80歳以上の心不全患者におけるNa-グルコース共輸送体2阻害薬の有効性と安全性(後向き研究; ESC Heart Fail. 2025)

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高齢者におけるSGLT-2阻害薬の効果は?

ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬(SGLT2i)は心血管死や心不全による入院(HFH)の減少に有効であることが示されています。しかし、ランダム化比較試験には組み込まれていない超低体重や低栄養状態など全身状態の悪い高齢患者におけるSGLT2阻害薬の有効性と安全性はまだ検討されていません。実臨床において、このような高齢患者にSGLT2阻害薬を導入することは非常に難しい判断とされています。

そこで今回は、高齢の心不全患者におけるこれらの薬剤の有効性と安全性を実臨床で検討した単施設の後向き研究の結果をご紹介します。

日本の小倉記念病院において、2018年から2023年の間にHFで入院した80歳以上の患者1,559例を対象に後方視的研究が行われました。そのうち1,326例が非SGLT2i群、233例がSGLT2i群に含まれました。多変量Cox回帰モデルにより、退院後1年間の一次複合アウトカム(全死亡、HFH)と二次安全性複合アウトカム(虚血性脳卒中、尿路感染、脱水)のリスクについて両群間で比較されました。

試験結果から明らかになったことは?

非SGLT2i群SGLT2i群
退院後1年間の一次複合アウトカム
(全死亡、HFH)
47.3%31.6%
P<0.01

複合転帰の1年累積発生率は非SGLT2i群で有意に高いことが示されました(47.3% vs. 31.6%、P<0.01)。

調整後ハザード比 HR
(95%CI)
全死亡調整後HR 0.58
0.39~0.87
P<0.01
HFH調整後HR 0.69
0.52~0.91
P<0.01
二次安全性複合アウトカム
(虚血性脳卒中、尿路感染、脱水)
調整後HR 0.80
0.49~1.29
P=0.36

SGLT2阻害薬は単独で全死亡[調整後ハザード比(HR) 0.58、95%信頼区間(CI)0.39~0.87、P<0.01]およびHFH[調整後HR 0.69、95%CI 0.52~0.91、P<0.01]のリスクを低下させましたが、安全性の複合イベントのリスクは上昇しませんでした(調整後HR 0.80、95%CI 0.49~1.29、P=0.36)。

サブグループ解析では、年齢、糖尿病、肥満度、左室駆出率、臨床的虚弱度スケール、老年栄養リスク指数とSGLT2阻害薬との間に有意な交互作用は認められず、すべての層で一貫して複合アウトカムを減少させました。同様に、SGLT2阻害薬はどの層においても安全性の複合アウトカムを増加させませんでした。

コメント

Na-グルコース共輸送体2(SGLT-2)阻害薬は、糖尿病治療薬として承認されましたが、さまざまな効果を有していることから、心不全や腎臓病に適応拡大しています。加齢に伴い心不全を合併しやすくなりますが、80歳以上の超高齢者における有効性・安全性については充分に検証されていません。

さて、後向き研究の結果、SGLT2阻害薬は80歳以上の患者においても有害事象を増加させることなく、全死亡とHFHのリスクを減少させる可能性が示唆されました。高虚弱、低栄養状態、超低体重など、基本的にSGLT2阻害薬の導入をためらう患者においても、SGLT2阻害薬は有効かつ安全である可能性があることが示されました。

単施設の後向き研究の結果であることから、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。サンプルサイズについても、より大規模な研究の実施が求められます。あわせて、高齢者における患者モニタリング項目の設定、事象発生時の対処方法、治療戦略等の確立が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 後向き研究の結果、SGLT2阻害薬は80歳以上の患者においても有害事象を増加させることなく、全死亡とHFHのリスクを減少させる可能性が示唆された。高虚弱、低栄養状態、超低体重など、基本的にSGLT2阻害薬の導入をためらう患者においても、SGLT2阻害薬は有効かつ安全である可能性がある。

根拠となった試験の抄録

目的:ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬(SGLT2i)は心血管死や心不全による入院(HFH)の減少に有効であることが示されている。しかし、ランダム化比較試験には組み込まれていない超低体重や低栄養状態など全身状態の悪い高齢患者におけるSGLT2阻害薬の有効性と安全性はまだ検討されていない。実臨床において、このような高齢患者にSGLT2阻害薬を導入することは非常に難しい判断である。そこでわれわれは、高齢の心不全患者におけるこれらの薬剤の有効性と安全性を実臨床で検討した。

方法:小倉記念病院において、2018年から2023年の間にHFで入院した80歳以上の患者1,559例を対象に後方視的研究を行った。そのうち1,326例が非SGLT2i群、233例がSGLT2i群に含まれた。多変量Cox回帰モデルを用いて、退院後1年間の一次複合アウトカム(全死亡、HFH)と二次安全性複合アウトカム(虚血性脳卒中、尿路感染、脱水)のリスクを両群間で比較した。

結果:複合転帰の1年累積発生率は非SGLT2i群で有意に高かった(47.3% vs. 31.6%、P<0.01)。SGLT2阻害薬は単独で全死亡[調整後ハザード比(HR) 0.58、95%信頼区間(CI)0.39~0.87、P<0.01]およびHFH[調整後HR 0.69、95%CI 0.52~0.91、P<0.01]のリスクを低下させたが、安全性の複合イベントのリスクは上昇しなかった(調整後HR 0.80、95%CI 0.49~1.29、P=0.36)。サブグループ解析では、年齢、糖尿病、肥満度、左室駆出率、臨床的虚弱度スケール、老年栄養リスク指数とSGLT2阻害薬との間に有意な相互作用は認められず、すべての層で一貫して複合アウトカムを減少させた。同様に、SGLT2阻害薬はどの層においても安全性の複合アウトカムを増加させなかった。

結論:SGLT2阻害薬は80歳以上の患者においても有害事象を増加させることなく、全死亡とHFHのリスクを減少させる。高虚弱、低栄養状態、超低体重など、基本的にSGLT2阻害薬の導入をためらう患者においても、SGLT2阻害薬は有効かつ安全である可能性がある。

キーワード:全死亡;高齢者;極低体重;虚弱;心不全;Na-グルコース共輸送体2阻害薬

引用文献

The efficacy and safety of sodium-glucose cotransporter 2 inhibitors in patients aged over 80 years with heart failure
Kenji Nakano et al. PMID: 39829330 DOI: 10.1002/ehf2.15218
ESC Heart Fail. 2025 Jan 20. doi: 10.1002/ehf2.15218. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39829330/

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