アナストロゾールは肺高血圧症を抑制できるのか?
アナストロゾールによるアロマターゼ阻害は、実験モデルにおいて肺高血圧症を抑制することが報告されています。しかし、ヒトでの検証は充分ではありません。
そこで今回は、アナストロゾールが肺動脈性肺高血圧症(PAH)において6ヵ月後の6分間歩行距離(6MWD)を改善するかどうかを明らかにすることを目的としたランダム化比較試験の結果(PHANTOM試験)をご紹介します。
7施設でPAH患者を対象にアナストロゾールの二重盲検ランダム化プラセボ対照第II相臨床試験が行われました。PAHの閉経後女性84人とPAHの男性84人が、1:1の割合で、アナストロゾール1mgまたはプラセボを1日1回経口投与する群にランダムに割り付けられました。被験者および試験スタッフはすべて盲検化されました。
本試験の主要アウトカムは、6ヵ月後の6MWDのベースラインからの変化でした。Intention-to-treat解析により、性別とベースラインの6MWDで調整した線形回帰モデルにより、アナストロゾールの治療効果が推定されました。追跡不能を10%と仮定すると、6MWDの変化22mの差を検出する検出力は80%と予想されました。
試験結果から明らかになったことは?
被験者41人がプラセボ群に、43人がアナストロゾール群にランダムに割り付けられ、全員が割り付けられた治療を受けました。プラセボ群で3人、アナストロゾール群で2人が試験を中止しました。
プラセボ補正後の治療効果 (95%CI) | |
6ヵ月後の6MWDの変化 | -7.9m (-32.7 〜 16.9) P=0.53 |
6ヵ月後の6MWDの変化に有意差はありませんでした(プラセボ補正後の治療効果 -7.9m、95%信頼区間 -32.7 〜 16.9;P=0.53)。
有害事象も両群間に差はありませんでした。
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アロマターゼはアンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素であり、その阻害薬はエストロゲンの生成を抑制します。近年、内因性エストロゲンが肺高血圧症の病因の一つとされる報告が増えており、肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対するエストロゲン阻害薬の治療可能性が検討されています。具体的には、アロマターゼ阻害薬であるアナストロゾールの効果が研究されています。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、肺動脈性肺高血圧症(PAH)の閉経後女性およびPAH男性において、アナストロゾールはプラセボと比較して6分間歩行距離(6MWD)に有意な効果を示せませんでした。
試験期間、症例数、アウトカムなどの制限があるため、本試験結果のみでアロマターゼ阻害薬はPAHに無効とは結論付けられません。
続報に期待。
✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、肺動脈性肺高血圧症(PAH)の閉経後女性およびPAH男性において、アナストロゾールはプラセボと比較して6MWDに有意な効果を示さなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:アナストロゾールによるアロマターゼ阻害は、実験モデルにおいて肺高血圧症を抑制する。
目的:我々は、アナストロゾールが肺動脈性肺高血圧症(PAH)において6ヵ月後の6分間歩行距離(6MWD)を改善するかどうかを明らかにすることを目的とした。
方法:7施設でPAH患者を対象にアナストロゾールの二重盲検ランダム化プラセボ対照第II相臨床試験を行った。PAHの閉経後女性84人とPAHの男性84人を、1:1の割合で、アナストロゾール1mgまたはプラセボを1日1回経口投与する群にランダムに割り付けた。被験者および試験スタッフはすべてマスクされた。
主要アウトカムは、6ヵ月後の6MWDのベースラインからの変化であった。intention-to-treat解析により、性別とベースラインの6MWDで調整した線形回帰モデルを用いてアナストロゾールの治療効果を推定した。追跡不能を10%と仮定すると、6MWDの変化22mの差を検出する検出力は80%と予想された。
測定と主な結果:被験者41人がプラセボ群に、43人がアナストロゾール群にランダムに割り付けられ、全員が割り付けられた治療を受けた。プラセボ群で3人、アナストロゾール群で2人が試験を中止した。6ヵ月後の6MWDの変化に有意差はなかった(プラセボ補正後の治療効果 -7.9m、95%信頼区間 -32.7 〜 16.9;P=0.53)。有害事象も両群間に差はなかった。
結論:閉経後PAH女性およびPAH男性において、アナストロゾールはプラセボと比較して6MWDに有意な効果を示さなかった。アナストロゾールは安全であり、副作用はなかった。
試験登録番号:www.clincialtrials.gov(NCT03229499)
キーワード:アナストロゾール、臨床試験、肺高血圧症、性ホルモン
引用文献
Pulmonary Hypertension and Anastrozole (PHANTOM): A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial
Steven M Kawut et al. PMID: 38747680 PMCID: PMC11544352 (available on 2025-11-01) DOI: 10.1164/rccm.202402-0371OC
Am J Respir Crit Care Med. 2024 Nov 1;210(9):1143-1151. doi: 10.1164/rccm.202402-0371OC.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38747680/
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