アメナメビルと脳症との関連性は?
抗ヘルペスウイルス薬による脳症は帯状疱疹治療を複雑にする可能性があります。しかし、最近開発された抗ヘルペスウイルス薬であるアメナメビル(商品名:アメナリーフ)と脳症発症との関連は不明です。アメナメビル誘発脳症の特徴を明らかにすることは、帯状疱疹の治療における患者の転帰を改善するために不可欠です。
そこで今回は、アメナメビル治療と脳症の関連を明らかにし、日本有害事象報告データベース(JADER)を用いた不均衡性解析によりアメナメビル誘発脳症のリスク因子を明らかにすることを目的に実施された後向き研究(シグナル検出)の結果をご紹介します。
JADERデータベースの匿名化データを用いた後ろ向き観察研究が行われました。脳症の定義は、「非感染性脳症/せん妄」に特化した「規制活動クエリ用標準医学用語集(the Standardized Medical Dictionary for Regulatory Activities Queries, MedDRA)」に従いました。
不均衡分析を用い報告オッズ比(ROR)と95%信頼区間(CI)が算出され、アメナメビルと脳症の関連について評価されました。多変量ロジスティック回帰では、潜在的危険因子として年齢、性別、慢性腎臓病、チトクロームP450 3A阻害薬の使用が考慮されました。
試験結果から明らかになったことは?
713,316例のうち、246例にアメナメビルが処方されました。これらの患者における脳症発症の中央値は3日でした。
報告オッズ比 ROR (95%CI) | |
脳症の不均衡性 | ROR 3.44(2.48~4.78) |
年齢70歳以上 | ROR 7.63(2.25~25.9) |
脳症の不均衡性は、アメナメビルによる治療を受けた患者で観察されました(ROR 3.44、95%CI 2.48~4.78)。
さらに、多変量ロジスティック回帰分析により、70歳以上の年齢がアメナメビル誘発脳症と関連することが示唆されました(ROR 7.63、95%CI 2.25~25.9)。
コメント
帯状疱疹は皮疹だけでなく神経障害を引き起こすことがあることから、初期治療が重要です。治療の基本は抗ウイルス薬の7日間投与を基本としていますが、その多くは腎機能低下に伴い用量調節が必要な薬剤であり、特に高齢者における治療では副作用リスクの要因となります。比較的新しい抗ウイルスであるアメナメビルは、腎機能によらず使用できることから、特に高齢者の帯状疱疹治療に重宝されています。一方、動物実験の結果から髄液移行性が低いことが示唆され、ヒトでも同様と考えられており、帯状疱疹に合併する髄膜炎には適していない可能性があります。帯状疱疹性髄膜脳炎のうち24%に皮疹がみられず、髄膜脳炎の合併率は約12%と報告されています。特に眼部帯状疱疹は脳血管炎を合併しやすく、頻度が高いと考えられます。したがって、帯状疱疹におけるアメナメビル使用は、髄膜炎・脳症リスクを増加させる可能があります。
さて、JADERを用いたシグナル検出の結果、特に70歳以上の患者において、アメナメビル投与が脳症と関連する可能性があることが示唆されました。ただし、抄録で示されているのはRORの結果であり、PRRなどの他の指標については示されていません。また、あくまでもシグナル(signal)が示されたにすぎず、本研究結果のみをもってアメナメビルと脳症リスク増加との関連性が示されたことにはなりません。再現性の確認も含めて、リスク評価の更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ JADERを用いたシグナル検出の結果、特に70歳以上の患者において、アメナメビル投与が脳症と関連する可能性があることが示唆された。リスク評価について更なる検証が求められる。
根拠となった試験の抄録
はじめに:抗ヘルペスウイルス薬による脳症は帯状疱疹治療を複雑にする可能性がある。しかし、最近開発された抗ヘルペスウイルス薬であるアメナメビルと脳症発症との関連は不明である。アメナメビル誘発脳症の特徴を明らかにすることは、帯状疱疹の治療における患者の転帰を改善するために不可欠である。本研究の目的は、アメナメビル治療と脳症の関連を明らかにし、日本有害事象報告データベース(JADER)を用いた不均衡性解析によりアメナメビル誘発脳症のリスク因子を明らかにすることである。
方法:JADERデータベースの匿名化データを用いて後ろ向き観察研究を行った。脳症の定義は、「非感染性脳症/せん妄」に特化した「規制活動クエリ用標準医学用語集(the Standardized Medical Dictionary for Regulatory Activities Queries, MedDRA)」に従った。非比例分析を用いて報告オッズ比(ROR)と95%信頼区間(CI)を算出し、アメナメビルと脳症の関連を評価した。多変量ロジスティック回帰では、潜在的危険因子として年齢、性別、慢性腎臓病、チトクロームP450 3A阻害薬の使用を考慮した。
結果:713,316例のうち、246例にアメナメビルが処方された。これらの患者における脳症発症の中央値は3日であった。脳症の非比例性は、アメナメビルによる治療を受けた患者で観察された(ROR 3.44、95%CI 2.48~4.78)。さらに、多変量ロジスティック回帰分析により、70歳以上の年齢がアメナメビル誘発脳症と関連することが示唆された(ROR 7.63、95%CI 2.25~25.9)。
結論:これらの結果は、特に70歳以上の患者において、アメナメビル投与が脳症と関連する可能性があることを示唆している。医療従事者は、重篤な中枢神経系合併症を予防するために、特に高齢患者においてこの潜在的リスクを認識すべきである。
キーワード:有害事象;アメナメビル;脳症;ファーマコビジランス
引用文献
Disproportionality analysis of amenamevir-induced encephalopathy using the Japanese adverse drug event report database
Tomoyuki Yamada et al. PMID: 39276861 DOI: 10.1016/j.jiac.2024.09.008
J Infect Chemother. 2024 Sep 12:S1341-321X(24)00259-9. doi: 10.1016/j.jiac.2024.09.008. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39276861/
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