「エビデンスの階層」は時代遅れ?複雑な医療にこそ必要な新しいモデルとは?

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医療の意思決定を支える“証拠”はどう評価されるべきか?

近年、医療や政策において「エビデンスに基づく医療(Evidence-Based Medicine:EBM)」の重要性が強調されています。EBMの中核となるのが、治療や介入の効果を検証する研究デザインの“信頼性の階層(エビデンスのピラミッド)”です。

出典:Wikipedia. File:Hierarchy of Evidence.png┃Wikimedia Commons

この階層では、下位に「症例報告」や「観察研究」、上位に「ランダム化比較試験(RCT)」や「メタアナリシス」が位置づけられています。とりわけ、プラセボ対照・盲検・RCTは、最もバイアスが排除された「ゴールドスタンダード」とされています。

しかし…「エビデンスの階層」は万能か?

今回ご紹介する論文では「エビデンスのヒエラルキー」は薬物治療などの単一介入に特化したモデルであり、外科治療や理学療法、伝統医療・補完代替医療(CAM)といった“複雑な介入”には適さないと批判しています。

RCTが優れているのは「内的妥当性(バイアス除去)」においてであり、実際の臨床現場への適用可能性(外的妥当性)には限界があるという本質的な問題があります。

複雑な介入にこそ「循環モデル」を

著者らはこの問題に対し、新たなエビデンスの枠組みとして「サーキュラーモデル(循環型モデル)」を提案しています。

✅ サーキュラーモデルの特徴:

  • 複数の研究デザイン(RCT、観察研究、質的研究など)を対等に活用
  • 各方法論の長所と短所を補完的に組み合わせる
  • 現場の意思決定を支える「実用的で、なおかつ厳密な証拠」の構築
  • ヘルスシステム改革や医療技術評価(HTA)にも有用

このアプローチは、EBMの「階層主義」にとらわれず、現実の複雑性に即した柔軟かつ包括的な意思決定を支援する可能性があります。

コメント

Evidence-based Medicine(EBM)の実践において、薬物治療の効果と患者転帰との関連性、とりわけ因果関係の検証が求められる背景があります。一方で、研究デザインに優れる”質の高い”研究では、目の前の患者像とはかけ離れている場合もあることから、研究結果をそのまま適用できないケースは少なくありません。

そもそも、各々の研究デザインは、倫理的観点や他の研究デザインから得られた結果を補強するという観点から選択されるものです。今回の論文は、ランダム化比較試験やメタ解析の結果を重要視するという風潮に一石を投じるものと考えます。

目の前の患者にとって何が最善なのか、考え続けることが肝要なのかもしれません。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 従来のエビデンス階層モデルは、単純な介入評価には有効だが、複雑な医療介入には限界がある。著者は、複数の手法を統合する「循環モデル」を提案し、より実践的かつ包括的なエビデンスの在り方を提示した。

根拠となった試験の抄録

背景:医療介入を評価する考え方として、より厳密なエビデンスを生み出すための方法論の階層が存在するとされている。この階層の基礎には、症例報告や後ろ向き・前向きの症例集積研究があり、それに続いて、非ランダム化コントロール群を用いたコホート研究、オープンラベルのランダム化試験(RCT)、最も内的妥当性の高い盲検化・プラセボ対照RCTが位置づけられている。厳密なRCTはバイアスを排除し、エビデンスの基盤を形成する。これに基づいてメタアナリシスやシステマティックレビューが行われている。この階層構造は、薬理学的治療をモデルにしており、複雑な介入(治療、鍼、手術など)にも一般化されている。

議論:この階層モデルは、たとえば規制目的や新規医薬品の評価など、限定された有効性評価には有用だが、理学療法、手術、補完代替医療(CAM)といった複雑な介入の評価には不適切である。
この背景には、「内的妥当性(バイアスの排除)」と「外的妥当性(一般化可能性)」の間にある本質的な緊張関係がある。

結論:「エビデンスの階層」ではなく、サーキュラーモデル(循環型モデル)を提案する。このモデルでは、複数の手法を活用し、それぞれの長所と短所を補完することで、実用的かつ厳密なエビデンスが得られ、臨床・医療制度改革・医療技術評価(HTA)に役立つと考えられる。

引用文献

Circular instead of hierarchical: methodological principles for the evaluation of complex interventions
Harald Walach et al. PMID: 16796762 PMCID: PMC1540434 DOI: 10.1186/1471-2288-6-29
BMC Med Res Methodol. 2006 Jun 24:6:29. doi: 10.1186/1471-2288-6-29.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16796762/

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