糖尿病治療が “脳機能を守る” 可能性
糖尿病は心血管疾患のリスク要因であると同時に、認知症リスクを高める代謝疾患としても知られています。近年は、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)といった「心血管保護作用を持つ糖尿病治療薬」が注目されていますが、これらの薬剤が認知症予防にも寄与するかどうかは明らかになっていませんでした。
この疑問に答えるべく、今回紹介するのがJAMA Neurology誌に掲載された最新のシステマティックレビューおよびメタアナリシスです。
試験結果から明らかになったことは?
試験概要
項目 | 内容 |
---|---|
試験デザイン | ランダム化比較試験(RCT)26件のメタ解析 |
総参加者数 | 164,531名(平均年齢 64.4歳、女性 34.9%) |
対象薬剤 | SGLT2阻害薬(12試験)、GLP-1RA(10試験)、ピオグリタゾン(1試験)、メトホルミン(該当試験なし) |
主要評価項目 | 認知症または認知機能障害の発症 |
副次評価項目 | 認知症のサブタイプ(アルツハイマー型、血管性など)、認知スコアの変化 |
主な結果
比較対象 | 認知症または認知機能障害の発症 オッズ比(OR) | 95%信頼区間(CI) |
---|---|---|
全体(全薬剤) | 0.83 | 0.60–1.14 |
GLP-1RA単独 | 0.55 | 0.35–0.86 |
SGLT2阻害薬単独 | 1.20 | 0.67–2.17 |
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本メタ解析の最大のポイントは、GLP-1受容体作動薬が認知症リスクを統計学的に有意に低下させた点です。GLP-1RAは血糖改善だけでなく、抗炎症作用や脳内GLP-1受容体を介した神経保護作用が報告されており、今回の結果はこうした機序の臨床的裏付けとなる可能性があります。
一方、SGLT2阻害薬については有意な関連が見られず、薬剤ごとに中枢神経への作用が異なる可能性があることを示唆しています。また、ピオグリタゾンに関するデータは1試験のみ、メトホルミンに関しては該当RCTが見つからなかった点にも注意が必要です。
今後は、疾患進行度別、性別、遺伝的背景(APOEなど)による効果の違いや、長期追跡データの蓄積が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験のメタ解析の結果、心血管保護血糖降下薬全体としては、認知症リスクの低下と有意な関連はなかったが、GLP-1受容体作動薬は認知症のリスク低下と統計的に有意な関連を示した。
根拠となった論文の抄録
試験の重要性:糖尿病は認知症のリスク因子であるが、血糖降下療法が認知症発症予防に効果があるかは明らかではない。
目的:心血管保護効果のある血糖降下薬(SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、メトホルミン、ピオグリタゾン)が、コントロール群と比較して認知症または認知機能障害のリスクを低下させるかどうかを検討すること。
データソース:PubMedおよびEmbaseを用い、データベース開始から2024年7月11日までの研究を検索。
研究選定基準:心血管保護血糖降下薬を使用し、認知症または認知スコアの変化を報告しているランダム化比較試験。
データ抽出と統合:PRISMAガイドラインに従い、2名の著者が独立してスクリーニングおよび抽出を実施。ランダム効果モデルによるメタ解析を行った。
主要アウトカム:認知症または認知機能障害の発症。副次アウトカムは、認知症のサブタイプおよび認知スコアの変化。
結果:26件のRCT(計164,531名)が解析対象となり、このうち23件(160,191名)が認知症または認知障害の発症を報告していた。内訳は、SGLT2阻害薬12件、GLP-1RA 10件、ピオグリタゾン1件。メトホルミンの該当試験はなし。
全体として、心血管保護血糖降下薬は、認知症または認知障害のリスク低下とは有意な関連を示さなかった(OR 0.83[95% CI: 0.60~1.14])。
薬剤クラス別では、GLP-1RAで有意なリスク低下(OR 0.55[95% CI: 0.35~0.86])が認められた。
一方、SGLT2阻害薬は有意なリスク低下を示さなかった(OR 1.20[95% CI: 0.67~2.17]、異質性のP=0.04)。
結論と意義:心血管保護血糖降下薬全体としては、認知症リスクの低下と有意な関連はなかったが、GLP-1受容体作動薬は認知症のリスク低下と統計的に有意な関連を示した。
引用文献
Cardioprotective Glucose-Lowering Agents and Dementia Risk: A Systematic Review and Meta-Analysis
Allie Seminer, Alfredi Mulihano, Clare O’Brien, et al. PMID: 40193122 DOI: 10.1001/jamaneurol.2025.0360
JAMA Neurology. Published online 2025 Apr 7.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40193122/
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