神経を“作る”時代へ:再生医療がパーキンソン病に挑む
パーキンソン病は、ドーパミン神経の脱落により運動障害を引き起こす神経変性疾患です。これまで薬物療法が中心でしたが、病気の進行を止めることはできませんでした。胎児組織を使った細胞移植治療は一定の成果を上げたものの、倫理的・技術的な問題が残り、実用化には至っていません。
その代替手段として登場したのが、人工多能性幹(iPS)細胞由来の神経前駆細胞です。
そこで今回は、世界で初めてiPS細胞から分化させたドーパミン前駆細胞をパーキンソン病患者に移植し、安全性と有効性を評価した臨床試験の結果をご紹介します。
本試験は、日本・京都大学病院で行われた第I/II相試験です。
試験結果から明らかになったことは?
試験概要
項目 | 内容 |
---|---|
試験デザイン | 第I/II相 臨床試験(京都大学病院) |
対象 | パーキンソン病患者 7名(年齢 50~69歳) |
介入 | 両側の線条体へiPS細胞由来のドーパミン前駆細胞を移植 |
主要評価項目 | 安全性、有害事象の有無 |
副次評価項目 | 運動症状の変化、ドーパミン産生の評価(18F-DOPA PET) |
観察期間 | 24か月 |
安全性と有害事象
- 重篤な有害事象なし
- 軽度〜中等度の有害事象:73件
- MRIで移植細胞の過剰増殖(腫瘍形成)なし
有効性(6人が評価対象)
- MDS-UPDRS Part III OFFスコア:平均改善9.5点(20.4%)
- MDS-UPDRS Part III ONスコア:平均改善4.3点(35.7%)
- Hoehn-Yahr重症度分類:4人が改善
- 18F-DOPA PETにて、被殻でのドーパミン取り込み率(Ki値)が平均44.7%上昇(高用量群ほど大きい増加)
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パーキンソン病(パーキンソン氏病)の根治療法はなく、ドパミン定期的な補充などの代替療法が主でした。近年、iPS細胞を用いた新たな治療アプローチが提唱されており、検証フェーズに入っています。
さて、日本で行われた第I/II相試験の結果、パーキンソン病患者の両側の線条体へiPS細胞由来のドーパミン前駆細胞を移植したところ、2年間生着し、ドーパミンが生体内で産生されることが明らかとなりました。さらに安全性面において重篤な有害事象は報告されませんでした。
具体的には、運動症状の一部改善や、画像上のドーパミン産生増加も確認されており、再生医療がパーキンソン病における新たな選択肢となる可能性が示唆されたことになります。
一方で、有効性に個人差があり、用量反応性や長期効果、免疫抑制の影響など、課題も明らかです。今後は、より大規模な第III相試験や長期追跡を通じて、実用化に向けた検証が進むことが期待されます。
続報に期待。

✅まとめ✅
根拠となった試験の抄録
背景:パーキンソン病(PD)は、ドーパミン神経の喪失によって運動症状を引き起こす。
初期の胎児組織を用いた細胞療法では一定の有望な成果が得られたが、合併症や倫理的問題があった。多能性幹(PS)細胞は、より安全かつ有効な治療法開発のための有望な代替手段として注目されている。
方法:本第I/II相試験では、京都大学病院にて、50~69歳の7名の患者に対し、iPS細胞由来のドーパミン前駆細胞を両側脳内へ移植した。
主要評価項目は、安全性と有害事象、副次評価項目は運動症状の変化とドーパミン産生量であり、24か月間にわたって評価された。
結果:重篤な有害事象は発生せず、軽度から中等度の有害事象が73件認められた。抗パーキンソン病薬の用量は、治療的判断により一部変更され、ジスキネジアの増加がみられた。MRI画像では、移植細胞の過剰増殖は認められなかった。
有効性評価の対象となった6人のうち、4人でMDS-UPDRS Part III OFFスコアが改善、5人でONスコアが改善した。全体平均では、OFFスコアで9.5点(20.4%)、ONスコアで4.3点(35.7%)の改善が見られた。また、Hoehn-Yahrステージは4人で改善した。
ドーパミン合成を反映する18F-DOPA取り込み(Ki値)は、被殻で44.7%増加し、高用量群でより大きな変化が見られた。その他の評価項目は大きな変化を示さなかった。
結論:この試験(jRCT2090220384)は、iPS細胞由来のドーパミン前駆細胞が生着し、ドーパミンを産生し、腫瘍を形成しないことを示し、安全性および臨床的な有益性の可能性を支持する結果となった。
引用文献
Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson’s disease
Nobukatsu Sawamoto et al. PMID: 40240591 DOI: 10.1038/s41586-025-08700-0
Nature. 2025 Apr 16. doi: 10.1038/s41586-025-08700-0. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40240591/
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