血清脂質と緑内障との関連性は?(前向きコホート研究; Br J Ophthalmol. 2025)

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脂質により緑内障リスクが異なる?

緑内障の発症メカニズムは完全には解明されていないものの、眼圧の上昇が視神経を損傷し、進行性の視野欠損を引き起こすことが主な要因とされています。しかし、日本人に多い「正常眼圧緑内障」では、眼圧が正常範囲内でも発症するため、視神経の脆弱性や血流障害、酸化ストレス、免疫異常などが関与すると考えられています。さらに、遺伝的要因としてMETTL23遺伝子の関与も報告されており、エピジェネティクスの異常が発症に関与する可能性があります。これらの要因が複合的に影響し、視神経が障害を受けることで緑内障が発症すると考えられています。

また、脂質代謝に関与するABCA1遺伝子の機能異常が、眼圧の上昇とは無関係に緑内障の発症に寄与する可能性が示唆されています。​これは、アストロサイトと呼ばれるグリア細胞の機能不全が視神経の障害を引き起こすことが関与していると考えられています。しかし、各脂質と緑内障発症リスクとの関連性については明らかにされていません。

そこで今回は、一般的に用いられている血清脂質測定値[高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)、総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)]と緑内障との関連を検討することを目的に実施されたコホート研究の結果をご紹介します。

この前向きコホート研究ではUK Biobankの参加者400,229人が対象となりました。血清脂質と緑内障の関連を調べるために、Cox回帰モデル、制限3次スプラインモデル、多遺伝子リスクスコアが用いられました。

試験結果から明らかになったことは?

平均追跡期間14.44年の間に6,868人(1.72%)が緑内障を発症しました。

ハザード比 HR(95%CI)
HDL-Cの1SD上昇HR 1.05(1.02〜1.08
p=0.001
LDL-Cの1SD上昇HR 0.96(0.94~0.99
p=0.005
TCの1SD上昇HR 0.97(0.94~1.00
p=0.037
TGの1SD上昇HR 0.96(0.94~0.99
p=0.008

多変量Cox回帰の結果、HDL-Cの高値は緑内障リスクの上昇と関連していました(HDL-Cの1SD上昇に対するHR 1.05、95%CI 1.02〜1.08、p=0.001)。一方、LDL-C(HR 0.96、95%CI 0.94~0.99、p=0.005)、TC(HR 0.97、95%CI 0.94~1.00、p=0.037)、TG(HR 0.96、95%CI 0.94~0.99、p=0.008)の上昇はすべてリスク低下と関連していました。

血清脂質の多遺伝子リスクスコアと緑内障との関連を検討した解析では、HDL-Cの遺伝的リスクが1SD増加するごとに、緑内障のハザードが5%増加することが示されました(HR 1.05、95%CI 1.00~1.11、p=0.031)。

しかし、LDL-C、TC、TGの多遺伝子リスクスコアは緑内障との有意な関連を示しませんでした。

コメント

脂質の上昇が緑内障発症リスクと関連している可能性が示唆されていますが、実臨床における検証は充分に行われていません。

さて、英国の前向きコホート研究の結果、HDL-Cの上昇は緑内障のリスク上昇と関連する一方で、LDL-C、TC、TG値の上昇は緑内障のリスク低下と関連することが示されました。

ただし、本研究はコホート研究であり、未知の交絡因子を調整しきれていません。そもそも緑内障の発症メカニズムは完全に解明されておらず、さまざまな要因が関連することから、脂質そのものの影響により緑内障が発症するのか、他の要因と相まって発症リスクが増加するのか不明です。

更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 英国の前向きコホート研究の結果、HDL-Cの上昇は緑内障のリスク上昇と関連するが、LDL-C、TC、TG値の上昇は緑内障のリスク低下と関連することが示された。

根拠となった試験の抄録

目的:一般的に用いられている血清脂質測定値[高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)、総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)]と緑内障との関連を検討する。

方法:この前向きコホート研究はUK Biobankの400,229人の参加者を対象とした。血清脂質と緑内障の関連を調べるために、Cox回帰モデル、制限3次スプラインモデル、多遺伝子リスクスコアを用いた。

結果:平均追跡期間14.44年の間に6,868人(1.72%)が緑内障を発症した。多変量Cox回帰の結果、HDL-Cの高値は緑内障リスクの上昇と関連し(HDL-Cの1SD上昇に対するHR 1.05、95%CI 1.02〜1.08、p=0.001)、LDL-C(HR 0.96、95%CI 0.94~0.99、p=0.005)、TC(HR 0.97、95%CI 0.94~1.00、p=0.037)、TG(HR 0.96、95%CI 0.94~0.99、p=0.008)の上昇はすべてリスク低下と関連していた。血清脂質の多遺伝子リスクスコアと緑内障との関連を検討した解析では、HDL-Cの遺伝的リスクが1SD増加するごとに、緑内障のハザードが5%増加することが示された(HR 1.05、95%CI 1.00~1.11、p=0.031)。しかし、LDL-C、TC、TGの多遺伝子リスクスコアは緑内障との有意な関連を示さなかった。

結論:HDL-Cの上昇は緑内障のリスク上昇と関連するが、LDL-C、TC、TG値の上昇は緑内障のリスク低下と関連する。本研究は、脂質プロファイルと緑内障の関連についての理解を深めるものであり、緑内障管理における脂質に焦点をあてた治療法のさらなる検討を保証するものである。

キーワード:緑内障;前向き研究;危険因子

引用文献

Associations between serum lipids and glaucoma: a cohort study of 400 229 UK Biobank participants
Yiyuan Ma et al. PMID: 39904580 DOI: 10.1136/bjo-2024-326062
Br J Ophthalmol. 2025 Feb 4:bjo-2024-326062. doi: 10.1136/bjo-2024-326062. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39904580/

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