重症患者におけるプロトンポンプ阻害薬とQT間隔延長の関連性はどのくらい?(データベース研究; Cardiovasc Drugs Ther. 2024)

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プロトンポンプ阻害薬とQT延長との関連性は?

薬剤性QT間隔延長は、生命を脅かす多形性心室頻拍(torsade de pointes)に関連することが報告されています。プロトンポンプ阻害薬(PPI)は入院患者に広く処方されており、PPIによるQT間隔延長とtorsade de pointesが報告されています。しかし、PPIそのものがQT間隔延長を引き起こすのかについては充分に検証されていません。

そこで今回は、重症患者におけるPPI治療とQT間隔延長との関連を明らかにするために実施されたデータベース研究の結果をご紹介します。

本研究では、Medical Information Mart for Intensive Care IIIデータベース(MIMIC-III)から心電図(ECG)報告を得た患者が対象となりました。18歳未満の患者、ベースラインの検査記録がない患者、集中治療室(ICU)入室前にQT間隔延長がみられた患者は除外されました。

エンドポイントは心電図で報告されたQT間隔延長の診断でした。

試験結果から明らかになったことは?

本研究には24,512例のICU患者が含まれた。そのうち11,327例がPPI、4,181例がヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)、6,351例が酸抑制療法なし(non-acid suppression therapy, non-AST)でした。

QT間隔延長のリスク
オッズ比(95%CI)
PPI vs. H2RAOR 1.66(1.36~2.03
PPI vs. non-ASTOR 1.54(1.31~1.82
H2RA vs. non-ASTOR 0.93(0.73~1.17

人口統計学、電解質、併存疾患および投薬で調整した結果、PPIはH2RA(OR 1.66、95%CI 1.36~2.03)およびnon-AST(OR 1.54、95%CI 1.31~1.82)と比較してQT間隔延長のリスクが高いことが示されましたが、H2RAとnon-AST(OR 0.93、95%CI 0.73~1.17)では有意差はありませんでした。

傾向スコアマッチ集団においても、結果は一貫していました。

QT間隔延長のリスク
オッズ比(95%CI)
PantoprazoleOR 2.14(1.52~3.03
ランソプラゾールOR 1.80(1.18~2.76

Pantoprazole(OR 2.14、95%CI 1.52~3.03)及びランソプラゾール(OR 1.80、95%CI 1.18~2.76)は、オメプラゾールよりも高いQT延長リスクを示しました。

いくつかの薬剤は、PPIと併用した場合に高いQT延長リスクを示しました。

コメント

PPIとQT延長との関連性が示唆されていますが、実臨床における検証は充分ではありません。

さて、データベース研究の結果、ICU患者において、PPIの処方とQT間隔延長のリスク増加との関連は、既知のQT延長因子とは無関係であり、パントプラゾール(日本では未承認)とランソプラゾールはオメプラゾールと比較してリスクが高いことが示されました。PPIと他のQT延長薬の併用は避けた方が良いのかもしれません。

PPI使用そのものが、H2受容体拮抗薬や酸抑制薬非使用者と比較して、QT延長を引き起こす可能性が示されています。

日本でも同様の研究結果が示されており、ランソプラゾールの結果は一致しています。再現性の確認も含めて、更なる検証が求められるところですが、他にもPPIが承認販売されていることから、副作用としてQT延長を有する薬剤との併用において、ランソプラゾールを優先して使用するケースは少ないでしょう。

続報に期待。

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✅まとめ✅ データベース研究の結果、ICU患者において、PPIの処方とQT間隔延長のリスク増加との関連は、既知のQT延長因子とは無関係であり、パントプラゾールとランソプラゾールはオメプラゾールと比較してリスクが高かった。PPIと他のQT延長薬の併用は避けるべきである。

根拠となった試験の抄録

はじめに:薬剤性QT間隔延長は、生命を脅かす多形性心室頻拍(torsade de pointes)に関連することが報告されている。プロトンポンプ阻害薬(PPI)は入院患者に広く処方されており、PPIによるQT間隔延長とtorsade de pointesが報告されている。我々は、重症患者におけるPPI治療とQT間隔延長との関連を明らかにするために研究を行った。

方法:本研究では、Medical Information Mart for Intensive Care IIIデータベース(MIMIC-III)から心電図(ECG)報告を得た患者を対象とした。18歳未満の患者、ベースラインの検査記録がない患者、集中治療室(ICU)入室前にQT間隔延長がみられた患者は除外した。
エンドポイントは心電図で報告されたQT間隔延長の診断とした。

結果:本研究には24,512例のICU患者が含まれた。そのうち11,327例がPPI、4,181例がヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)、6,351例が酸抑制療法なし(non-acid suppression therapy, non-AST)であった。人口統計学、電解質、併存疾患および投薬で調整した結果、PPIはH2RA(OR 1.66、95%CI 1.36~2.03)およびnon-AST(OR 1.54、95%CI 1.31~1.82)と比較してQT間隔延長のリスクが高かったが、H2RAとnon-AST(OR 0.93、95%CI 0.73~1.17)では有意差はなかった。傾向スコアマッチ集団においても、結果は一貫していた。Pantoprazole(OR 2.14、95%CI 1.52~3.03)及びランソプラゾール(OR 1.80、95%CI 1.18~2.76)は、オメプラゾールよりも高いQT延長リスクを示した。いくつかの薬剤は、PPIと併用した場合に高いQT延長リスクを示した。

結論:ICU患者において、PPIの処方とQT間隔延長のリスク増加との関連は、既知のQT延長因子とは無関係であり、パントプラゾールとランソプラゾールはオメプラゾールと比較してリスクが高かった。PPIと他のQT延長薬の併用は避けるべきである。

キーワード:心電図;ヒスタミン2受容体拮抗薬;集中治療室;プロトンポンプ阻害薬;QT間隔延長

引用文献

The Association of Proton Pump Inhibitors and QT Interval Prolongation in Critically Ill Patients
Weiguo Fan et al. PMID: 36625987 DOI: 10.1007/s10557-023-07425-4
Cardiovasc Drugs Ther. 2024 Jun;38(3):517-525. doi: 10.1007/s10557-023-07425-4. Epub 2023 Jan 10.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36625987/

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