CKD患者におけるGLP-1受容体作動薬の有用性は?
グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬は、糖尿病患者における心臓および腎臓の転帰を改善しますが、推算糸球体濾過量(eGFR)が低下している患者における有効性は不明です。
そこで今回は、慢性腎臓病(CKD)患者において、GLP-1受容体作動薬が腎臓および心血管(CV)の転帰に及ぼす影響を評価したメタ解析の結果をご紹介します。
本研究は、2024年5月25日までに報告されたランダム化比較試験(RCT)の系統的レビューおよびメタ解析です。ベースラインのeGFRが60mL/min/1.73m2未満のRCT参加の成人が対象となりました。
解析の対象は、ベースラインeGFRが60mL/min/1.73m2未満のCKD患者を含む、腎機能の程度が様々な成人(18歳以上)を含むRCTで、複合腎アウトカム、全死亡、または複合CV疾患アウトカムに関してGLP-1受容体作動薬と対照治療を比較した試験が対象となりました。スクリーニングされた212試験の中から、ベースラインeGFR<60mL/min/1.73m2の参加者を含む12試験が組み入れられました。
2人の独立した研究者がデータを抽出しました。ランダム効果モデルにより、複合腎アウトカム、全死亡、複合CVアウトカムのプールオッズ比(OR)が推定されました。エビデンスの確実性はGRADEシステムにより評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
ベースラインeGFR<60mL/min/1.73m2のRCT参加者17,996人が対象となりました。
GLP-1受容体作動薬 vs. 対照治療 | オッズ比 OR(95%CI) |
複合腎アウトカム | OR 0.85(0.77~0.94) P=0.001、I2<0.01% |
全死亡リスク | OR 0.77(0.60~0.98) P=0.03、I2=71.6% |
複合CVアウトカム | OR 0.86(0.74~0.99) P=0.03、I2=40.3% |
GLP-1受容体作動薬は、複合腎アウトカムのリスク低下と有意に関連しており(OR 0.85、95%CI 0.77~0.94;P=0.001)、異質性は低いことが示されました(I2<0.01%)。
GLP-1受容体作動薬はまた、30%以上のeGFR低下(OR 0.78;P=0.004)、40%以上の低下(OR 0.76;P=0.01)、50%以上の低下(OR 0.72;P<0.001)のリスク低下と関連していました。
全死亡リスクもGLP-1受容体作動薬群で低いことが示されましたが(OR 0.77、95%CI 0.60~0.98、P=0.03)、異質性が高いことが示されました(I2=71.6%)。
複合CVアウトカムもGLP-1受容体作動薬使用群で低いことが示されました(OR 0.86、95%CI 0.74~0.99、P=0.03; I2=40.3%)。Human GLP-1 backbone薬に限定した感度分析では、ベネフィットの向上が示されました。
コメント
CKD患者におけるGLP-1受容体作動薬の有用性検証についてはデータが限られています。
さて、ランダム化比較試験のシステマティックレビュー&メタ解析の結果、GLP-1受容体作動薬は、さまざまな臨床試験に登録されたCKD患者において、腎臓およびCVの転帰、生存率を改善しました。
ただし、腎臓アウトカムの定義に一貫性がないこと、ほとんどの研究で糖尿病患者集団に焦点が当てられていること、出版バイアスの可能性があることなど、いくつかの制限があります。
アウトカムによっては異質性が高いことから、更なる検証が求められます。とはいえ、複合腎アウトカムについては一定の効果が得られそうです。CKD患者かつ腎関連アウトカムの発生リスクが高い患者においてGLP-1受容体作動薬の使用を考慮してもよいのかもしれません。
CKD患者における治療薬優先順位、選定など既存の腎関連薬との比較検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験のシステマティックレビュー&メタ解析の結果、GLP-1受容体作動薬は、さまざまな臨床試験に登録されたCKD患者において、腎臓およびCVの転帰、生存率を改善した。
根拠となった試験の抄録
理由と目的:グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬は、糖尿病患者における心臓および腎臓の転帰を改善するが、推算糸球体濾過量(eGFR)が低下している患者における有効性は不明である。本研究では、慢性腎臓病(CKD)患者において、GLP-1受容体作動薬が腎臓および心血管(CV)の転帰に及ぼす影響を評価した。
研究デザイン:2024年5月25日までに報告されたランダム化比較試験(RCT)の系統的レビューおよびメタ解析。
試験設定および研究集団:ベースラインのeGFRが60mL/min/1.73m2未満のRCTの成人参加者。
試験の選択基準:ベースラインeGFRが60mL/min/1.73m2未満のCKD患者を含む、腎機能の程度が様々な成人(18歳以上)を含むRCTで、複合腎アウトカム、全死亡、または複合CV疾患アウトカムに関してGLP-1受容体作動薬と対照治療を比較したもの。スクリーニングされた212試験の中から、ベースラインeGFR<60mL/min/1.73m2の参加者を含む12試験が組み入れられた。
データ抽出:2人の独立した研究者がデータを抽出した。
解析方法:ランダム効果モデルを用いて、複合腎アウトカム、全死亡、複合CVアウトカムのプールオッズ比(OR)を推定した。エビデンスの確実性はGRADEシステムを用いて評価した。
結果:ベースラインeGFR<60mL/min/1.73m2のRCT参加者17,996人を対象とした。GLP-1受容体作動薬は、複合腎アウトカムのリスク低下と有意に関連しており(OR 0.85、95%CI 0.77~0.94;P=0.001)、異質性は低かった(I2<0.01%)。GLP-1受容体作動薬はまた、30%以上のeGFR低下(OR 0.78;P=0.004)、40%以上の低下(OR 0.76;P=0.01)、50%以上の低下(OR 0.72;P<0.001)のリスク低下と関連していた。全死亡リスクもGLP-1受容体作動薬群で低かったが(OR 0.77、95%CI 0.60~0.98、P=0.03)、異質性が高かった(I2=71.6%)。複合CVアウトカムもGLP-1受容体作動薬使用群で低かった(OR 0.86、95%CI 0.74~0.99、P=0.03; I2=40.3%)。Human GLP-1 backbone薬*に限定した感度分析では、ベネフィットの向上が示された。
*GLP-1受容体作動薬はアメリカ毒トカゲの唾液腺由来のexendin-4を骨格とする製剤(Exendine-4 backbone)と、ヒトGLP-1を基にしてDPP-4抵抗性あるいは半減期の延長を獲得させた製剤(Human GLP-1 backbone)に大別される。
限界:腎臓のアウトカムの定義に一貫性がないこと、ほとんどの研究で糖尿病患者集団に焦点が当てられていること、出版バイアスの可能性があること。
結論:GLP-1受容体作動薬は、さまざまな臨床試験に登録されたCKD患者において、腎臓およびCVの転帰、生存率を改善した。
登録:PROSPERO登録番号 CRD42023449059
平易な要約:グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体作動薬は体重を減少させ、血糖コントロールを改善する。また、糖尿病患者の心臓と腎臓を保護することも示されている。しかし、これらの知見を慢性腎臓病(CKD)に外挿することは不確実である。この研究では、CKD患者に焦点を当てた臨床試験のデータをメタ解析し、GLP-1受容体作動薬が腎臓病の進行を遅らせ、心臓病、脳卒中、死亡のリスクを低下させる可能性があることを指摘した。これらの知見は、GLP-1受容体作動薬がCKD患者にとって腎臓および心血管に複数の利益をもたらすことを示唆している。
キーワード:心血管転帰、慢性腎臓病、糖尿病、インクレチン、腎不全、主要有害心イベント、死亡率
引用文献
Kidney and Cardiovascular Outcomes Among Patients With CKD Receiving GLP-1 Receptor Agonists: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Trials
Jui-Yi Chen et al. PMID: 39863261 DOI: 10.1053/j.ajkd.2024.11.013
Am J Kidney Dis. 2025 Jan 23:S0272-6386(25)00042-3. doi: 10.1053/j.ajkd.2024.11.013. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39863261/
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