発熱を有する感染症患者における解熱薬には何が適しているのか?(ブログ管理者によるレビュー)

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より安全性の高い解熱薬はどれか?

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インフルエンザ感染症は高熱を伴うことが多く、患者負担/社会的負担の軽減のために早急な対策が取られます。

対症療法として解熱鎮痛薬が使用されますが、ライ症候群など薬剤使用に伴うリスクがあることから、慎重な判断が求められます。

今回は、インフルエンザ感染症を例に、発熱患者における解熱鎮痛薬のリスク評価を中心に文献検索を行い、推奨されている解熱薬について調査した結果をご紹介します。

インフルエンザ脳症とライ症候群との違いは?

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インフルエンザ脳症

インフルエンザ脳症は、インフルエンザウイルス感染後に発症する重篤な神経系の合併症で、特に小児で多く見られます。

まだまだ解明されていないことは多いものの、主な原因としては、1) 免疫反応の異常 2)サイトカインストームによる脳の炎症が挙げられ、急激な進行が特徴です。

症状には高熱意識障害けいれん異常行動などがあり、適切な治療が行われなければ後遺症や死亡のリスクが高まります。

治療にはステロイド療法が用いられ、予防にはインフルエンザワクチン接種が有効です。

ライ症候群

ライ症候群はインフルエンザや水痘などのウイルス感染後、ジクロフェナクなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)サリチル酸系薬(アスピリンなど)の使用が引き金となり、脳と肝臓に重篤な障害を引き起こす疾患です。アスピリン脳症とも呼ばれています。テオフィリン脳症との鑑別が求められます。

主に15歳未満の小児に発症し、初期症状としては嘔吐や意識障害が見られ、進行すると急性肝不全や高アンモニア血症を伴う脳症へと発展します。早期治療が予後に大きく影響するため、症状が現れた際は速やかな対応が求められます。

ライ症候群の予防には、特にウイルス感染時に小児にアスピリンやNSAIDsを使用しないことが重要です。

解熱治療の基本は「アセトアミノフェン(カロナール)」です。

※日本におけるライ症候群(ライ様・ライ症候群)と、米国におけるライ症候群(クラシック・ライ)は定義や特徴が異なることに注意。

インフルエンザ患者におけるライ症候群の回避方法とは?

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成人と小児における共通の対策

そもそもインフルエンザ感染症に罹患しないことが肝要です。そのため、基本的な感染予防対策の一つであるインフルエンザワクチンの接種を行いましょう。

ワクチン接種は感染症への罹患を完全に防ぐことはできません。ここで重要なことは、重症化リスクや合併症リスクを下げることにあります。ワクチンを接種しても接種しなくても「罹患するのだから無意味」と結論付けるのは早計です。罹患するリスクを低減させ、罹患したとしても重症化しないような対策を講じることが重要です。

なぜなら、インフルエンザ感染症と一言でいっても、重症度により症状や対応策・治療方法が異なるためです。

以下にインフルエンザ感染症における重症度別の特長をまとめておきます。

+α:インフルエンザ感染症の重症度と重症度別の治療法

1. 軽症
  • 症状: 微熱、軽度の咳、鼻水、喉の痛み、軽い倦怠感など、一般的な風邪に似た症状が見られます。
  • 対応策: 充分な休養と水分補給を心がけ、栄養バランスの良い食事を摂取します。
  • 治療方法: 通常、特別な治療は必要ありませんが、症状が気になる場合は解熱鎮痛剤(アセトアミノフェンなど)を使用することも可能です。
2. 中等症
  • 症状: 38℃以上の高熱、全身の筋肉痛や関節痛、強い倦怠感、頭痛、咳、喉の痛みなどが現れ、日常生活に支障をきたすことがあります。
  • 対応策: 早めに医療機関を受診し、医師の診断を受けることが重要です。
  • 治療方法: 発症後48時間以内であれば、抗インフルエンザ薬(オセルタミビルなど)の投与が検討されます。これらの薬は、発症から48時間以上経過した場合の有効性に関するデータが乏しいことから、発症後早期に投与することが重要です。
3. 重症
  • 症状: 高熱が続き、呼吸困難意識障害けいれん胸痛チアノーゼ(唇や指先が青紫色になる)などの重篤な症状が見られます。特に小児、高齢者、基礎疾患を持つ方は重症化しやすい傾向があります。
  • 対応策: 直ちに医療機関を受診し、必要に応じて入院治療を受けることが必要です。
  • 治療方法: 抗インフルエンザ薬の投与に加え、酸素療法や点滴などの支持療法が行われます。場合によっては集中治療室での管理が必要となることもあります。

成人におけるライ症候群を回避するための対策

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厚生労働省主導の研究報告において、成人においてもインフルエンザ脳症が発症していることが報告されています(文献1)。18~49歳の成人では11%で報告されています。また、致死率は40~64歳(17%)65歳以上(20%)で高いことが示されています。

このため、成人であってもインフルエンザ脳症の発症予防のために、インフルエンザワクチン接種を定期的に行うことが求められます。

一方、ライ症候群の発生については、小児と比較して非常にまれであることが報告されています(文献2)。発生頻度は100万人当たり3人以下、成人は約2%のようです。同報告によれば、30歳代後半の女性(既往歴:バセドウ病)がライ症候群を発症したケースが示されています。感冒症状に対して処方されたサリチル酸を服用した7日後、意識障害・痙攣にて発症していることから、成人であっても患者背景によっては、サリチル酸によるライ症候群のリスク増加を念頭においておきたいところです。

基本的に成人であれば解熱鎮痛薬としてNSAIDsを使用することは容認されます。ただし、NSAIDs使用による脳症リスクについては充分に検証されていません。

患者背景によってはサリチル酸系解熱鎮痛薬、ジクロフェナクなどのNSAIDsでもライ症候群を発症する懸念が残っています(症例ではサリチル酸系解熱鎮痛薬での報告)。

また、ロキソプロフェンについては日本での使用実績が多いため、一見すると問題ないように受け取れますが、裏を返せば研究報告自体が少ないことから、安全性データが非常に限られていることになります。例としてイブプロフェンについて文献検索して対比してみるとよく分かりますので、お試しください。

つまり、ライ症候群に対してロキソプロフェンの使用が、リスクとなるか安全であるか不明であり、検証が不充分であるということです。ライ症候群や脳症リスクの報告がないことと、ライ症候群や脳症リスクがないこととは別物であることを念頭に置きましょう。

NSAIDsの中では、イブプロフェンの使用実績が多く、小児におけるライ症候群の発症リスクがない(正確にはアセトアミノフェンと同様のリスク)とされていることから、アセトアミノフェンが使用できない場合はイブプロフェンを使用した方が良さそうです。ただし、症例報告レベルのエビデンスでは、イブプロフェンの使用によりライ症候群を発症したケースが報告されています(文献3)。

以上を踏まえると、患者背景によってはNSAIDsやサリチル酸でライ症候群を発症する可能性があることから、成人であっても可能な限りアセトアミノフェン(カロナール)を使用する方がリスクベネフィットの観点からはより有効な選択肢であると考えられます。

小児におけるライ症候群を回避するための対策

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これまでの報告により、ライ症候群の発症リスクを増加させる要因として、以下の3つの薬剤が報告されています(文献4、文献5)。このため、インフルエンザなどの感染症においては、以下の薬剤を使用しないことが重要です。

  • アスピリン(サリチル酸):サリチル酸系抗炎症薬
  • ジクロフェナク:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
  • メフェナム酸:NSAIDs

上記以外のNSAIDsについて、リスク評価されている薬剤は限られています。リスクとなるのか、安全に使用できるのかは不明ということです。

日本小児科学会の提言によれば、発熱を有する小児に対する解熱鎮痛薬の第一選択薬は「アセトアミノフェン(カロナール)です。また、5歳以上の小児における第二選択薬は「イブプロフェンです。

上記の提言内では、根拠となる情報が示されていません。そこで、臨床試験を検索したところ、2歳未満の発熱患者におけるアセトアミノフェンとイブプロフェンの使用により、ライ症候群の発症リスクに差がないことが示されているランダム化比較試験がヒットしました(文献6)。また、胃腸出血、腎不全、またはアナフィラキシーによる入院リスクについても差がないとする報告もあります(文献7)。

したがって、上記の提言は妥当であると考えられます。

解熱を期待する場合の基本治療はアセトアミノフェン

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ここまでのレビュー結果から、インフルエンザ感染症・急性上気道炎(感冒)に罹患した発熱患者の場合、小児であっても成人であっても解熱薬としてはアセトアミノフェンを使用した方がよさそうです。

一方、肝機能障害などでアセトアミノフェンを使用できない場合には、どうしたらよいのでしょうか?次項で解説していきます。

アセトアミノフェンが使用できない場合は?

重度の肝機能障害を有する発熱患者では、アセトアミノフェンが使用できない場合があり、患者背景や解熱の必要性、薬物相互作用を考慮した対応が求められます。

肝障害がある患者には、アセトアミノフェンの使用は適していません。しかし、基礎疾患がある場合は発熱が体力消耗や代謝負担を増加させるため、解熱が症状緩和につながることがあります。高齢者や小児では、発熱による脱水やけいれんのリスクがあるため、解熱鎮痛薬の使用を考慮することが重要です。

このため、アセトアミノフェンが使えない場合の解熱薬としては、肝臓への影響が少ないイブプロフェンが選択肢となります。また、物理的な冷却も副作用がないため考慮されます。

薬物相互作用の観点からは、リファンピシンやフェニトイン、アルコール、ワルファリンとの相互作用によりアセトアミノフェンの肝毒性リスクが増大するケースが想定されます。これらの薬剤を使用中の患者においては、アセトアミノフェンは使用しづらいところですが、肝機能評価に基づくアセトアミノフェンの用量設計を実施することで、より有効にアセトアミノフェンを使用することが可能であると考えられます。

まとめ

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インフルエンザ脳症とライ症候群は、いずれもインフルエンザ感染後に発症する重篤な神経系の合併症ですが、原因や治療法が異なります。

特にライ症候群は薬剤性の有害事象であることから、発熱患者に対する適切な薬剤選択が求められます。成人でも小児でもライ症候群のリスクを低減させるためにアセトアミノフェンの使用を第一選択とし、アセトアミノフェンが使用できない場合はイブプロフェンの使用を考慮しましょう。

また、そもそも解熱する必要があるのか?については、一考してみることをおすすめします。どのような患者で積極的な解熱が求められるのか、リスク評価が肝要です。

参考文献

  • インフルエンザ脳症ガイドライン【改訂版】. 厚生労働省. 平成21年9月.
  • 【文献1】Nagao T, Morishima T, Kimura H, Yokota S, Yamashita N, Ichiyama T, Kurihara M, Miyazaki C, Okabe N. Prognostic factors in influenza-associated encephalopathy. Pediatr Infect Dis J. 2008 May;27(5):384-9. doi: 10.1097/INF.0b013e318162a13b. PMID: 18398388.
  • 【文献2】茶家美由希 著. 成人ライ症候群の一例. Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集). 2010. セッションID: P3-078. DOI https://doi.org/10.14900/cjpt.2009.0.B4P3078.0
  • 【文献3】Hongo T, Momoki N, Mae S, Nozaki S, Takahashi K, Fujiwara T. A rare case of Reye’s syndrome induced by influenza A virus with use of ibuprofen in an adult. Acute Med Surg. 2019 Sep 2;7(1):e457. doi: 10.1002/ams2.457. PMID: 31988769; PMCID: PMC6971472.
  • 【文献4】Nagao T, Morishima T, Kimura H, Yokota S, Yamashita N, Ichiyama T, Kurihara M, Miyazaki C, Okabe N. Prognostic factors in influenza-associated encephalopathy. Pediatr Infect Dis J. 2008 May;27(5):384-9. doi: 10.1097/INF.0b013e318162a13b. PMID: 18398388.
  • 【文献5】Mizuguchi M, Yamanouchi H, Ichiyama T, Shiomi M. Acute encephalopathy associated with influenza and other viral infections. Acta Neurol Scand. 2007 Apr;115(4 Suppl):45-56. doi: 10.1111/j.1600-0404.2007.00809.x. PMID: 17362276.
  • アセトアミノフェン製剤の在庫逼迫に伴う、成人患者への解熱鎮痛薬処方時のご配慮のお願い. 日本小児科学会. 令和4年11月29日.
  • 【文献6】Lesko SM, Mitchell AA. The safety of acetaminophen and ibuprofen among children younger than two years old. Pediatrics. 1999 Oct;104(4):e39. doi: 10.1542/peds.104.4.e39. PMID: 10506264.
  • 【文献7】Lesko SM, Mitchell AA. An assessment of the safety of pediatric ibuprofen. A practitioner-based randomized clinical trial. JAMA. 1995 Mar 22-29;273(12):929-33. PMID: 7884951.
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