GLP-1やSGLT2阻害薬に“アクセスできない”糖尿病患者は今も多い?(米国の横断研究; Ann Intern Med. 2025)

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心臓を守る糖尿病治療薬、誰でも使えるわけではない

SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)は、単なる血糖降下薬にとどまらず、心血管疾患や死亡リスクを低下させるエビデンスに基づいた治療薬として注目を集めています。

にもかかわらず、アメリカの公的医療保険制度「Medicaid(低所得者向け)」の加入者は、これらの薬に“制限付きでしかアクセスできない”現状が報告されました。

試験結果から明らかになったことは?

試験概要

項目内容
試験デザイン全米横断的調査
対象2024年3月時点の全50州Medicaid FFS(費用対サービス)プラン、および273件の非高齢成人向けMCO(管理医療)プラン
評価対象薬SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬(ベンチマーク用)
「無制限アクセス」の定義各薬剤クラスで少なくとも1剤が優先医薬品リストに掲載されており、事前承認(prior authorization)や段階的治療(step therapy)が不要

主な結果

プランの種類無制限で利用可能な割合(%)SGLT2iGLP-1 RA両方
FFS(50州)
fee-for-service
80%60%58%84%
MCO(273件)
managed care organization
67%48%47%75%
  • MCO加入者における薬剤アクセスの州別ばらつきが大きく、SGLT2阻害薬のアクセス可能率は24~100%、GLP-1 RAでは0~99%と大幅に変動
  • 推定1.7百万人(25%)の加入者がSGLT2阻害薬のアクセス制限あり
  • 2.72百万人(40%)がGLP-1 RAへのアクセスに制限あり
  • チルゼパチド(tirzepatide)はほぼすべてのプランでアクセスが制限されていた

コメント

米国の横断研究の結果、多くのMedicaid加入者は、特にGLP-1 RAにおいてアクセス制限を受けており、州ごとの格差も大きいことが示されました。医薬品費用とのバランスを取りながら、フォーミュラリ設計を活用してアクセスを改善する余地があることが報告されました。

この全米調査は、ある特定の糖尿病治療薬群が、社会的弱者に十分行き渡っていない現実を突きつけています。とくに、GLP-1 RAに対するアクセス制限は顕著であり、政策的・経済的要因が患者の転帰に直結している可能性が高いといえます。

また、MCO(民間による管理型医療プラン)における制限が主な要因となっており、薬剤コストと制度設計のバランスという大きな課題が浮き彫りとなりました。

著者らは、薬剤の保険償還のあり方(フォーミュラリ設計)が、患者の健康格差を是正する鍵になり得ると結論づけています。

ただし、あくまでも治療にアクセスできるか否かの視点から考察されている結果です。患者背景を踏まえた費用対効果の算出は行われていません。つまり、SGLT2阻害薬やGLP-1 RAを導入することで恩恵を受けられる患者層が不明確です。医療保険は有限であることからも、すべての患者に必要とはいえません。心血管リスクの低い患者層に上記の薬剤を優先して使用することについての検証は不充分です。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 米国の横断研究の結果、多くのMedicaid加入者は、特にGLP-1 RAにおいてアクセス制限を受けており、州ごとの格差も大きい。医薬品費用とのバランスを取りながら、フォーミュラリ設計を活用してアクセスを改善する余地がある。

根拠となった試験の抄録

背景:SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬は、心血管疾患および死亡リスクを減少させる唯一の2型糖尿病治療薬であるが、Medicaidプログラムにおける利用可能性は明らかでない。

目的:SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の「無制限な利用可能性(prior authorizationやstep therapyが不要)」を評価すること(比較対象としてDPP-4阻害薬を用いた)。

デザイン:公開データを用いた全国横断的研究。

対象
2024年3月時点で全米50州のMedicaid費用対サービス(FFS)プランおよび273件の非高齢者向けMCOプラン。

評価項目
無制限な利用可能性は、少なくとも1剤が優先薬リストに掲載され、かつ事前承認・段階治療が不要であることと定義。

結果
50州のFFSプランでは、SGLT2阻害薬で80%、GLP-1 RAで60%、両方で58%、DPP-4阻害薬で84%が無制限に利用可能だった。
MCOプランでは、SGLT2阻害薬で67%、GLP-1 RAで48%、両方で47%、DPP-4阻害薬で75%が無制限に利用可能だった。
MCOプラン加入者における薬剤のアクセスには州ごとに大きな差があり、たとえばSGLT2阻害薬のアクセス率は24~100%、GLP-1 RAでは0~99%だった。
主にMCOプランでの制限により、推定で約25%(1.33~2.17百万人)がSGLT2阻害薬へのアクセスに制限があり、約40%(2.12~3.45百万人)がGLP-1 RAに制限があった。DPP-4阻害薬でも22%(1.17~1.90百万人)が制限対象だった。
2020年から2024年にかけて利用可能性は増加したが、GLP-1 RAのMCOプランでの利用可能性は2022年以降60%未満で停滞している。チルゼパチドはほぼすべてのプランで利用制限されていた。

限界:糖尿病加入者数は推定値であり、prior authorization(事前承認制度)の妥当性までは評価していない。

結論多くのMedicaid加入者は、特にGLP-1 RAにおいてアクセス制限を受けており、州ごとの格差も大きい。医薬品費用とのバランスを取りながら、フォーミュラリ設計を活用してアクセスを改善する余地がある。

引用文献

Availability of Cardioprotective Medications for Type 2 Diabetes in the Medicaid Program
Anil N. Makam, Logan Bailey, Nigel Anderson, et al. PMID: 40258281 DOI: 10.7326/ANNALS-24-01449
Ann Intern Med. 2025 Apr 22.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40258281/

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