37.6%が入院を要した) |
アレルギー反応を伴った受診 | 5.5% |
薬剤エラー関与率 | 9.0% |
- 救急受診のうち、82.6%が2023年に発生しており、使用者増加と並行して報告数も増加している。
- 低血糖で受診した患者の約19%は、セマグルチド以外の糖尿病治療薬を使用していなかったことも指摘された。
コメント
この研究から、セマグルチド使用者の救急外来受診率自体は非常に低い(使用者1000人あたり4人未満)ことが示されました。しかし、特に重篤な消化器症状や予期せぬ低血糖発作が実臨床で無視できない頻度で発生していることも明らかになりました。
低血糖は本来、GLP-1受容体作動薬の機序上、単独使用では起こりにくいはずですが、本研究ではセマグルチド単剤使用者にも発生していた点が注目されます。この背景には、薬剤誤使用、個人差、もしくはコンパウンド(混合製剤)の影響が関与している可能性が指摘されています。
米国での調査結果ではありますが、日本においても特にダイエット目的で自由診療の一環として処方されることがあります。保険適応での使用ではなく、副作用救済の対象とはならないことから注意を要します。
今後、患者への適切な副作用説明、消化器症状や低血糖発生時の対応指導、コンパウンド製剤と純正製剤の影響分離(日本においても輸入品の影響がある)がさらに重要になるでしょう。
続報に期待。

✅まとめ✅ 米国の横断研究の結果、セマグルチド使用者の救急外来受診率自体は非常に低い(使用者1000人あたり4人未満)ことが示された。しかし、特に重篤な消化器症状や予期せぬ低血糖発作が実臨床で無視できない頻度で発生していることも明らかとなった。
根拠となった試験の抄録
米国CDCのMaribeth C. Lovegroveらによる研究チームは、全国電子傷害監視システム–協力型有害薬物事象サーベイランス(NEISS-CADES)データを用いて、セマグルチド関連の救急外来受診件数を推定した。
551例から推定した結果、2022年から2023年にかけて24,499件の救急外来受診がセマグルチド関連で発生したと見積もられた(平均年齢50.9歳、女性73.2%)。救急外来受診の81.7%でセマグルチド単剤が関与しており、注射剤が94%を占めた。有害事象の主因は消化器症状(69.3%)、低血糖(16.5%)、アレルギー反応(5.5%)であった。
低血糖での受診例の37.6%は入院を要した。
著者らは、セマグルチド使用開始時には、重篤な消化器副作用や低血糖リスクについて患者への適切なカウンセリングが推奨されるべきであると結論づけた。
引用文献
U.S. Emergency Department Visits Attributed by Clinicians to Semaglutide Adverse Events, 2022-2023
Maribeth C Lovegrove et al. PMID: 40194288 DOI: 10.7326/ANNALS-24-03258
Ann Intern Med. 2025 Apr 8. doi: 10.7326/ANNALS-24-03258. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40194288/
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